果てのない箱の内側

鳥居ぴぴき

1日目

 別に隠すつもりもないけれど、見つかってもあまりいい気はしないな。

 俺は緑色の虹彩をつけた眼球をつまみ上げていた。この宝石のような緑は北欧に多いらしい。

 サイズは人の物の三分の一ほど。そのガラスで出来た精巧な眼球は冷たくてしっとりとしている。

 高校の入学式を終えたばかりの俺は新しい制服に身を包み、学校から少し離れたところにあるドールショップに来ていた。

 この店は、住宅街の奥にその店を構えている。何軒かまとまって建っている住宅の道を左、右と進んでいくと、なにもない空き地に出るのだが、その左側だ。

 イーゼルに立てかけた黒板が看板代わりで、手書きで可愛く『琥珀』と書かれている。

 店構えは小さくまとまっていて、天井も低い。運動をしない割にすくすくと育った俺には少し窮屈だ。入り口がある面はすべてガラス張りになっていて、店内のどこからでも外が見通せる。

 他は特徴がない建物だ。ガラス張りではあるんだけど、看板が立ってなければお店だとは思えないほど。

 緑色の眼球を見つめ、家にいる未完成の人形のことを考えていると、じっと本を読んでいたお店のおじいさんがドアの方を見た。

 俺もつられてドアの方を見る。同じ制服を着た男が真っ直ぐ俺の方に向かってきていた。

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