第44話 “超越の魔王”レイ
「レイ、お前は絶対に強くなれる」
「ええ。だって、私たちの子供なんですもの」
懐かしい声がした。
私の意識は
それに伴って、意識がだんだん
……これが走馬灯というやつか。
これは私がまだ人間だったころの記憶だ。
私は帝国のしがない子爵家の子供として生まれた。
両親は元は平民だったが、Sランク冒険者となり大きな成果を上げたことで、当時の皇帝から爵位を授かった。
そして、男爵になったのだ。
その両親の貴族の位が子爵に格上げされたタイミングで、私はこの世に生まれてきた。
両親は私を心の底から大切に育ててくれて、私はそんな両親が大好きだった。
そんな両親のために、私は貴族として活躍することで恩を返そうと思った。
獄炎の魔術師と呼ばれた母と、剣聖と呼ばれた父の息子なのだ。
私も絶対に強くなれる。
実力主義の帝国で、私も活躍できるのだと。
――そう思っていた。
だが、現実は違った。
私は魔法の適性がないどころか、魔力ゼロだった。
それどころか、剣も槍も弓も武術も。
何もかも、全ての才能すらゼロだった。
そこから私の生活は一変した。
周りの貴族たちから蔑まれ、馬鹿にされ、出来損ないだと笑われて。
魔術や剣術などの的にもされた。
両親はそんな私に、態度を変えることなく優しく接してくれた。
「レイ、お前はお前のペースで頑張ればいい」
「私たちは何があっても絶対にあなたのそばにいてあげますからね」
私はそんな両親のために、誰よりも努力した。
魔力も適正も才能すらも、全部努力だけで埋めてみせる。
不可能なんて超えて見せると。
その執念の果てに、私は周囲の大気に含まれる魔力に直接干渉して魔法を使う技術を編み出した。
この技術なら、魔力も適正も何も関係ない。
理論上全ての魔法を扱えるし、魔力も無限に使える。
世界中の魔力がすべて自分のものになったのと同じなのだから。
だが、当時の皇帝は私のその技術を許さなかった。
火・水・土・風の四大属性に飽き足らず、氷・雷・光・闇・回復属性までもを扱えた皇帝は、自分こそは神に選ばれた特別な存在なのだと自負しているような奴だった。
その結果、魔法の深淵にたどり着いた私を待っていたのは破滅だった。
私の家族が冤罪を着せられて処刑された。
皇帝と、皇帝と同じ考えだった当時のルノワール公爵家によって成すすべなく。
「貴様が悪いのだよ、レイ。貴様が
罪人として囚われ、家族の処刑を目の前で見させられた私は、絶望の底で処刑された。
そして気がつけば、私はアンデッドとなっていた。
だからこそ帝国に復讐するために、今度こそ魔法も武術も何もかもを極め。
そして、気がつけば魔王となっていた。
走馬灯はそこで終わった。
走馬灯は“これまでの経験から死を回避するために見る”と聞いたことがあったが、私には死を回避することは不可能なようだ。
する気もないが。
……私の人生はむなしいだけだった。
この生き方にはもう疲れた。
「アンタみたいにいつまでも後ろばっかり見てるやつに負ける気はないわよ!」
ふと、あの吸血鬼の姿が頭に浮かんだ。
理不尽に公爵家を追放されて、命を狙われて。
なのに、あの女は決して絶望することなく前を向き続けていた。
……後ろばっかり見てるやつ、か。
私は大切な家族を殺されて、前を向けるほど強くはなかった。
だからこそ……彼女が少しばかり羨ましくもあった。
絶望に打ちのめされて、仲間だと思っていた人間からすら手のひらを返されて、他人を信じることなどできなくなった私とは違って。
彼女は仲間と心でつながっていた。
私にも仲間と呼べるような存在がいれば、何か変わっていたのだろうか?
