その6 アル・メナス再建同盟
<ここまでのあらすじ>
セネカの支援者であるエデルガルトが紹介したのは、メリアの少年ファグスとソレイユの冒険者リンダ。二人は小さな街コルボーにて不可解な冒険者遭難事件に巻き込まれ、エデルガルトに保護を求めてきたのだ。
一行はファグス、リンダおよび協力者の商人デュバル氏と共にコルボーを訪れた。
どうも、統治機関であるティダン神殿も怪しい様子。
“白いカラス亭”でユーリスを問い詰めると戦闘になり、ユーリス側の冒険者もまとめて倒した。
<簡易キャラ紹介>
【アルマ】(人間/女/16歳):シーン神官。見た目に似合わずズケズケとした物言いをする。
【キュオ】(リカント/女/18歳):ドルイドの魔法戦士。余計な事をしゃべっては耳に煮干しを突っ込まれそうになる。
【セネカ】(グラスランナー/男/26歳):軽戦士。何よりも自由を愛する
【ラゼル】(ナイトメア/男/18歳):陽気でお気楽な操霊術士。妹分のアルマには弱い。
【ビハール】(タビット/男/18歳):西の大陸から漂流してきた神学者。今回は不在。
【アイ】(神族/女/0歳):遺跡『神々の扉』に生み出された小さな女の子。実は二の剣の女神アイリーンの分体だが、皆の努力の甲斐あって人族の神になりつつある。今回は不在。
【ゴーレム8号】(魔法生物/男?/0歳):ラゼルの使役するフラーヴィゴーレム。なんかゆるキャラっぽい。愛称は『はっちゃん』。
【カラシン】(人間/男/44歳):冒険者ギルド支部“静かなる巨兵亭”支部長。一行への扱いはぞんざい。
【エデルガルト・シュヴァルツシルト】(アルヴ/女/35歳):クーダスの富豪でセネカの支援者。セネカとはオトナの関係らしい。
【リーゼロッテ・シュヴァルツ】(ルーンフォーク/女/稼働10年):エデルガルトに仕えるメイドの一人。
【ファグス・ナヴァール】(メリア長命種/男/16歳):ナヴァール商会を営むミシエール、ルイザ夫妻に我が子同然に育てられた、冒険者に憧れる少年。
【オトゥ・スコップス】(ドワーフ/男/57歳):“白きカラス亭”の前支部長。店に入り浸るファグスを可愛がっていた。ユーリスによれば退職したというが……
【リンダ・ボイル】(ソレイユ/女/20歳):冒険者で、ファグスとは顔見知り。冒険者遭難事件を追っている。
【トム・ユーリス】(人間/男/28歳):“白きカラス亭”の現支部長。リンダに事件の不審点を追及されると、襲いかかってきた。
【カイト】(シャドウ/男/21歳):旅芸人に扮している。別口で同じ事件を追っているらしく、一行に同行する。
ボコったユーリスおよび冒険者、そして2階で震えていたコボルドのパピを縛り上げると、セネカが言った。
「腕輪は取り外せそうか? ラゼル、アルマ、品を見てくれ」
「やってみるわ」
「りょーかい」
二人はユーリスの腕輪を慎重に検分する。
「飲んだ水を媒介に人を操れるみたいだな。たぶん、仕掛けの司令塔は……」
「アレね」
池の中央に立つ、悪趣味なまでにピカピカなティダン像を思い浮かべ、アルマは吐き捨てた。
意識を取り戻したユーリスに、セネカは問う。
「さて……ご高説も聞かなくはないが、どういう腹積もりなのか、害した者をどう殺し遺棄したのかは答えてもらおうか」
「……」
青い顔をしたファグスに、セネカは付け加えた。
「ファグス、無理はしなくていい。だが真実は何れ明らかになる。ただ……それだけだ」
「……いいですとも。最後に勝つのは我々なのですから」淡々と、ユーリスは言った。
「大した自信だな」
「ティダン神殿の裏手にある隠し通路、その先に彼らは保管されています」
「あー、やっぱりあそこか。あれ腕輪で開くんだっけ?」
「ああ」キュオの言葉に、セネカはうなずく。
「我々のリーダーはカロル・ククルック師です。メンバーはここにいる者以外は腕輪持ちです」
「んでよ、結局、ギギナール王ってあんたら的にどうよ?」
脇からカイトがたずねた。ユーリスが通行人を操る際に唱えた『エルヴィン』と、ギギナール王は関係があるのかどうか、ということである。
「……アレは偽物です。少なくとも私はそう教えられました」
「そいつはよかった。あの方があんたらの同類でないなら、それで充分さ」
「それで、アンタらを何と呼べばいい? いい加減名前がないと不便だ」
「我々の組織は『アル・メナス再建同盟』です」
「わざわざコルボーを乗っ取った……もとい、アンタらとしては『解放した』のには理由があるのか?」
「その辺は、既に洞察されているかと思いましたが……?」
