第4話 慈母神(はは)をもとめて幾千里?(GM:パテットPL)

その1 扉の向こうへ

<ここまでのあらすじ>

アルマたちが遺跡“神々の扉”で出会ったのは“慈母神”アイリーンから生み出された分体の少女、アイであった。

アイは一行の支援の下で成長し、“神々の扉”を起動させてレーゼルドーン大陸の“神々の都”に向かえるようになる。

しかし、アイの現状の力では片道切符になりかねないということで、いったん出直して旅の準備をすることになった。

その途中、岩山の街コルボーで起きた人間至上主義組織“アル・メナス再建同盟”の陰謀を打ち破ったりしたのだった。




【アルマ】(人間/女/16歳):シーン神官。見た目に似合わずズケズケとした物言いをする。


【キュオ】(リカント/女/18歳):ドルイドの魔法戦士。余計な事をしゃべっては耳に煮干しを突っ込まれそうになる。


【セネカ】(グラスランナー/男/26歳):軽戦士。何よりも自由を愛する放浪者ヴァグランツ


【ラゼル】(ナイトメア/男/18歳):陽気でお気楽な操霊術士。妹分のアルマには弱い。


【ビハール】(タビット/男/18歳):西の大陸から漂流してきた神学者。


【アイ】(神族/女/0歳):遺跡『神々の扉』に生み出された小さな女の子。実は二の剣の女神アイリーンの分体だが、皆の努力の甲斐あって人族の神になりつつある。


【ゴーレム8号】(魔法生物/男?/0歳):ラゼルの使役するフラーヴィゴーレム。なんかゆるキャラっぽい。愛称は『はっちゃん』。


【カラシン】(人間/男/44歳):冒険者ギルド支部“静かなる巨兵亭”支部長。一行への扱いはぞんざい。





「一か月以上かけてアイちゃんの武器を魔法の武器・オーダーメイド武器・専用武器に大改造!5900Gもかかっちまったぜこんちくしょう!」


 キュオが高らかに宣言すると、アイは超どや顔でポーズをとった。


「おー」


「キュオ監修の出来か。随分と凝ってるな」


「随分と……色が派手ね」


 ラゼル、セネカとアルマが興味深げに魔法のアイちゃん専用オーダーメイドアイアンボックス、題して“少女神の篭手”を見つめる。


「そういや、これの改造費用ってどうしたんだ?」


 ラゼルがたずねると、“静かなる巨兵亭”カラシン支部長はキュオに顎をしゃくった。


「こいつが『次の仕事の前金分くれ』ってんでな」


「はぁ!?」


 てへぺろする犬ころキュオに対し、ラゼルはキュオツッコミ用の煮干し(持ち歩いてるのか?)に手を伸ばしかけ、思いとどまった。


「まあ……アイちゃん用の費用なら仕方ないか」


「いや、でもさー、正直これでも足りなくて、結局私が2000Gほど自腹切ってる事は強調しておきたい!」





「さて、やっと以前の仕事の続きの話だな」


 カラシンが腕組みをした。


「前回は、“神々の扉”が一応稼働状態である事を確認した事でとりあえず依頼達成としたわけだが……今回は実際に向こう側へ行って、何があるのか、安全に使用できるのかを調査して貰いたい、とのことだ」


