その6 アイの願い

<ここまでのあらすじ>


三人の冒険者と一人の放浪者は女神の分体"アイ"の成長を手助けし、導くことになった。

キュオから財布をスって御用となったスリは晒し者の刑に処されていたが、このままではもうじきデュラハンに殺されてしまうという。

そこで、アイの宣伝も兼ねて一行はデュラハン退治をすることになった。






<簡易キャラ紹介>


【アルマ】(人間/女/16歳):シーン神官。見た目に似合わずズケズケとした物言いをする。


【キュオ】(リカント/女/18歳):ドルイドの魔法戦士。余計な事をしゃべっては耳に煮干しを突っ込まれそうになる。


【セネカ】(グラスランナー/男/26歳):軽戦士。何よりも自由を愛する放浪者ヴァグランツ


【ラゼル】(ナイトメア/男/18歳):陽気でお気楽な操霊術士。妹分のアルマには弱い。


【ビハール】(タビット/男/18歳):西の大陸から漂流してきた神学者。


【アイ】(神族/女/0歳):遺跡『神々の扉』に生み出された小さな女の子。実は二の剣の女神アイリーンの分体だが、皆の努力の甲斐あって人族の神になりつつある。



【カラシン】(人間/男/44歳):冒険者ギルド支部“静かなる巨兵亭”支部長。一行への扱いはぞんざい。






 野次馬たちが固唾を呑んで見守る中、デュラハンは姿を現した。


「よー、予告通り命を頂きに来たぞ」


 予想外にフランクなアンデッドに、ちょっとずっこけそうになるラゼル。


「つか、あんた普通に首ないか?」


「首を抱えてると、武器持ちながら馬車操れないんでなー。首はちゃんと(?)胴体と分離してるぜ」



ーオイ、公式設定にケンカ売ってるよこのGM……ー



「ま、ともあれ邪魔するならお前らにも死んでもらうぞ?」


 本来のターゲットである元スリは頭を抱えて震えている。まあ無理もないが。


「悪いな。輪廻に還るのはあんたのほうさ!」


 ラゼルが言うと、女性陣が次々と決めぜりふを叫んだ。


月神シーンに代わってお仕置きよ!」


『ナチュラルパワーは野生の力!キュオゴリラ!』


「月と自由の名のもとに!」


 アイが叫ぶと、彼女は瞬時に可愛らしい、ただし現在のラクシア人族にとっては少々奇抜な服装に変わる。


「ん?それって魔動機文明期の水兵セーラーの……」  



ーそれ以上いけない。まあアルマの台詞がそもそも……ー 



「ともかく!まず私は前衛二人に【セイクリッド・ウェポン】でいいわね!」


「アイは……?」


 現在、アイはアルマと同等の神聖魔法が使えるレベルにまで上がっている。


『【ブレス】でセネカの敏捷度を上げてもらおっか。ラゼルは【スペル・エンハンス】でアイちゃんとアルマの魔力上げて』


「わかった」


「おう」


 支援魔法がかかり終わると、前衛が動く。

 真っ先に動いたのはゴーレム8号だが、初手は両腕とも外してしまった。


『んじゃ、私はセネカに【ビックディフェンダー】かけて、戦車に魔力撃!』


 キュオの一撃に、戦車がぼごん!と音を立てて凹む。


 セネカが続けて挑発攻撃を試みるも、これは外して一ゾロしまう。




 デュラハンは【アース・ヒール】で馬車を修復しつつ、キュオに馬車をぶつけた。


『いったぁー、防御魔法かけてもらえばよかったー』


 当初、作戦会議で【セイクリッド・シールド】や【アース・シールド】を使うという案もあったのだが、【ブレス】と【スペル・エンハンス】を優先した結果である。

 まあ、あちらを立てればこちらが立たず……というところ。


 さらに馬による攻撃が行われるが、これはキュオとセネカはひらりと避けた。




 セネカが挑発攻撃を戦車に当てると、ついで【インテンス・コントロール】で強化されたゴーレム8号とキュオが集中攻撃を掛ける。


『頼むよ、お二人さん!』


 今回のメイン、【ホーリー・ライト】の時間である。


「私から行くわ。月の光よ、彷徨える魂に正しき道を照らし給え!【ホーリー・ライト】!」


