第16話 最強吸血鬼はお金が欲しい
『フッフッフ。汝よ、次はどう動く?』
「こう!」
『フッ。我輩の勝ちだ。なんで負けたのか考えておくことだな!』
「あああああああああああ負けたぁぁあああああああ!!!」
体の主導権をとっかえひっかえしながらチェスをするアリアとアスモデウス。
「なんだかんだ仲いいわね」
「ですね」
リリスとクララが、そんな二人を微笑ましそうに見ていた。
「もう一回! もう一回戦おう!」
『フッ。ハンデとして、汝には一ターン二回行動を許そう』
「舐めプしていいの? アリアが勝っちゃうよ?」
『我輩を侮るではない』
前世は人間だったというアスモデウス。
彼は人間時代、チェスの大会で全戦全勝・不敗・二十年連続優勝とかいう、まごうことなきチェスの世界最強プレイヤーだった。
悪魔となった今でもその実力は衰えておらず、ハンデなど存在しないかのように華麗にアリアを打ち破った。
『ハハハ。汝など一ターン三回行動を許しても勝てるわ!』
「ぎゃいーん! お姉様、アリアの仇を取って……!」
アリアが涙目でリリスに助けを求める。
ハンデを与えられても勝てなかったのがよほど悔しかったようだ。
「任せなさい。こう見えて私は、公爵時代にはチェスも嗜んでいたのよ。少しだけど」
『フッ。汝にも一ターン二回行動を許そう。我輩を楽しませるといい』
「それは私を舐めすぎなんじゃないかしら? 後悔させてあげるわよ」
十数分後。
白熱した接戦の末に勝利したのは、アスモデウスだった。
『フハハハハ。なかなかいい勝負だった。満足だ』
「アリア、ごめんね……。私は敗北者みたい」
リリスがベッドに倒れ込んだ。
「クララ……」
リリスが横目でクララを見る。
「実は私もチェスが得意なんてことはないから、私は戦いませんよ。なんならチェスのルールすら知らないです。さっきまで雰囲気で盛り上がってましたもん。一ターン四回行動しても勝てる気がしないですよ」
『フッ。我輩の圧勝だな』
「悔しいけど認めるしかない。よしおは強い」
『だから変なあだ名で呼ぶのはやめろとあれほど――』
チェス大会が終わって一息ついた後。
「お金がほしい」
リリスが真顔でそう言い放った。
彼女たちは売れば高価になる素材をいくつも持っている。
が、売りさばく手段が闇市くらいしかないのだ。
指名手配犯と亜人種(人族以外の種族のこと)である彼女たちは、ギルドで売りさばくといった目立つことはできないのだ。
帝国での亜人種の扱いだが、見つかれば即奴隷狩りされる。
普通の奴隷は、階級にもよるが最低限の人権くらいはある。
が、亜人奴隷は全くない。
死の危険が伴うような重労働から、性的な奉仕など死ぬまで使い潰される。
それが帝国での亜人の扱いだ。
三人ともただの人間程度に負けるほど弱くはないが、見つかればそれだけで面倒なことになるのは確実だ。
「そんなわけで、目立たずにお金を稼ぎたいのよ。高級宿に泊まってばっかりだと、出費が結構痛いからね」
『うむ。それなら我輩にいい案がある』
アスモデウスが自信ありげに宣言した。
「目立たないのかしら?」
『いや、目立つ。が、そこは我輩に任せておけ。目立つ目立たないの問題は心配しなくてよい』
アスモデウスの秘策を信用することにしたリリスは、詳細について教えてもらうのだった。
「へ~。アスモデウスの故郷の街で開かれる武闘大会ねぇ。そんなのがあるのね」
『うむ。毎年開催されている伝統的な行事である。毎年この時期に開催されている故、今からその街に向かえば間に合うであろう。もとより、我輩との契約で我輩の故郷に行くと約束したのだ。ちょうどいいではないか』
「決まりね。アスモデウスの故郷に遊びに行って、武闘大会で優勝して賞金ゲット。これが私たちの次の目標よ!」
「「おー!」」
こうして、暇を持て余していた一行の次の目的が決まった。
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