女王との謁見

「ーーーーっ!?」

リッツの言葉に、ゲノムは自身の行いを恥じた、


「いや、僕のことを理解してくれる人がいたとは。流石はリッツ。親友だ」


訳がなかった。


強く握手する二人に、ゲヘナは呆れる。

「ちょっと待つのです! ゲノムの事を理解しているのは私なのです!」

口を挟むシロだが、二人には聞こえていない。いや、ゲノムには聞こえていたのだが、あえて無視をしていた。


それは彼がこの後の展開を予想したからだ。


「はは。なんて事はないさ。そうだ、是非殿下に会ってくれ。彼女に刻まれた君の刻印は解いてある。効果が薄くて気がつくのが遅れてしまったがね。殿下、とても会いたがっていたよ」

「ああ、あの子は王族だから効きが悪かったのか。でもリッツ、何で君は効いてないの?」

「私は常に結界魔術を自身に発動しているからね。しかし、何も私達に掛けることは無かったんじゃないか?」

「············あれは無差別なんだ。ごめんね」


「あれ、嘘なのですよ」

「国民大勢に精密な刻印が出来るのに、個人を避けるなんて簡単な事、出来ないわけが無い」


シロはゲノムの表情で、ゲヘナは理で彼の嘘を見破る。


しかしゲノムは魔術を使って二人の言葉を聞こえないようにしていた。


「とにかく、王女様に会うよ。············丁度、頼みたい事があったんだ」

そう言ってゲヘナをチラリと見るゲノム。

その視線でゲヘナは彼の思惑を瞬時に理解した。


「待って」


止めようとするゲヘナの声は、ゲノムによって届かない。


「······? 彼女はどうしたんだい? さっきから耳鳴りがして聞こえないんだ」

「ああ、気にしなくていいよ。······彼女は長旅で疲れているんだ。王城には僕だけで行くよ」

「······? そうかい?」

そうして二人は部屋を出ていった。


「··················あの男!」

シロと二人きりになったゲヘナは憎らしげに出て行った男を思う。

追いかけて行きたいが、彼女はシロを含んだ転移魔術で疲弊しており、追いかける事が出来ない。


「······なんでしょう。私はあの男と似た何かを感じるのですよ」

リッツと謎のシンパシーを感じたシロが呟く。


「そっちじゃない。ゲノムの方」

「············でも大好きなのですよね?」

「うん。············好き」





「げーのーむーさーん」

「やあやあ王女殿下。ご機嫌麗しゅう。痩せた?」

「そうですねー。どっかの誰かが国民に変な魔術をかけたからですかねー。ついでに私にも」

「ははは、なんて迷惑な奴だ」

「ほんとですねー。消えてくれないかなー」

「何を言ってるんだよ。僕に会いたいと言ったのは君じゃないか」

「ゲノム、殿下に無礼な口はやめてくれ。切らなくてはいけなくなる」

「え、今言うのそれ?」


ゲノムは王城の謁見の間で女王様と面会をしていた。女王の傍らにはリッツが佇んでいる。

彼女は前王が身につけていた派手な法衣は身につけておらず、シンプルな赤色の法衣を白いドレスの上に纏っていた。女王になってから日が経っていないにも関わらず、中々様になっている。


「似合ってるね、それ」

「ありがとうございます。お陰様で」

「ゲノム、もう忠告はしないよ」

「社交辞令だから」

「そうよリッツ。私はこの男に全く靡いていないわ」

「殿下がそう仰るなら。良かったね、ゲノム」

「良くないよ、全く」


一頻り会話をすると、ティア女王はゲノムに向き合う。


「ところで、何でゲノムさんはまたこの国に? まさか自分の魔術を解きに来た訳じゃないでしょ?」

「いえ、殿下。彼は自身の魔術の影響が、想定より大きいものだった為、解除しに足を運んで来たのです。恐らく想定では、クーデターで疲れた国民の心を前向きにするといった物だったのでしょう。」