「月と自由の名のもとに!【ホーリー・ライト】!」


 アルマ、次いでアイの聖なる光がデュラハンを灼く。


「ぐあっ……だー、戦車が壊れた!」


 デュラハンは壊れた戦車から身を起こすと、半ばヤケ気味に叫んだ。


「【ファナティシズム】!暴れろ馬ども!!」


 暴れ馬となった馬たちはセネカに襲いかかるも、軽々とかわされる。


「さあ、とどめ刺すわよ!」


「うん!」


 アルマとアイの聖なる光が再び炸裂し、デュラハンは敢えなく光の向こうへ消えた。




「た……助かったのか?」


 元スリはおそるおそる顔を上げた。


「ああ、済んだぞ。アイに感謝するんだな」


 素っ気なく、セネカ。


「ああああありがとうございますー!」


「おー、見事に決まったな!」


「良い見世物だったぜオチビちゃん!いや、女神様だったなわっはっは」


 野次馬たちも歓声を上げる。


「のこりのおつとめがんばって?」


 アイの悪気ないひとことに、元スリはうなだれる。


「……そーいや、俺まだ暫く繋がれてなきゃいかんのだった」


「まーそんくらい耐えろ」


 キュオが肩をすくめる。


「ごくろうさん、やっぱり僕が出てこないでよかったね」


「あ、ビハール先生」


 ビハールも参戦していればもっと楽に倒せただろうが、その分アイの印象が薄くなってしまっただろう。


「アイちゃんが思ったよりずっと強くてびっくりしたよ」


「さすがは神様ってとこだよねー」


 キュオが言った。もはやアイの力はキュオたちと肩を並べるレベルまで到達している。本来、小神レベルでも常人の敵うところではないので、真の神の域にはまだまだだが。


「さ、冒険者ギルドに戻ろ。カラシンさんが祝杯用意してるってさ!」




 “静かなる巨兵亭”にはライダーギルドの博労やマギテック協会の親方、衛兵、遺跡ギルドの男などが集まっており、口々に勝利を祝ってくれた。


「アイちゃん、月神様への貴女の想いはよくわかりました。貴女は既に立派なルミエルの使徒ですよ」


「……ちがう」


 シスターグレイスの言葉に、アイは首を横に振った。


「えっ?」


!」


「……それは、また」


「んー、なんかようわからんけど、元々の神さんに義理を欠くのはあかんなあ。アイちゃんは筋を通そうとしとるんやな?」


「……たぶん?」


「相変わらずどこまでわかってんのかよくわからん女神さんだな」


 カラシンは首をかしげた。


「月と自由の名のもとに、か……アイちゃんはシーンの眷属であると共に、元々のル・ロウドの眷属である事も捨ててはいない、ということかな」


「これはこれは……話に聞くワギル=イシナニとやらより凄い事じゃないのかい?」


 ビハールと女魔術師がうなずき合う橫で、ラゼルは頭を抱えたくなった。


「アイちゃん……イグニスについては当面はお口チャックしてほしいな」


 せっかく人族の神認定してもらったばかりなのに、また危険神扱いされてはたまらない。





 翌日、クーダスの広場でアイは演説を行い、聴衆から万雷の拍手で迎えられた。

 これで神としての力もだいぶ高まっただろうと判断した一行は、更に翌日、『神々の扉』へと向かったのである。


「さて、僕はここに来るのは初めてなんだが、以前もこんなところだったのかい?」


 ビハールの問いに、アイは首をかしげた。


「……なんかちがう」


「だな」


「何か入り込んだんじゃないでしょうね」


 アルマは周囲を見回した。テンハーロの言によれば神でないと扱えないはずだが……


「あ、またきましたね」


「「げ」」


 声の主を見て、ラゼルとキュオは眉をひそめた。前回勝手に壊れた挙げ句襲いかかってきたアストレイディオだ。


「あんた、破壊しなかったっけ」


「細かい事気にするとハゲますよ?」


 余計なことを言ってくるが、一応意思の疎通は可能らしい。


「壊れかけのアストレイドが何をしに?」


 アルマが冷めた声で言った。アストレイディオは胴体のみになっている。

 