「答え合わせだ」セネカは肩をすくめた。
「街の性質上、乗っ取りが簡単で本国の動きも鈍いからです」
「にしては、派手にやり過ぎたな」
「で」アルマは軽蔑の視線をユーリスに投げた。
「この腕輪があれば街の人を操れるのね。アンテナはティダン像で間違いないかしら?」
「ええ」
「あのティダン像の悪趣味さ、クソダサセンス、あんな感性でよく魔動機文明復活とかほざけるわね。頭わいてるんじゃないの?」
「そもそも我々は神々について大して重きはおいていませんので。しかし……」
「なによ」
「よりにもよってあなたにセンスについて批判されるとは……」
「……」
ラゼルとセネカは、何故か嫌な予感がして顔を見合わせた。
「粗末なモノ踏み潰してあげるわ」
「待て待て待て待て、それはヤバい!」
ラゼルがアルマを必死に押しとどめる橫で、セネカはたずねる。
「それで、アンタらのゴールはなんだ。何を以て勝利とする?ああ、広義かつ大義の話はさっき聞いた。この街での、という意味で答えてくれ」
「むろん、いつまでもこの状態を保持できるわけではありませんので。近日中に撤収という予定ではありましたが……」
「カロル・ククルック様とやらが儀式めいたことをなされてるのかと思ったが、そういうわけではないらしいな」
「ククルック師によれば、人間に嵌められた枷を解き放つための研究をと」
「なるほどな。随分と大層な研究のようだ。ついでに、御自宅も聞いておこうか。神殿で拾ったものを届けるかもしれないからな」
「本拠はハルシカになります」
「俺もハルシカに居たことがある。素面なら旨い飯でも奮ってやれたが……そう言えば、エールを大量に消費しているようだな。それも訳ありだろう?」
「研究用の溶媒だそうですよ」
「そうか。さて、俺は聞き終えたつもりだ」
「ねえ、こいつの股間踏み潰していいよね?」
「足が穢れるから止めておけ。それより、もっと楽しいことをしないか?」
セネカは不敵な笑みを浮かべた。
ユーリスら捕虜をライフォス神殿に預け、セネカたちは池に向かった。
見張りのティダン神官を軽くのして縛り上げ、池の中心に立つ偽ティダン像を囲む。
ラゼルはコンコン、と偽神像を叩いた。
「強度的にはさほど大したもんじゃないな」
「それじゃあ、ぶっこわすわよー」
「やろうぶっこわしてやるううう」
とても楽しそうなアルマとキュオの橫で心なし縮こまっているファグスに、セネカが棒を渡す。
「宣戦布告だ。ファグスも思いっきりやっておけ。こういう機会はそうそうないぞ」
「……う、うん!」
一同が思い思いに得物を振り下ろすと、偽神像はバラバラに壊れた。
「父さん!おじさん!」
一行は、そのまま神殿の隠し扉に直行した。扉の先の詰め所にいた連中を叩きのめし、その奥の研究室に入る。
室内には大きな箱がいくつも並べられていて、のぞき窓でその中に封じられている人々を確認することができた。
「こっちはダルガッツだな」
リンダがメモを取り出し、他の箱を確認していく。
「よーし……いなくなった奴らは全員いるぜ」
「衰弱している様子だが、息はあるみたいだ」意識を失っているファグスの父の脈をとって、ラゼルが言った。
「応急処置を施しておこう」
「どんな研究してたんだろうね」
「さてな。狂人の考えることは分からん」
「文字通り上の人に聞けばいっか」
「いきましょ。ケリはつけないと」
「こちらでよろしかったかな?」
老神官が、優しげな声で言った。
日は大きく西に傾いていた。場所は神殿の裏手。
『裏で神官が胸を押さえて苦しんでる。すぐに来てくれ』と嘘をついて呼び出してみたが、取り巻きの神官もいるあたり、察していたらしい。
「ああ。醜態を大衆にさらすのは不本意だろうからな」
「……すでに陰謀は露呈してるわ。おとなしくお縄に付きなさい」
セネカとアルマの宣告に、老神官ーカロル・ククルックーは片眉を上げた。
「おやおや、何とも気の早い事だ」
その言葉と共に神殿の壁が崩れ、大きな人型魔動機が姿を現す。
「やれやれ、大層なものを用意してくれたな」
「わー;これ神殿のかなりの人が関わってるな、呼び出しといて良かった」
「そうでもなくてね。我々の理想に共鳴できる人間は、そう多くないのだよ」
「そりゃそうだろうな。人間至上主義なら、信奉するのは原則人間だ」
「この世界異種族と拘らずに生きていける人間の方が少ないくらいだからねえ、人間至上主義なんて非現実的だよ」
「それを現実にするのが私の使命だよ」
「とりあえずぅ~…ティダンの名を穢す不届き者はシーンの信徒が成敗してやるわ!」
いつもの“
