第2話 最強吸血鬼は癒しがほしい
最強の吸血鬼になっていたことに気づいてから早三日。
私は九十九階層でダラダラと過ごしていた。
「あ~暇。刺激がほしいわ」
ここは九十九階層のセーフポイント。私の自室。
ちなみにセーフポイントっていうのは、魔物が入って来れない安全地帯のことよ。
ダンジョンの魔物は、倒すとアイテムをドロップする。
植物系の魔物を倒して手に入れた木材で、机などの家具をDIY。
動物系の魔物からドロップした毛皮で絨毯を作ったり、鳥の魔物の羽毛でフッカフカのベッドを作ったりと、生活水準を上げるために頑張った甲斐あって住み心地はとてもいいわ。
九十八階層にいけば草原が広がっているんだけど、そこを流れている川から水を引いて温泉も作ったし。
え? どうやって湯を沸かすのかって?
簡単よ。そこら辺にいるドラゴンをボコして連れてきて、ブレスの炎で沸かしてもらえばいいわ。
食事は時々魔物から血を吸えばいいから、困ることもない。
魔物の中には、倒したらお肉をドロップするやつもいるしね。
そんなダラダラ生活を送っていた時、私のハイスペックな脳みそが閃いてしまった。
今の生活で圧倒的に足りないもの。
それは――『癒し』だとッ!
一人ぼっちで会話相手もいない。
ダラダラして、魔物を倒して、時々吸血するだけの代わり映えしない日常。
私の生活には、圧倒的に癒しが足りてないわ!
「えーと……確か私が公爵令嬢で学園に通ってた時代に、“召喚魔法”なんてのを習ったわね」
私は学園時代の記憶を必死に思い出す。
使い方はうろ覚えだけど、やってみたらなんとかなるわよ。たぶん。
それはそうとして、どんな魔物を呼び出すかだけど。
「やっぱり、もふもふの可愛らしい魔物を呼び出したいわね」
決めたわ! 可愛い魔物を呼び出して溺愛しましょう。そうしましょう。
そうと決まれば、悪は急げ。
私はすぐに九十八階層の草原に移動した。
強者の威圧で周囲の魔物を追い払ったら、さっそく地面に魔法陣を描いていく。
うん。結構スラスラ描けるわね。
うろ覚えでもなんとかなるもんだわ。
ハイスペックな脳に感謝。
「よし! 魔法陣は完成! あとは魔力を注ぐだけね」
私は最強の吸血鬼だけあって、魔力量もとんでもない。
使いどころが全然ないのが悲しいくらいに。要するに持て余してる。
私は許容範囲ギリギリまで魔力を注ぎ込んで、召喚の儀式を開始した。
そして、数分後。
「……どうしてこうなった?」
私は頭を抱えていた。
「クフフフフ。この私を呼び出すとは……。覚悟はできているのでしょうね?」
「俺様を召喚だと!? 頭が高いぞ! 今に後悔させてやる! この世界を征服して恐怖のどん底に叩き落とすことでな!」
「判決! 地獄行き!」
なんでこんな物騒なのが召喚されるのよ!?
太古の昔に封印された最強の大悪魔アザゼルとか、異世界最凶の大魔王とか、“冥府の支配者”地獄大王とか!
私が求めていたのはこうじゃない!
もっと小さくてモフモフで可愛くて愛くるしい小動物よ!?
どうやったらこうなんのよ!? ホントに誰か助けて。
別世界の大魔王は存じてないけど、他の二体はおとぎ話に出てくるような化け物でしょ!
なんで召喚できちゃうのよ!?
もちろん
こんなの従えてたら、世界の敵扱いされても文句言えないわよ。
「……ハァ。疲れたわね」
小指一本で勝てたけど、よもやアザゼルが最上位スキルである“領域掌握スキル”を使ってくるとはね。
さすが太古の昔に封印された最強の大悪魔だけあるわ。
向こうは封印で弱体化してるはずなのに、思ったよりも手間取ったし。
あの悪魔、封印が解けたらどれくらい強いのかしら……。
「ハァ……。うまくいく気がしないけど、もう一回くらいやってみようかしら……」
数分後。
また私は頭を抱えていた。
だって私の目の前に、腕が五本生えたシックスパックの氷像があるんだもん。
「なんで無生物が召喚されるのよ? というか、これ作ったやつ誰よ? 絶対センス死んでるでしょ!」
もういいわ。
召喚魔法はやめよう。萎えた。
これ以上やっても、どうせ変なのしか出てこないでしょ。
頭を抱える未来しか見えないわ。
もう頭は抱えたくないわ。切実に。
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