「今回は本来のお仕事ですよ。即ち、神々の扉が生み出した分体が本来の仕事をこなせるか見るためのね」


 アストレイディオがアイに視線を向けた。


「……」


「さて……残念ながら、今の分体ではあと一歩ってところですねえ。今のままでは神々の都へ向かう扉を開けるには魔力が足りません」


「じゃあ、出直して来いって?」ラゼルは首をすくめた。


(『今のままでは』ということは方法のありそうな口ぶりであるけどな)


「方法はありますよ?要は魔力をかき集めればいいのです。一番手っ取り早いのはこの神器から魔力を得る事ですが……」


 アストレイディオの口ぶりに不吉なものを感じた一行は、思わず身構える。


「今の分体には反作用が大きすぎるでしょう。そこで……」


 見覚えのある蛮族が出現する。ただし、その身体は腐敗していたが。


「皆さん、ここで派手に戦いましょう」


「はぁ!?」


「いろいろちょっと待て!!」


 アルマたちの抗議など、どこ吹く風。


「分体のこれまでの記憶から、まあ勝てそうなのを再構成してみました。あ、もうおひとりいましたよ?」


「おぉい!」


「おお、なんか復活した!しかも強くなってる!」


 先日倒したデュラハン……名前はデュランらしい……が喜びの声を上げた。


「色々言いたい事はあるでしょうが、これが魔力充填を満たして且つ反作用で誰かが即死とかにならない、ギリギリのラインなのですよ」


 というか、まず戦うなどとは一言も言っていない。


「神と人には本来そこまでの力の差があるのです。さあ頑張ってくださいねー」


「だから待てって言ってるでしょー!!」


………


……







「はーい皆さんおめでとうございます!」


 やっとのことで再生怪人……もといアラクルーデルとデュラハンを倒した一行に、アストレイディオはにこやかに言った。


「ぜえぜえぜえ……あーしんど!」


「ヤバかったなほんと」


「もう今日は嫌よ!」


 何しろアラクルーデルのアンデッドたちに包囲された上に、デュランは『突撃』(本体が攻撃できないという点を除いてトランプルと同じ)という新技をひっさげてきたのだ。

 セネカが挑発を駆使していなければ、死人が出かねないところだ。


「この戦いによって魔力が充填されたはずですよ、さあ奥へずずいと」


「なにこれ?なにこれー?」


 アイの身体が、みるみる大きくなっていく。


「ええっ!?」


「神様って魔力吸うと膨れるの?」


「いや、これは成長……かな?」


 グラマラスな大人の美女となったアイを見て、ラゼルはドキリとした。おそらく、本来のアイリーンはこういう姿なのだろう。幸い(?)どういう仕組みなのか身体が大きくなったにも関わらず、服は破れていない。

 