途端、ククルックは笑い出した。神殿長の優しげな顔が、邪悪に歪む。
「やってみたまえ!」
ククルックは人型の魔動機に飛び乗った。気球を背負った蜘蛛のような魔動機が、人型魔動機を護衛するように二機展開する。
「ドムズヴァーにグルバルバか」
ー公式設定だと人が乗るには小さいので大型ドムズヴァーだと思ってくださいー
「取り巻きの似非坊主どもは任しとき」カイトがナイフを構える。
アルマがシーンに
セネカが挑発攻撃で注意を引くと、ククルックはドムズヴァーを動かした。
「くらえいっ」
「っ!」
セネカはまばゆい閃光をしのぐと、大砲の弾と膝蹴りをかわす。
「キュオとアルマの魔力を上げるぜ!【スペル・エンハンス】!!」
「おらー!メイヨバンカイだっけオメイバンカイだっけ?」
リンダは8号が殴りつけた二機目グルバルバを地面に叩きつけ、蹴り潰した。
『おー、と言う事は私は脚を殴るだけか』
キュオの魔力撃とアルマの【フォース】が脚部を直撃する。
「まだだ!お楽しみはこれからだ!」
「ぐうっ!?」
セネカがドムズヴァーの閃光をまともに食らってしまい、目がくらむ。
「はっはァ、行くぞ!」
「ちっ、面倒な真似を……」
ドムズヴァーの上半身の薙ぎ払いが、キュオ共々直撃してしまった。
「目障りだぞ、犬娘!」
キュオは追い討ちとして膝蹴りを食らう。
『だんだんきつくなってきたな、まあまだ大丈夫。私は脚部を攻撃するのみ!』
だがドムズヴァーの脚部は堅牢で、ラゼルの収束【スパーク】と8号の攻撃を受けてもまだ壊れない。
「おらあっ!」
リンダが両手で殴りつける。これで脚部にようやくひびが入った。
「くっそー、一発外した」
「アルマ!耐えてみせる。脚をやってくれ」
セネカの言葉に、アルマは口角を上げた。
「おっけー!」
アルマの【フォース】が飛ぶ。彼女は
ばごん!とドムズヴァー脚部が砕け散り、擱座する。
『さーてこれで胴体に攻撃が届くぞっと』
「ええい、
「あーら私は人間ですけどぉ?」
アルマの皮肉をククルックは無視した。
「犬娘っ!」
『めがぁぁぁ』
今度はキュオが閃光の犠牲となり、再び薙ぎ払いを食らってしまう。
『咎める閃光』……対象が一体とはいえ、しのげなければ10秒間視覚を奪うドムズヴァーの兵装に一行は苦戦を余儀なくされた。
それでも、少しずつ重装甲は削られていき……ついに崩壊した。
「月神に代わって、お仕置きよ!」
アルマの【フォース】が胴体を打ち砕き、ついにドムズヴァーは機能を停止したのだ。
「えぇい、覚えておれよデミども!次は必ず!!」
「はぁ!?」
ラゼルは爆音を立てて虚空にかっ飛んでいくククルックを見て口をあんぐりと開けた。
『え、脱出装置!?』
「しぶとい爺さんだ」
コルボーは岩山の上にある。今の一行に、ククルックを追跡する手立てはなかった。
「あのジジイには逃げられちまったが……まあ、落着かね」
取り巻きの神官たちを縛り上げて、カイトが言った。
「この町は本来の姿に戻るはずだ」
「ヘリオス法王国が知らんぷりしなきゃいいけど」ぽつりと、アルマ。
『あー、それは知らんぷりしそうな気がする。なんか適当にトカゲのしっぽが切られて終わりかも』
キュオはげんなりした。皮肉にも、被害者が全員生存しているので『コレで一件落着だ』と政府が頬被りする可能性は高い。
「ま、それはこの国のやり方で成されるだろうさ。俺たちが気にすることはない」
「ありがとう、みんな。オレも、冒険者になってみんなみたいに強くなるよ!」
「そうか。困ったことがあればまた尋ねてくれ」
セネカがファグスに笑いかけると、リンダが言った。
「あたしは、ダルガッツたちが快復したらヘリオポリスに戻るぜ。ファグスの母ちゃんも連れ帰らないといけないしな」
カイトは、というといつの間にか姿を消している。
『ありゃ。別れの挨拶しそびれたなあ』
「あまりお互いに干渉するものではないからな。あれでいい」
ファグス、リンダに別れを告げ、一行は帰途についた。
王都クーダスに帰り着くと、さっそく依頼主のエデルガルトに報告を行う。
セネカが事件の詳細を報告すると、エデルガルドは頷いた。
「少なくとも、あの子たちは救われたわけね。今はそれで十分よ」
「ああ、同感だ」
「セネカ、それにみなさん、お疲れ様」
「えーと、じゃ依頼は成功ちゅことで?」
エデルガルトはうなずくと、銀貨袋を示した。
「わーい」
尻尾をパタパタと振るキュオであった。
(第4話につづく)
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