第9話 風呂とエロ

 部屋に案内された私たちは、さっそく温泉を堪能すべく脱衣所に向かった。

 貸し切りなので、私たち以外には誰もいない。

 近くにひとの気配もない。


 だから何も気にせずに服を脱いで、脱衣所に設置されている篭ではなく【無限収納】に仕舞う。

 そんなことは起こらないだろうけど、このドレスを盗まれるわけにはいかないからね。


 もしもこのドレスを盗まれたら、私は取り返すまで下着生活確定だもの。

 呪いの対象は私で固定されてるからね。


「おっぱい……! お姉様のおっぱいおっきい……!」


「姉貴エロい……! 最高……! 眼福……!」


 クララが鼻血を吹きながらグッドポーズをしてきた。


「二人とも私の体じゃなくて温泉を堪能しなさいよ。はい、このタオル使って鼻血拭きなさい」


「サンキューです」


 私は二人を連れて温泉の中に足を踏み入れる。


 露天風呂という屋外に温泉があるタイプだったので、上を見上げたら雲一つない青い空が広がっていた。


「夜に見上げたら、さぞかしきれいなんでしょうね」


「じゃー、夜になったらもっかい来ようよ」


「そうね。そうしましょ」


「私も賛成です。それで私からの提案なんですけど、みんなで背中を流し合いっこしましょうよ」


 エルフの里には当たり前だけどお風呂なんてものはなく、クララは温泉で背中を流し合うのに憧れていたみたい。

 アリアも私も満場一致で賛成して、背中の流し合いっこが始まった。



 アリアがクララを。

 クララが私を洗う。

 すぐに私がアリアを洗う番が来て、アリアの背中を洗ってあげていたんだけど。


「ねえねえ、お姉様にお願いがあるの」


「何かしら? 遠慮なく言っていいわよ」


「お姉様のおっぱいで背中を洗ってほしい!」


「どストレートに来たわね。で、どういうことよ?」


 首をかしげる私に、クララが分かりやすく丁寧に説明してくれた。

 曰く、クララが昔買った官能小説に、巨乳の美少女が自分の胸で好きな相手の背中を流すシーンがあったようで。

 アリアはそれに影響されたみたい。


「こうかしら?」


 私はアリアの背中に胸を押し当てる。

 そのまま動かすと。


「ふぁ~、背中に柔らかい感触が……。うへへ」


「う、羨ましいです……!」


「クララには夜にもう一度来た時にしてあげるわよ」


「やったー! 楽しみにしときますね!」



 背中の流し合いっこが終わったら、本命の湯船へ。

 まずは足先からつける。


「いい湯加減だわ」


「私にはちょっと熱いです」


「アリアは全然平気!」


 私とアリアは、温泉に肩まで浸かった。

 お湯の熱さが体の芯に染み渡る。

 この熱さが心地いい。


「ふ~、気持ちいいわね」


 ダンジョンの時の川の水を温めただけのアレとは段違いね。

 本物の温泉は最高だわ。

 ああ、この街に来てよかった。


「お姉様のおっぱいも気持ちいい」


「む~、アリアだけリリスお姉様の膝の上に乗せてもらえるなんてズルいです! お姉様の巨乳によりかかるとか羨ましいんですけど!」


 遅れて湯につかったクララが文句を言ってくる。


「はいはい。もう少ししたらクララに交代ね」


「はーい」


「聞き分けがいいわね。えらいえらい」


「お姉様はエロいエロい」


 アリアを膝の上から降ろしてクララを乗せる。


「ボインボインで気持ちいいです」


 クララが気持ちよさそうに声を漏らす。

 私の膝の上から降りたとたんバシャバシャと泳ぎ出したアリアを注意してから、私は二人に話しかけた。


「二人は私の仲間になって良かったのかしら?」


「んーっとね、最高だよ。お姉様と一緒だと楽しいもん! もちろんクララもだよね?」


「当たり前ですよ! スリルとワクワクとエロいっぱいの生活楽しいです!」


 私は二人をギュッと優しく抱きしめた。


「私も二人と一緒で楽しいわよ」




 温泉を堪能して戻って来た私たちを待っていたのは、豪勢な料理だった。

 貸し切りにする時に多額のお金を握らせたのもあって、そこらの高級料理店を軽く超えるメニューが並んでいる。


 高ランク魔物のお肉の一番いい部位を、惜しげもなく数種類の調味料を使って焼いた物。

 新鮮な野菜を使った贅沢な一品。

 火山灰を利用して作られたこの街の特産品である干物。

 高級なワイン(三人とも飲めないから、旅館のスタッフにお返ししたわ)など。


「「「いただきまーす」」」


 のんびりと温泉に浸かっていたのもあって、すでに日が沈みだしている。

 いい感じにお腹が空いていた私たちは、すぐに食べ始めた。


 まずはお肉を一口パクリ。

 数多の魔物に抗ってきた私でも、この食欲をそそる香ばしい匂いには抗えないわ。


「ん、おいしいわね」


 噛んだ瞬間、熱々の肉汁が口の中に広がる。

 肉汁の中にお肉の旨みと調味料の風味が同居していて、素晴らしいおいしさに仕上がっていた。


 公爵時代に食べてた料理は高価な調味料をふんだんに使いまくったって感じのが多かったけど、これは違う。

 高級さに憑りつかれたような料理ではなく、おいしさを極限まで追求した料理だった。


「お肉がおいしい! あむ! はむ!」


「こっちの野菜もおいしいですよ! 素材の味がこれでもかと表に出されてます! 新鮮な素材の味が生き生きしてて最高ですよ!」


「こっちの干物もほんのり甘みがあっておいしいわね」



 豪華な夕食を堪能した私たち。

 もう一度温泉に入ってきれいな夜空をゆっくりと眺めたり、約束通りクララから吸血したりして。


 今日の楽しかった出来事などをいっぱい話してから、私はベッドにもぐりこんだ。

 高級旅館だけあって、ベッドがフカフカだわ。

 まあ、超強い鳥の魔物の毛皮で作った手作りベッドのほうがフッカフカだけど。


「……って、なんで二人とも同じベッドに入ってくるのよ?」


「お姉様と一緒に寝たい!」


「私もです」


「いいけど、寝てる時に蹴らないでね。特にアリア」


「はーい」


「それじゃあ、おやすみなさい。いい夢見るのよ」


「おやすみ。いい夢見てくる」


「姉貴もいい夢見てくださいね。では、おやすみなさい」



 ベッドに入った私たちは、すぐに心地いい睡魔に誘われて眠りについた。

 けど、夢を見る間もなく目が覚めることになった。

 いきなり響いた轟音と、街から昇った火の手によって。

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