「やっぱ突っ込めってせっつかれたわけね」頬杖を突くアルマ。


「ま、そうなるわな」


 シュヴード王国政府にしてみれば、少なくとも何か成果物を持ち帰ってもらわなければ金をどぶに捨てたことになる。


「同行者はいんの?」


「アイちゃんは当然として、今回はビハールもだ」


「僕にとっては故郷に繋がる大陸だからね、行かない選択は無いさ」


 西の大陸から漂流してきたビハールにとって、故郷への帰還はまさに悲願である。


「政府のお役人とかは同行しないの?証人がいないと証明できないんじゃ……」


「証拠となる物を持ってきてくれ、だとさ。肝心な時に腰が重いと言いたいが、シュヴード王国は人手不足だからこれは仕方ない」


 支部長は肩をすくめた。


「報酬は『安全に行き来する方法が存在する事を確認する事』を依頼完全達成として、一人当たり4000Gだ」


 そのうち1000Gはキュオがアイちゃん武器に流用しやがったので、実質3000Gである。


 一行は孤児院に寄って別れの挨拶をした後、遺跡に向かった。





「おお、来ちまったか」


 パンツ一丁の偉丈夫……魔法文明期の英雄で、現在は魔剣グランディアンの魂になっているという男、テンハーロ。


 “神々の扉”を使いレーゼルドーン大陸の“神々の都”に転移したアルマたちに対し、なぜか彼は頭をかいた。


「『来ちまったか』って、なんかヤバいの?」


 ラゼルは、そういえば前回は通信が途切れてしまったことを思い出す。


「……まわりがひどすぎる」


 アイの言葉に、周囲を見回すと。包帯で身を包んだ不気味な集団がうごめいている。


「これは……」


 アルマが表情をこわばらせる。


「えーと……これ、アルマとラゼルに聞かなくても私にもわかるやつー?」


「どう見てもマミーの大群だな」


 一体二体ならともかく、今の一行に退けられる量ではない。テンハーロいわく、魔剣グランディアンの結界があるので大丈夫だというが。外に出られないのでは早晩日干しである。


「アイちゃん、【エスケープ】はできる?」


 ラゼルに問われ、アイは申し訳なさそうに首を振った。遺跡から受け取った魔力は、転移で使い果たしてしまっているようだ。


「おう、それに気づいたか」


 テンハーロは自分を指さす。


「魔力の源なら、ここにあるだろ?」


 グランディアンに触れると、アイの体が再び一時的に成長する。ビハールによれば、彼女の服も神器なので破れないのだとか。


「よーし、行って来い」


「え、おっさんは残るの?」


「俺はここを守らないといけないんでな。まあ心配するな。俺は今は魔剣だから餓死もしないし」


 アイの【エスケープ】が発動し、手を振る偉丈夫の姿が一瞬にしてかき消えた。





「……どこだ?ここは」


「えぇ……?」


 セネカとキュオだけでなく、全員が困惑していた。


 目の前には、見たこともない意匠の神殿が建っている。


「【エスケープ】だから、神々の都に一番近いアイリーン神殿に飛んだはずだけどな……」


「あのえ、なあに?」


 アイが指さす先を見ると、神殿入り口の上のほうに肖像画らしいものがかかっている。


「さてな……大方、偉人か権力者の絵だろうさ」


 セネカが注意深く周囲を見回す。


「オレには穏やかな笑みを浮かべた小太りのオーガに見えるんだけど」


 それも、意外と強そうだ。オーガの大将軍ウォ―ロードかもしれない。


「勘弁してよ~蛮族の支配圏ってこと?」


「ともあれ、住人を探してみよう」




 門をくぐって神殿敷地の外に出ると、女性が言い争う声が聞こえてきた。


「あー、誰よ門番さぼってたの!」


「えー、ソアが当番じゃなかったっけ?」


「いやいやローテ表みてなかったでしょ」


 彼女たちの下半身は、蛇。


「もんばんだれ?だって」


 神族特権ですべての言語がわかるアイだが、彼女自身の語彙に問題があった。まあ、今回はアルマもドレイク語はわかるが。


「ひとまず、敵意が無いことを伝えて……」


 アイに指示を出そうとするセネカだが。


「あらかわいい子、どこの奴隷かしら?」


「ていうか首輪ついてないわよ、浮民?にしては小奇麗ねえ」


「どうでもいいわよ、せっかくきてくれたんだからもらっちゃいましょ♪」


 気が付くと、蛇女ラミアたちに取り囲まれてしまっている。


「あーうん、これ私にもわかるぞ。やばい雰囲気だ」


 蛮族社会において、誰かの奴隷であれば一応最低限安全は保障される(主人の怒りを買ったり気まぐれや娯楽で殺される場合は除く)。だが、奴隷でない浮民は落ちているお金のようなもので、奴隷にするなり食うなり戯れに殺すなり好きにしていい存在だ。

