実家を追放されてから早三年。気がついたら最強の吸血鬼になっていた私は無双する。あと、気がついたら百合ハーレムができてた

狐火いりす@『不知火の炎鳥転生』商業化!

第1話 最強吸血鬼、誕生



『――ここまで来たのは貴様が初めてだ。挑戦者よ』



 ここは“人類の頂点”と呼ばれているSランク冒険者パーティーですら、三十一階層までしか攻略できていない。そんな人類未踏の最凶ダンジョンだ。

 その最深部――百階層に私はいた。



 私の目の前にいるのは、“ダンジョンボス”というその名の通りダンジョンのボス。

 十mほどの大剣を担いだ巨人が、私に剣を向けてくる。



『ここまでたどり着いた貴様の力を俺に示してみせよ!』



 人類の頂点でも三十一階層までしか攻略できていないのに、最深部の百階層に私がたどりつけた理由。

 その理由は簡単だ。



 “死にたくなかったから”。

 この一言に尽きる。



『ォォォオ!』


 巨人が大剣で斬りかかってくる。

 私はその攻撃を躱し続ける。


『ぬぅ……! ちょこまかとすばしっこい奴め』



 時をさかのぼること三年前。私が十五歳になって、成人を迎えた日のこと。

 あの日のことは忘れるわけがない。


 当時の私は公爵令嬢で、皇太子殿下の婚約者でもあった。

 私の成人式では豪華なパーティーが開かれ、もちろん婚約者だった皇太子殿下も参加。

 ――だけど、そこで事件が起きた。



 私は“真祖帰り”を起こし、大昔に絶滅したはずの“吸血鬼”になってしまったのだ。



 そして、吸血鬼は……かつて魔王と人類が争っていた時代に、人間側に多大な損害を与えた最悪の魔族と伝わっていた。

 殺した人間たちをアンデッドの化け物に変えて、そのアンデッドたちの大群を率いて人類の数を半分まで減らしたとかなんとか。吸血鬼本体も強かったとかなんとか。


 だけど、一番の問題は、私の住んでいた国が人間至上主義を掲げていたことだった。



「リリス! 今日を持って、貴様をルノワール公爵家から追放する! 忌々しい化け物など我が公爵家には相応しくない!」


「君……いや、貴様のような醜い化け物との婚約を破棄する!」


「いい気味ですわ。どう? 化け物になった今の気分は良くて? 所詮、お姉様は私の踏み台になるだけの悪役令嬢ですわ」



 あの時の手のひらの返しようはすごかったわね。

 クソ親父に追放されるわ、クソ皇太子に婚約破棄されるわ、私のことをねたんでいた実の妹にはボロクソに罵られるわ。

 「貴様のような化け物が我が公爵家の一員だったなど汚点にもほどがある!」的な感じで命を狙われて、私は死にかけながらもなんとかこのダンジョンに逃げ込んだ。


 吸血鬼は再生能力が尋常じゃないほどに高く、血液ストックさえあれば常人だと即死するような傷を負っても即座に再生できるわ。

 そのおかげで何度助かったことか。


 そんな感じでこのダンジョンに逃げ込んだ私は、死にたくなかったから必死で襲い来る魔物を倒し続けて、下層へと逃げた。

 追手がたどり着けないほど下へ、下へと。



『……逃げ回るのをやめたか』


 私は攻撃を躱し続けるのをやめて、目の前の巨人を見据える。


『だが、俺の剣を正面からどうにかできるとは思わないことだ』



 生き足掻いて魔物を倒しまくったからこそ、今ここに私は立っている。

 人類がどれだけ頑張ろうとたどり着くことができなかった、ダンジョンの最奥部に。



『俺の最強の一撃を喰らうがいい! ――大震撃だいしんげき!』



 巨人がその剛腕で大剣を振り下ろしてくる。

 神速の一撃。とてつもない威力を秘めているのが、一目見ただけでわかる。


 だけど――私にとっては遅い!


 私はいとも容易くその攻撃を躱して、巨人の懐に飛び込む。

 地を蹴って巨人の顔面に迫る。

 私の背後で大剣がダンジョンの床に叩きつけられ、轟音ごうおんが響く!


『なっ! 躱さ――』


 巨人の顔面に肉薄にくはくした私は、右の拳で巨人の顔面を殴りぬいた。


「チェックメイトね」


 首が向いちゃいけない方向を向いた巨人。

 ズドォォォンッ! という大きな音を立てて倒れたダンジョンボスを見て、私は確信した。




 実家を追放されてから早三年。気がついたら私は――最強の吸血鬼になっていた。



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