第15話 悪魔の取引
『我輩と取引しようじゃないか』
アリアの口から出たのは、聞いたことのない男の声だった。
「アンタは誰よ? まず名乗りなさい。アリアは無事なのかしら? ことによっちゃ、殴るわよ?」
リリスが敵意を隠さず問いかける。
『これは失敬。我輩は
「覚えてない」
『鳥頭か、貴様は!』
唖然とするリリスとクララの前で、アリアと
アリアの体で一人二役みたいに言い争うものだから、シュールすぎることこの上ない。
「アリア、体乗っ取られてるのは大丈夫なの……?」
リリスが恐る恐るといった感じで聞いた。
『問題ない。我輩はアリアに憑依しているだけであるからな。受肉ではないから、体を乗っ取ったわけではない。
「お姉様、これ結構楽しいよ」
『楽しむな! あと、我輩が喋り終わるまで黙っとらんか!』
「あ、そう」
「なんか、心配して損した気分です」
「そうね」
リリスとクララがため息をつく。
アリアの自我を無理やり抑え込んだ
『我輩の名はアスモデウスだ。我輩と取引しようじゃないか』
「取引内容は?」
リリスが鋭い目を細めて問いかける。
アスモデウスと名乗った
『まず前提として、悪魔は憑依もしくは受肉しないと現世に顕現し続けることができない。二十四時間で強制的に魔界に戻される。それはわかるな?』
「もちろんよ。公爵時代に習ったわ」
『我輩は元は人間でな。久しぶりに故郷に帰りたいのだ。だから、暫くの間この少女の体を借りたい』
「そして、私の体でエッチなことをして気持ちよくなりたいと? この変態め!」
『色欲ドラゴン女よ。貴様は一回黙ろうか』
再び始まるコント。
リリスとクララが呆れた顔で傍観していたら、気絶していた男が息を吹き返した。
「その声は……! 悪魔召還したのに話も聞かずにどこかへ行ったあの悪魔か!」
男がアスモデウスに向かって叫ぶ。
どうやら、アスモデウスをこちらの世界に召喚したのはこの男だったようで。
『いや、悪魔にだって自由権はあるが?』
「そうだそうだ! 人権を尊重しろー!」
『それと我輩からアドバイスだ。子供三人を供物にしただけじゃ、下級の悪魔すら呼び出せんぞ。供物が足りとらん。今回は魔界につながった小さな穴を、我輩が向こう側からゴリ押しで広げたから顕現できただけだ』
「そういうことだって。わかったらもう一度寝てなさい」
リリスが男をもう一度気絶させた。
話し合いには邪魔だと判断して。
「話を戻すけど、最後はちゃんとアリアを開放するんでしょうね? もちろん洗脳とかせずに」
『もちろんだ。なんなら契約魔法で契約書を書くか? 破ったら代償として命を支払うという契約なら、お互いに破ることはできないだろう?』
「それならいいわ」
憑依したアスモデウスをアリアの体から追い出す術を持たないリリスは、アスモデウスの出した条件が悪くなったからすぐに同意した。
そういうわけで、最強吸血鬼と
アスモデウスが故郷で過ごす間、アリアの体に憑依するという内容で。
「興味本位で聞くけど、アスモデウスはなんでアリアに憑依したのよ?」
捕らえた男たちを引きずって村に戻る途中、リリスがそんな質問をした。
『うむ。憑依するならそこそこ強い人間がいいと思ったのだが、ちょうど都合よくアリアがいたってわけだ』
「むー。抵抗したけど勝てなかった」
『嘘をつくな。宿で腹出して涎垂らして寝てただろう。我輩が憑依する時も一切抵抗してこないほどぐっすり眠っておったではないか!』
「はっ!? そういえば、お姉様とクララだけ二人で出かけててズルい!」
即座に話をそらしたアリア。
リリスは苦笑しながらも答える。
「あー、お土産たくさん買ったから、後で一緒に食べましょ。おいしいものがいっぱいあるわよ」
「やったー!」
『汝よ、チョロすぎないか? ……それはそうとして、汝たちがいた街は食の都と呼ばれているところだったな。今の我輩は憑依したことで味覚があるから、久しぶりの美味な料理を堪能するとしよう』
「私が一人で食べるから、おにぎりよしおにはあげない」
『フッ。我輩と汝は一心同体。故に味覚も共有されているので問題ない……って、我輩に変なあだ名をつけるな! アスモデウスという悪魔的で素晴らしい名前があるのだからな!』
「これから騒がしくなりそうですね」
「そうね」
村まで戻った三人は、捕まえた男たちの処遇は村人たちに任せて帰路についた。
メアリと他の村人たちに感謝されながら。
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