 ただし、アルマたちはラミアたちに好きにされるような存在ではなかった。


「そっちの子がやばそうだ!優先で叩こう!」ラゼルが吠える。


―魔物知識判定って、既存の魔物ならともかくオリジナルの魔物ってどうやって使える魔法やら能力やらわかるんでしょうね?―


 ビハールの【ファイアボール】が炸裂した直後、8号とキュオが飛び込んでちょっと強そうな個体―ソアを倒す。

 さらにアイの攻撃とアルマの【フォース】で2体目が倒れ。


「な、なによ!」


 面食らった残りの2体のラミアに【リープ・スラッシュ】を乱射された。


「いってェ……」


 なんとかしのぎ切ったラゼルが8号に攻撃指示を出そうとすると。


「はいそこまで!」





 アルマたちが振り向くと、群れの長だろうか。上役らしいラミアがやって来た。


「まったく、安易に人族を捕えようとして返り討ちになるなんて」


 気絶したソアを【アウェイクン】で起こすと、上役―ジアは小言を始めた。


「だいたい、よく見なさい。人族だけじゃないでしょう?」


「あ……もぉー、紛らわしいなあ。ここで人族のかっこなんてしないでよ」


 ソアはキュオとラゼルを恨めしげに見る。どうやら、獣貌化したキュオをライカンスロープ、ラゼルをダークナイトと誤解しているらしい。

まあ、ラゼルのほうはナイトメアなので、ダークナイトを名乗れなくもないが。


「ともあれ、申し訳ありません皆さん。ソアの首ひとつでどうかご勘弁を」


「ちょっ!?」


 焦るソアに、ラゼルは首を振る。


「いや、そんなことより、オレたち道に迷っちゃってさ。ここどこ?」


「ここはイムギ村、我々ラミアが治める村です。私は村長のジア」


「そこにあるのってアイリーン神殿だよね。この辺ではアイリーン信仰は盛んなの?」


「いいえ。おそらく、幸国では我々くらいではないかと」


「幸国って?」


 あまりにも迂闊なラゼルの応答に、ジアは不審げな顔をする。


「……あなたがた、どこからいらっしゃいました?」


「あー、ちょっとした事情でアイリーン神の本山を目指していてさ」


「……我が国は鎖国をしているのですが」


 えぇ、知らねえよそんな事情……とラゼルの背中に嫌な汗が落ちる。


「よくわからない話ですね……念のために調べさせてください」


 ジアは【ディテクト・フェイス】を行使した。アルマを見ると渋い顔をする。


「……ルミエルの神々を信仰しているとは、あまり行儀のよくない奴隷ですね。バルバロス領では賢い生き方とは言えませんよ?」


「そ、それより、この子!」


 ソアが血相を変えているのを見て視線をアイに移すと、今度は村長が固まる番だった。



―【ディテクト・フェイス】、神自身やその分体に行使したときはどうなるかは書いてないんだよなあ―





「全く以って、申し訳ございません」


 村長は、自身も頭を下げつつ地面に埋めそうな勢いでソアの頭を屋敷の床に押し付けた。


「知らなかったんだもん!知らなかったんだもん!!」


 尻尾をじたばたさせるソア。


「あー、説明が省けてよかった」


「しかし困ったな」


 気を緩めたキュオに対し、セネカは腕組みをする。


「オレたち、エイギア地方に行きたいんだ」


「あー、コミテトの向こう側ね。うん、そっちのほうにアイリーン様がおわすって」


 ソアが口をはさむ。


「ここはレーゼルドーン大陸なのか?」


 セネカの言葉に、ジアがうなずいた。


「はい。レーゼルドーン大陸でも東のほうになります。東の海を越えた先には竜国なる人族の国がありますが、この周辺はほぼバルバロス領ですね」


 ジアによれば、幸国があるセリカ地方は、かつて大破局の時にバルバロスの大将軍が征服した土地なのだという。

 しかし、大将軍が蛮王シェザールの招集に応じて出かけたまま戻らず、臣下たちが勢力争いに明け暮れて十数か国の群雄に分裂。

 竜の亜種であるロンの守護を受けた人族の都市国家もいくつか混じって長い戦乱が続いているのだとか。


「その、コミテトとやらを越えればいいだけか?」


 セリカ地方に隣接するコミテトとは、(アイリーンとはまた別の意味で)少々特殊な、ある小神の信仰に基づく人蛮共存国家なのだという。


「コミテトという国は広大です。まあ貴方達なら何年かかければ何とかなるとは思いますが……」


「長すぎ!」アルマは毒づいた。


「さすがに年単位はな」


「……あ」


 アイが、困惑した様子で自分の手を見つめる。


「どうやらここのアイリーン信者の信仰力を得たらしい……まずいな、これは」


 アイの顔を覗き込んだビハールが、焦った表情を見せる。


「あー、本家側の影響か」


「うーん、イグニス味が増しちゃうわ」


 あまり、のんびりしている時間はなさそうだった。




(つづく)

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