「まあ一時的ですけどね。さあ最奥の間へどうぞ。私はこれでー」


「お、おう」


 胴体だけのアストレイディオは、ごろごろ転がりながらどこかへ去って行く。ここは笑うところなのだろうか。





「またパンイチヒゲ男が出るのかしら」


『もちろんだ!』


 アルマの言葉に応えるように、パンツ一丁の男……一応魔法文明期の英雄らしい、テンハーロの映像が現れる。


「おお、魔剣グランティアンじゃないか!レーゼルドーン大陸で伝説ともなっている第四世代の大魔剣だよ」


 テンハーロと共に映し出された魔剣を見て、ビハールが解説する。


「……なにすればいい?」


『もちろん神々の都へご招待……と言いたいところだが』


 アイの問いに、テンハーロは何故か語尾を濁した。


「一方通行は困る。俺はこちら側の人間だ」


 セネカは腕組みをして、言った。


「自由に往来できるのか?」


「少なくとも、一往復はできないとな。あっちに行ったって証明も持ち帰れないと、依頼達成にならないぜ」


 その問いに、テンハーロは頭をかきながら答える。


『あー、自由な往来はできる状態じゃないな。なんせ……(ガガッ)』


「ありゃ」


 通信状態が悪いのか、テンハーロの映像は消えてしまった。


「しかし困ったね、これだと行き来できるって証明にならない。その為には行ってみる必要があるわけだ」


 言葉とは裏腹に、凄くワクワクしている様子のビハールを見て、キュオはため息をついた。


「そりゃビハールさんにとっちゃ故郷に戻れる可能性が高いんだろうけどさあ……どうするこれ?」


「んー……政府の人を連れてきて、ビハールさんと一緒に行ってもらうか?」


 ラゼルが視線を向けると、アイは困ったような顔をした。


「きびしいかも……あいのまりょくもいつまでもつづかない。もういちどためるにはなにやらされるか……」


「つまり、行ける証明を得るには今私らが大博打撃つ必要があるわけか。そして次がある保証はないと」


「……ほんたいにあえたら、かたみちじゃないかも。いまなら……あいにいける」


「【エスケープ】か!」


 【エスケープ】は信仰する神の最寄りの神殿か祠に行ける神聖魔法だ。今ここで使うとクーダスの“静かなる巨兵亭”に飛んでしまうが、あっちに行けば恐らくはアイリーンの神殿に飛ぶだろう。


「アイちゃんの神格がまた汚染されない?」

 

 アルマの懸念はもっともなことだった。せっかく本体とかなり違う性格の神になりつつあるアイだが、本体への信仰と接触したら影響を受けかねない。


「向こうに本体がいる以上、そこまで警戒する必要はないんじゃないかな」


「ああ、アイリーン本体がいるからそういう信仰イメージは本体にいくわけか……でも」


 アルマはアイを複雑な表情で見つめ、言った。


「シスターアシュレイに挨拶もできないのは正直イヤよ」


 物語上、まだ登場していないが、シスターアシュレイはアルマの育ての親である。


「まあ……オレも、シーン神殿に何も言わずに行くのはな」


「俺だってこちらに多くのコネクションやバックグラウンドを抱えてる。精々身軽なのはビハール、アンタだけだろうさ」


「僕としちゃそりゃ行きたいからねえ……でも僕は単独では無茶できない」


 ビハールが縋るような眼をすると、セネカはうなずいた。


「ああ、この依頼は俺たちの仕事だ。アイ」


 セネカは自分よりも背の高くなった女神をじっと見上げる。


「信じてもいいか?」


「だいじょうぶとはいえない……けど、しんじて?」


「そう言われちゃあな」


 ラゼルは額に手をやった。


「ビハール先生が一度渡ってきてるんだ。どうしようもないなら、またオーラントレック海を渡って帰ればいいさ」


 海を渡った時は寧ろパテット君が色々やってくれたところが大きいんだけどね。ビハールは小声で呟いた。


「私も冒険者だ、無茶は承知の上だから皆が言うなら止めないよ」


「う……」


 キュオまでもがやる気、となるとアルマは進退窮まってしまう。


「待て。アルマの言い分ももっともだ」


 助け船を出したのはセネカだった。


「二度と帰れないかもしれない旅だ。万全の準備と周囲への挨拶は欠かせない」


 あなた方の世界で言えば、『片道切符で火星に行こう。運が良ければ、向こうで地球に帰るロケットに乗せてもらえるかもね』といった感じだろうか。尻込みをしても無理はない。


「……挨拶できたら、アルマも来るか?」


「ラゼルほっといたらシスターに怒られるわ」


 肩をすくめるアルマ。


「一旦帰るのかー。魔力、なくなっちゃうかもよ?」


「またあの戦いをやればいいさ。何度でもな」


 キュオに向かって、セネカが言った。







……えーと、あいです……ついこないだかみさまになりました。


なにがなんだわかんないうちに、ひどいめにあいかけました。


でも、たすけてくれるひとがいっぱいいました。


なんにもできなかったけど、みんなにたすけてもらってたら、いつのまにかなんでもそれなりにできるようになっちゃいました。


あいは・・・かみさまとしてはまだまだ。


でも、みんながいれば、きっとなんでもできる。


あいがみんなをたすける。みんなもあいをたすけてくれる。あいはそんなかみさまなんだとおもいます。


そんなんでいいとおもってくれるなら……これからもどうかよろしくです!



(第3話へつづく)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る