記録 被災者B

そうですね。私たちはこの辺りに住んでいるわけではないですが、

少し不思議な体験なら……聞いたことはあります。ちょうどこの山の話ですね。

登山道はしっかり整備されているので、初心者に人気ですね。ええ。階段もありますし、獣道を歩くなんてありません。

途中には休憩スペースもあって、自販機も完備してます。まさに今時って感じですね。

特に今のシーズンはたくさんの人で賑わいます。

私もこのサークルの代表なので毎年たくさんの人と登山を楽しむわけです。

ただその日は、新しく入った子がいて、ちょっと変わった子だったんですね。

いわゆる視える子だったらしくて。

それだけだったら良かったんですけどね。

たまにそういう子はいますし、私はそれほど気にしていませんでした。でもその子、暗くて、輪に入ろうとしないんですよ。

私たちのサークルって仲良しで通っていたので、あまり評判が下がることはやめてほしかったんです。

とりあえず、朝は注意だけで済ませました。だってそうじゃないですか。

遅れてきたのに謝りもしないし、輪を乱す一方だったんですよ。

まあでもそれから周りのみんなもいいからって言ってくれたので、

そのまま登ることにしました。

私はあまり許せてなかったんですけど一応、代表なので大目に見ることにしたんです。

そのあと、いつも通りにおしゃべりしながら登って行ったんですが

ちょうど中盤辺りで曇ってきたんですね。すぐに雨が降ってきちゃって。

帰り道で休憩する予定だったんですけど、休憩しなきゃいけなくなっちゃって。

ちょうど誰もいなかったので私たちみたいな大所帯でもなんとか休むことできて、不幸中の幸いだったんですけど。

それからしばらくしてその視える子……すいません、夏子って名前で呼びますね。

夏子が急に珍しいもの見つけたって笑ってるんですよ。

それまでの暗い雰囲気とは全然違うくて。それでまあ……なんというか夏子、その暗さを除けば

結構男ウケが良くて、結構な人数が食いついたんですね。

それで夏子が言うには獣道の先に面白いものがあるって何人か引き連れていったんですよ。

でも、それも変な話で、この辺り何回も来てるはずなんですけど

私も初めて来たときとか興奮して散策したことあるんですけど獣道なんて見つけたことないんです。

変な感じがしたんで、休憩所を副代表の子に頼んでついていくことにしたんです。

それで、本当に獣道があって、ただその獣道もなんというか動物が通った道、というより大勢の人が踏み均したって感じだったんです。

男性陣は相変わらず夏子を取り囲んでいてあんまり気にしていない様子だったんですけど。

その先にあったのは亀裂……というか穴?ですかね。

結構大きな穴で、ちょっと渦巻きっぽくなっていて、地盤沈下っていうんですかね。

私も代表なので危なそうなところに行くときは止めているんですが

その時、みんな様子がおかしくて、みんな下に行くっていうんですよ。

夏子はそれを見ながら笑っているだけで、私は段々腹立ってきて

引っ張ってでも全員連れ戻そうとしたら逆に私だけその穴に滑り落ちちゃって、

でも怪我とかはなくて、というのも下に人がいたんです。

後から考えたらびっくりですよね。そんなところに人がいるとは思ってもみなかったんですけど、

助かったのと……その、助けてくださった男の人がかっこよくて、ちょっと安心しちゃったんです。

その人が言うにはその穴はちょっとした洞窟になってて、その奥に階段があるから出られるよって。

その人はまだここにいるからっていうので私は一人で奥に進むことにしました。

といっても突き当りはすぐで、階段もすぐ見つかったんです。たぶん五分も歩いてないですね。

それから地上に戻ったら穴の前には誰もいなくて、怒りながら戻ると

誰もその穴も獣道も知らないっていうんですよ。

夏子も笑ってなんかないし、いつも通りの暗い表情でした。

それからそこに戻ろうとしても戻れなくて、なんだか不気味になっちゃってサークルも辞めちゃったんです。

あの穴ってなんだったんですかね。

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