「······彼がそう言ったの?」

「言ってはおりませんが、私は彼を信じております!」

「······だそうよ?」

「いや、全くその通りだよ、リッツ。流石は僕の親友だ」


無論嘘だった。ゲノムは言われた言葉に腹が立ち、腹いせに魔術をばら蒔いたに過ぎない。

だがこの場にそれを言ってしまえば、最悪切られてしまうので口にしない。逃げる事は容易だが、それではゲヘナの日記を手に入れられなくなってしまう。


「はは、そう何度も言わないでくれ。照れてしまう」

頬をかき、照れるリッツを見て溜息をつく女王。


「············もういいわ。そういう事にして、他にも理由があるのよね?」

「殿下、そういう事ではなく······」

「もう、分かったから······。で、何?」

呆れながら言うティア女王だが、その態度はゲノムの一言で劇的に分かってしまう。


「実はこの国に、魔連がやって来るんだ」

「「············っ!?」」


「え、なにこの反応」

ゲノムは息を飲む二人の意味が分からず、ゲノムは首を傾げる。


「何って、知らないのかい? 魔連、中央諸国魔術師連合は、魔術や魔道具を手に入れる為なら手段を問わない組織なんだ。彼らに国ひとつ滅ぼされた事例すらある」

「へぇー······」

ゲノムの中で魔連は、ただの日記泥棒である。リッツの説明が頭に入ってこない。


「でも何でこの国に? この国が持つ魔道具は大国から借り受けている物くらいよ? そんな事すれば、大国を敵に回す様なもの······」

「それが狙いでは? 大国と戦争をする口実に」

「有り得ないわ。戦力差が違いすぎる。魔連という組織が一組織である以上、拭いきれない程大きな、ね。それこそ中央の魔導国じゃないと」

「まさか、ゲノムの魔道具では? 幻術は珍しい魔術ですし」

「それも違うと思うわ。それならゲノムさん自身を狙うはずよ。魔道具なんかより、その方が効率的じゃない」

「成程。ゲノムは彼らに狙われる中、この国が標的であると察知し、警告しに来てくれた訳か。流石だね、ゲノム」

「こればかりは私もお礼を言うしかないわね。ありがとう、ゲノムさん」


「············いやあ」


急な難しい雰囲気となった場に、ゲノムだけが取り残されていた。

さらに言うと、狙いはゲノム自身であり、自分を目的に彼らが来ているとは口が裂けても言えない状況となってしまった。彼はとりあえず成り行きを見守ることにした。


「ゲノム、なんでもいい。情報をくれないかな。君ならば何か知っている筈。なんでもいい、教えてくれ」

「そうね。なりふり構ってられないわ。報酬は何でも出すから、教えて頂戴」

「えっと、来る魔連はナンバーズと言って······」


「「ナンバーズっ!?」」


「魔連のトップ達ではないか。何故そんな者達が······」

「これは侵略の可能性が大きくなったわね。······チッ。戴冠式が近づいているこの時期に······」

「その人達は黒い本を持っているんだけど······」


「「黒い本!?」」


この時ゲノムは、自分が言う言葉に凄い反応を見せる二人が何だか楽しくなっていた。


「それは話に聞く『預言書』ではないでしょうか······?」

「そうね。彼らが持つ本の魔道具はそれしか浮かばないわ。機密である魔道具を持ち出すなんて······彼らは本気のようね······」

「戦争ですか。クーデターでは騎士団は遅れてしまった。名誉を挽回する為、万全を期し挑みます!」

「ええ。私は国民が不安にならないよう情報を規制するわ。ゲノムさんの魔術のお陰であまり必要ないかもしれないけどね······」

「ゲノム、彼らはいつ頃ここに来るか分かるかい?」

「そうね。それは聞いておかなくちゃ。大体でいいわ」


「数日中には············」


「「数日中!!」」


「ゲノム、もう少し早く言って貰えると助かる」

「いいえ、リッツ。魔連は情報封鎖が得意よ。むしろ、彼らを迎え入れる準備が出来ただけでも十分よ」


「ゲノム、心からお礼を言う。ありがとう。私は早急に騎士団の皆と話をしてくる。戦争が始まると」

「私からも、ありがとう。報酬は何でも良いわ。好きに言いなさい」


「え、あ、僕?············えっと」

急に話を振られたゲノムは戸惑ってしまう。彼は今の瞬間完全に傍観者になっていた。報酬と急に言われても困る。

そこで、ユウに説教をされたのを思い出す。


「あ、そうだ。この間僕が作った魔道具でいいよ。実はあれ不具合があってさ」

「え、そんな物でいいの? あ、作った本人にそんな物は失礼よね、ごめんなさい」

「最近、宝物庫の番をしている騎士団から良く悪霊が出ると報告があったんだ。まさか、ゲノム、君は自分の魔道具に悪霊か宿っていると······!」

「············え?」


もう何を言ってもゲノムの好感度はストップ高だった。

ここまで来ると、ゲノムは恐怖を感じ始めていた。


「実は私、貴方を疑っていたの。人の心を持たない最低最悪の男だって。何で私はそんな事を思っていたのかしら。自分が恥ずかしいわ。リッツ、貴方が正しかったみたいね」

「いいえ。私も彼がこれ程とは思っておりませんでした。ゲノム、君は正に英雄の鏡だ」


「············ありがとう」


早々にゲノムは立ち去ることにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る