考えてもしかたがないか。
……結局、私は何も成すことができなかった。
両親のために活躍することも、復讐すらも。……せめて、もう一回でも父さんと母さんを笑わせてあげたかったな。
「レイ、今までよく頑張ったな」
「百年近く孤独でつらかったでしょう?」
ふと、私の耳に声が届いた。
懐かしい、聞き間違えようのない両親の声。
それは、走馬灯よりもハッキリしていた。
まるで、すぐそこにいるような――。
後ろを振り向いた私は、思わず声を漏らした。
「父さん!? 母さん!?」
驚くことしかできなかった。
死んだはずの両親が、私の目の前に立っていたのだから。
「先に死んじゃってごめんなさいね」
「いつでもお前のそばにいるって言ったのは俺たちなのに、そばにいてやれなくてごめんな」
「これからはずっとそばにいますから。悲しみも怒りも忘れて、今は休みなさい。貴方に暗い顔は似合いませんもの」
幻覚でもなんでもない。
そこにいたのは、本物の両親だった。
この温もりを忘れるはずがない。
間違えようもなかった。
「お前が必死に頑張ったのは、冥界からしっかりと見たよ。強くなったな」
父さんが私の頭にポンっと手を乗せた。
それから優しく撫でてくれた。
「貴方が私たちの子供であることをとても誇らしく思ってますよ。貴方は私たちの自慢の息子です」
母さんが私を優しく抱きしめてくれた。
復讐とか、恨みとか、怒りとか。
そういった感情は一瞬で消え去った。
「父さん、母さん。気持ちはすごくうれしいが……私は取り返しのつかないことをしたんだ」
私が吸収した地獄はとっくに解放されている。
これから私はそこに向かって、今度こそ地獄行きになるだろう。
そんな場所に二人を連れていくわけには――。
「言ったでしょう? 私たちはいつでも貴方のそばにいるって」
「お前の罪を、俺たちも一緒に償うよ」
「ええ。罪を赦される時まで私たちは三位一体ですよ」
「なんかちょっと違う気もするけど……要は運命共同体ってやつだよ」
昔と変わらず、どこまでも優しくて。
私の尊敬する両親は素晴らしい人だ。
私は涙をぬぐう。
情けない顔など見せたくない。
「ありがとう。だが、ほんの少しだけ待ってくれ。まだ、やらないといけないことがあるんだ」
私は“超越の魔王”だ。
だから、もう一度だけ超越させてくれ。
まだ、戦いは終わっていないんだ。
まだ、やらねばならないことがあるんだ。
◇◇◇◇(Side:リリス)
私は魔王を見た。
すぐにでも命は尽きるだろうけど、戦いはまだ終わっていない。
警戒しながら魔王を観察していると、魔王がゆっくりと口を動かした。
最後のあがきだって乗り越えてみせるわよ! そう思って身構えたんだけど……。
魔王の口から出てきた言葉は、予想外のものだった。
「……【置き土産】、解除……」
魔王がゆっくりと口を閉じる。
それと同時に息を引き取った。
私は気を抜かずに身構え続けたけど、何も起こることはなかった。
【置き土産】。
それは高位アンデッドが持っているスキルで、スキル保持者が死んだ時に周囲に呪い系統の災いをもたらすというもの。
魔王クラスの【置き土産】になれば、最低でも帝都にいる人たちは全員死に絶えるくらいの効果はあると思ってたけど……。
魔王に何があったのかしらね。
あれだけ復讐に燃えていた魔王が、自分で【置き土産】を解除しちゃうなんて。
……死の間際に一瞬見せたあの表情。
憑き物が落ちたような晴れやかな顔をしていた。
何かいいことでもあったのかしらね。
まっ、良く知らない魔王の過去を考えたって仕方ないわ。
いいことなら私にもあったんだからね。
「二人が無事でよかったわ」
そう言いながら、私はアリアとクララを抱きしめた。
ホントに二人が無事でよかったわ。
この二人にもしものことがあったら、私も魔王みたいに闇落ちしてたわよ。
危うく世界の半分を無に還すところだったわ。
あっ、いいこと思いついたわ。
「あれ? 姉貴、悪い笑みを浮かべてどうしたんですか?」
「何か面白いことでも思いついたの?」
「ええ。思いついちゃったわ」
私がソレを二人に話そうとした時――。
「どうしてなのよ!? どうして私はこんな目にあったのに、アンタだけハッピーエンドになってるのよ!?」
さっきまで鳴り止んでいたノイズもといクソ妹が、ヒステリックに騒ぎだした。
マジか~、ものすごーくめんどくさいんだけど。
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