第45話 最強の吸血鬼
「どうしてなのよ!? どうして私はこんな目にあったのに、アンタだけハッピーエンドになってるのよ!?」
さっきまで鳴り止んでいたノイズもといクソ妹が、ヒステリックに騒ぎだした。
マジか~、ものすごーくめんどくさいんだけど。
やっと一段落ついたってのに、今度は精神攻撃ってわけ?
「うっさいわよ。私だってなんでもかんでも全てがうまくいってるわけじゃないわ。ついさっき私が死にかけてたのはアンタも見てたでしょ?」
「見てないですわよ!」
「え?」
「姉貴、この人たちうるさかったんで、ついさっきまで麻痺毒で気絶させてたっす!」
「あ、そう」
このクソ妹は昔からいつもこうだった。
努力も何もしないくせに、お姉様はズルいだのいつも喚いていたわ。
その性分は三年たっても全く変わらなかったようね。
「醜い化け物に変わり果てたアンタは悪役令嬢のはずなのに……!」
「百歩譲って私が小説に出てくるような悪役令嬢だったとしても、そう簡単に死ぬわけがないじゃない。私の人生の主人公は私なんだから、バッドエンドなんて受け入れるわけないっつーの」
私がそう言うと、クソ妹は悔しそうに俯いた。
間髪入れずに、さらに追撃を加える。
「一つだけ言わせてもらうわ。私が悪役令嬢だろうとなかろうと、アンタは小説の主人公のようにはなれないわ。何もせずに不満を言ってるだけの人間が、都合よくハッピーエンドを迎えられるはずがないもの。他人にどうこう言う前に、まずは自分の生き方を変えてから文句言いなさいよ」
今度こそクソ妹は、憎々しげな眼をしながらも静かになった。
あー、スッキリした。
せっかくのハッピーエンドを邪魔させたんだから、このぐらいは言ってやらないとね。
あ、そうだ。
ちょうど都合よくクソ親父やクソ皇帝がいるんだし、ちょっと脅すとしましょう。
私は、恐怖の眼差しで私を見てくるクソ親父と皇帝のほうを向いて。
威圧的なオーラを出しながら話しかけた。
「なんか鬱陶しいから、私の指名手配を取り消しなさい。拒否するんだったら、帝国を潰しちゃうかもね」
そう言って笑いかけると、クソ親父とクソ皇帝は青い顔をして顔が千切れそうなほど上下に首を振った。
「お姉様お姉様」
脅迫タイムが終わったタイミングで、アリアが声をかけてきた。
私はアリアのほうに向きなおる。
「この人がお姉様とお話ししたいんだって」
アリアが指さす先には、皇女がクララの後ろに隠れるようにして立っていた。
やっぱり怖がられてるのかしら? 怖がられてるんでしょうね。
「ほら、姉貴は怖くないですよ。頑張ってください!」
クララに後押しされた皇女が、おずおずと私の前に出てきた。
それから――私に向かって頭を下げた。
「助けていただきありがとうございました!」
こうして正面からお礼を言われると、ちょっとむず痒いわね。
「頭を上げなさい。皇女なんだから、そんなに簡単に頭を下げちゃダメよ。今の私は平民なんだから」
「いえ、命を助けていただいたんだから、これくらい当然です!」
キラキラの瞳がまぶしいわ。
改めて感じたけど、あのアホ皇太子の妹とは思えないくらいいい子ね。
「リリスさんの指名手配については、私に任せてください! 絶対に解除させます!」
「そう、なら任せるわよ。頼りにしてるわ」
「はい! リリスさんが堂々と帝国内を歩けるようにします!」
その後もしばらく皇女と話して。
逃げるように魔王城を去っていった皇帝たちと、召喚術で呼び出したワイバーンに乗って颯爽と飛び去っていく皇女を見送ってから。
私は師匠に勝利の報告をした。
それから師匠の亡骸と愛剣を【無限収納】に仕舞う。
師匠のお墓は彼の故郷に立てるつもりよ。
「やっとすべてが終わりましたね」
「ええ、そうね」
魔王城に侵入する時に私がぶち破った壁から、空を眺める。
来た時は闇夜に包まれていたけど、今は青い空がどこまでも続いていた。
「清々しいわね」
「ハッピーエンドって感じですね。そういえば、皇帝たちにケンカを売る前にニヤニヤしてたのはなんだったんですか?」
「アリアもそれ、すごく気になる!」
「あれは喧嘩を売ったんじゃなくて、脅しただけよ。それで私がニヤニヤしてた理由だけど――」
これは話すより直接見せたほうがいいわね。
私も気づいた時はびっくりしたんだから、二人が知ったらめっちゃ驚くんじゃないかしら?
反応が楽しみだわ。
「【魔王城修復】!」
私がスキル名を唱えると、魔王城があっという間に魔王と私が戦う前の状態に戻った。
「すごい! おしろがきれいになった!」
「ちょ、なんで姉貴が魔王城に干渉できてるんですか!」
「え? クララどういうこと?」
驚いた様子のクララと全然何もわかっていなさそうなアリアを見てから、私は大きな声で元気よく宣言した。
「私はこの度、三代目の魔王となりました!」
その言葉を聞いた二人は、一瞬静かになってから騒ぎ出した。
「姉貴スゲー! マジパネェっす!」
「お姉様すごい! アリアも魔王になりたい!」
私のことを尊敬の眼差しで見てくる二人を落ち着かせてから、私は事の顛末を説明した。
「魔王を倒したことで、私が次の魔王に認定されたみたいよ。【鑑定】したら分かるけど、私には【不倒の魔王】って二つ名がついてたわ」
「不倒とかお姉様にピッタリな二つ名じゃないですか!」
「お姉様、あの椅子に座ってみて」
私はアリアにせがまれて、仕方なく超越の魔王が使っていた玉座に座ってみた。
足を組んで、頬杖をついてから、口角を片方だけ上げてみる。
どんな感じかしら?
「めっちゃ似合ってますよ、姉貴!」
「うん! 悪のオーラがぶわああ~っと出てる!」
「せっかく魔王になったんだし、悪いことをするわよ!」
「記念すべき一回目の魔王活動ですね!」
「私の【無限収納】の中にはたくさんのスイーツが入っている。この意味が分かるかしら?」
「はっ!? もしや……!」
「まさか……そんな……!」
迫真の演技をする二人に向かって。
「祝勝会というわけで、今日は何も気にせずスイーツを食べまくるわよ!」
「スイーツ食べ放題サイコー!」
「悪のスケールが小さいっすね」
実家を追放されてから早三年。気がついたら魔王になっていた私は、ハッピーエンドを謳歌すべくスイーツを貪るのだった。
――完――
実家を追放されてから早三年。気がついたら最強の吸血鬼になっていた私は無双する。あと、気がついたら百合ハーレムができてた 狐火いりす@『不知火の炎鳥転生』商業化! @The-kitakitune
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