第3話 二度目のダンジョン踏破

「飽きた。スローライフ、暇」



 召喚魔法で頭を抱えまくった数日後の朝。

 私は目を覚ますなりそう呟いた。


 だって、代わり映えしない日常が延々と続くのよ?

 相変わらず癒しは全くないし。


 あと、食生活!

 たまに少量の血を吸うだけで生きていけるとはいえ、普通のご飯も食べたいじゃない。

 でも、食事メニューがほとんどいつも同じなのよ。


 魔物からドロップした肉を焼いただけの文字通りの焼き肉。

 九十八階層の草原エリアで採れるフルーツ。

 食べるものがこれくらいしかないのよ。


 フルーツは普通においしいんだけど、もっとこう、ちゃんとした料理が食べたい。

 調味料で味付けされたものをね。


 あと甘味よ甘味。

 最近、口を開くたびに「パンケーキ食べたい」って第一声が出てくるくらい甘味に飢えてんのよ。



「これはもう、地上に戻るしかないわね」


 寝起きの軽いノリで決めた私は、さっそく行動を開始した。

 とは言っても、あまりすることはないけどね。


 ダンジョンから脱出する方法は主に三つ。

 普通に一階層に戻ってダンジョンの入り口から出るか。

 転移の魔石でダンジョンの入り口まで一気にワープするか。

 ダンジョンの最下層にいるダンジョンボスを倒して、ダンジョンの入り口につながっているワープ装置を起動するか。


 私は転移の魔石を持っていないから、選択肢はダンジョンボスを倒すというのに限られるわ。

 ここ九十九階層から一階層目指して上に進むよりは、一つ下の階にいるダンジョンボスをボコったほうが早いからね。

 ダンジョンボスなら前に一回ボコったし。


 だけど、その前にいったん九十八階層に向かった。


「地上に戻ったら当分ここに戻ってくることはないからね。戻ってくるにしても、もう一度一階層から攻略しないといけないし」


 だから、気に入った果物や魔物の肉などを集めていく。

 果物はデザート感覚で食べられるし、肉や野草はちゃんとした料理にしたらおいしそうだからね。


 採取した食材は、【無限収納】というスキルで保管する。

 このスキルは、時間停止・容量無限というなんかすごい異空間に物を仕舞えるスキルよ。


「やっぱりこのスキルは便利ね。いくら採取しても嵩張らないし」



 このダンジョンは人類未踏の最凶ダンジョンなだけあって、下層に進めばすさまじい効果を持つアイテムがポンポン出てくる。

 私の【無限収納】も、八十七階層の隠し部屋で見つけたマジックスクロールを使って習得したってわけ。


 アイテムは他にもいろいろ手に入ったわね。

 ほとんどは活用せず【無限収納】で寝かせてるけども。



「ふぅ。ドラゴン肉も三匹分手に入ったし、そろそろ終わりにしようかしらね」


 アイテム採取に満足した私は、スキップで百階層に向かった。

 そして、すぐにダンジョンボスと対峙することになった。


 ダンジョンボスは、倒されても時間が経てば復活する。

 ダンジョンの本体は“ダンジョンコア”と呼ばれる水晶みたいなもので、ダンジョンボスはそれによって作り出された存在だからね。

 死んだところで作り直せばいいってわけ。



「カカカ……」


 命を刈り取れそうな形をした大きな鎌を持つ骸骨が嗤う。

 禍々しい紫色のローブをまとい、フワフワ宙に浮いている。


「冥府の番人ハデスっていうのね。レベルも高いし結構強そう」


 私が使ったのは【鑑定】のスキル。

 効果は相手の種族やレベル、スキルなどを見れるというもの。

 意識すれば、スキルやアイテムの効果なんかまでわかるわよ。


 ちなみにこのスキルもこのダンジョンで手に入れたマジックスクロールで習得したわ。

 もともと私は大したスキルは持っていなかったからね。

 今使えるスキルのほとんどは、吸血鬼になったことで使えるようになったか、ここで手に入れたマジックスクロールによるものよ。



 ――ジャキンッ! 

 金属音を鳴らして、ハデスが死神の鎌を構えた。


「来るなら来なさい」


 私が挑発したら、ハデスがカタカタと音を鳴らしながら迫ってきた。


「結構速いわね」


 連続で振られる鎌を躱す。


「でも、こんな技術も何もない動きで私を捉えられるとは思わないで」


 余裕の表情で攻撃を躱す私が気に食わないのか、ハデスが大振りで一閃!


 私の背後の壁に線が走る。


「超頑丈なダンジョンの壁に傷が入るってことは、威力はかなり高いみたいね。あの巨人よりは低いけど。まっ、当たらなければ問題ないわ」


「カカッ!」


 ハデスが私に手をかざす。


 その掌から紫色の光が飛び出し、私の両足を拘束した。


「なっ!?」


 足に激痛が走る。

 毒の追加効果もあるみたいね。

 大したことない毒だけど。


 焦る私の表情を見てか、ハデスが嬉しそうに顎の骨を振るわせた。

 からの一閃!


 神速の勢いで迫った鎌が、私の首を斬り飛ばした。

 乱雑に動く視界の中で、勝ち誇った様子のハデスが映った。


 だが、すぐに驚愕の表情に変わる。

 頭を失った私の体が動き、右腕でハデスの胸部を貫いたのだから。


「人は頭を切り飛ばされたくらいじゃ死なないわよ。冥界に帰りなさい!」


 私は右腕の掌で握っていたハデスの魔石を握りつぶした。


 コアを潰されたハデスが死ぬより先に、右腕をハデスの体から引っこ抜く。

 左腕で素早く飛ばされた頭を回収し、きれいにくっつけた。


「イェ~イ。首を飛ばされたのに動くドッキリ大成功!」


 にしても、ハデスがあの程度の演技に引っかかるとは思わなかったわ。

 あまり骨のない相手だったわね。いや、ハデスは骨しかない魔物だったけども。


 ちなみに私の両足を拘束していた毒の光は、動くときに普通に引きちぎったわ。

 だって脆いんだもの。

 スキルを使って拘束をすり抜ける必要すらなかったわ。


 あ、毒のほうはもう解毒されてるわよ。

 このダンジョンで何千回毒で苦しんだと思ってるのよ?

 たいていの毒には耐性ができてるわよ。

 私を毒殺したいのなら、特殊な毒を用意してきなさい。



「ハデスのドロップ品は死神の鎌か。いらないわね」


 というわけで、死神の鎌は【無限収納】行き決定。


 私のスキルの一つに、【血操術けっそうじゅつ】というのがある。

 これは吸血鬼特有のスキルで、自分自身の血を自由自在に操れるというもの。

 このスキルを使えば、私の血を使って武器を作り出すことくらい容易い。


 何が言いたいかというと、そこら辺の武器より自分の血で武器を作ったほうが手っ取り早くて強いってことよ。

 武器の攻撃力や耐久性は、自分の血で作った武器のほうが上なんだから。

 そういうわけで、良さげな特殊効果でもついてない限り武器は死蔵しているわ。



「さて。あとは転移の魔法陣を起動して地上に戻るだけね」


 私は転移の魔法陣を起動した。

 視界が真っ白の光に包まれていく。


「いろいろあったけど、ここでの生活も意外と悪くなかったわ。……食生活以外は」


 そう呟いた次の瞬間には、私はダンジョンの外に立っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る