その3 アイと奇妙な遺跡
<ここまでのあらすじ>
『堤防修復工事の警備兼手伝い』に駆り出された三人の冒険者と一人の放浪者は、不思議な遺跡と小さな女の子を発見する。
神学者ビハールによれば、この女の子は二の剣の神アイリーンなのだというが……
<簡易キャラ紹介>
【アルマ】(人間/女/16歳):シーン神官。見た目に似合わずズケズケとした物言いをする。
【キュオ】(リカント/女/18歳):ドルイドの魔法戦士。余計な事をしゃべっては耳に煮干しを突っ込まれそうになる。
【セネカ】(グラスランナー/男/26歳):軽戦士。何よりも自由を愛する
【ラゼル】(ナイトメア/男/18歳):陽気でお気楽な操霊術士。妹分のアルマには弱い。
【ビハール】(タビット/男/18歳):西の大陸から漂流してきた神学者。
【アイ】(神族/女/?歳):遺跡と共にやって来た小さな女の子。実は二の剣の女神アイリーンの分体らしく……?
「よーし、仕切り直しと行くか」
ラゼルが謎の遺跡を見上げると、ゴーレム8号もそれに倣った。
アイと出会った翌朝。神学者ビハールは、一度馬車でシュヴード王国の都クーダスの冒険者ギルド支部『静かなる巨兵亭』に報告に戻ることを勧めた。
依頼中、しかも交通費も食費も依頼主持ちの依頼中に発見した遺跡である以上、きちんと報告するのが筋だというのだ。そして報告すれば、まず確実にギルドからの探索依頼を得ることになるだろう、と。
彼の助言通り、支部長カラシンは改めて謎の遺跡の探索依頼を一行に提示した。そしてさらに翌朝、一行は再び謎の遺跡に向かったのだった。
「結局、この子ついてきちゃったわね」
自身の手を握る女の子=アイ、こと女神アイリーンの分体を見ながら、アルマは言った。
「やっぱシーン神殿に預けてくればよかったかな」
「なんでウチなのよ」
『そりゃー、クーダスの孤児院はあそこだけだし。どう見ても幼女にしか見えないし、まさか支部長に預かってもらうわけにもいかないっしょ』
「うーん……」
アルマは眉をひそめた。彼女もシーン神官である以上、二の剣の女神アイリーンの分体らしき存在をシーン神殿に入れるのには抵抗があるらしかった。
「そういや、ビハール先生は来なかったな。神学者だし神絡みの遺跡には目が無いと思ったんだけど」
『戦闘は極力避けたいから遠慮しとくってさー。じゃ、そろそろ行こうよ』
「そうするか。罠はないか……?」
セネカはキュオの【ケイナインチェイサー】の支援を受けて注意深く入り口近くを検分した。罠は無いと判断した彼は足を踏み出したのだが……
「ん?」
「ありゃ?」
ラゼルたちは、セネカがまるで何者かに押し戻されるように後退したのを見た。
「魔力結界の類か……」
『しかも神紀文明のね……こりゃ力づくで押し通るのは無理っぽいね』
「家主同伴なら入れるかな?」
ラゼルがアイに視線を向ける。
『ああ、そゆことね。アイちゃーん、入れる?』
アイは首をかしげつつも、入り口をするりと通り抜けた。セネカがそれに続くと、今度は抵抗はなかった。
『うん、入れるみたい。神様同伴で行く遺跡ねえ』
「古今東西の名だたる英雄も、神様と一緒に冒険したってことはそうそうないんじゃね?」
ラゼルは口笛を吹きながら遺跡内部に踏み込んだ。
踏み込んだ最初の部屋からは、三つの出入り口を確認することができた。特に照明があるわけでもないのに、ぼんやりと明るい。
「んー、まあ片っ端から当たってみるか?」
「なんでもいいから行きましょ」
「俺が先行する。アイを囲んで、後ろ……来た道も気にしておいてくれ」
「んじゃあ……オレと8号、アルマでアイちゃんを挟んで、キュオが最後尾かな」
『はいなー』
一行は、セネカを先頭として二番目の部屋に踏み込んだ。外から見たときは神殿か祠のように見えた遺跡だが、まるで洞窟の中だった。
「随分なにもない場所ね」
『無駄に広いね、そしてぼんやり光ってるのも一緒。これ多分、暗視が無い種族が入るのを前提にしてたんじゃないかな』
「親切設計だな……んお!?」
一行が部屋の中を見回していると、奇妙な物体が床から生えてきた。
「わっ、なにアレ?」
「つーか、オチが不明だな。見ざる、言わざるはわかるんだけど」
ラゼルは頬をかいた。
生えてきた三体の奇妙な物体。それはいずれもゴリラの胸像であった。
目を手で隠しているゴリラ。
口を手で覆っているゴリラ。
そして……アルマたちは初めて見る、正装らしき
「……着飾ってやがる」
「んー、まあ、『見ざる』『言わざる』と来たら……『聞かざる』なんだろ、三体目は」
ラゼルが強引にまとめると、アイが口を開いた。
「……なんかかいてある」
それぞれの像の手前に、文字が浮かび上がっていた。
「ラゼル、読めるか?」
「んにゃ、神紀文明語だな。アイちゃん、オレたちにわかるように読んでくれる?」
アイはこくりとうなずくと、通訳した。
「うそつきはいっぴき、うそつきをどつけ」
見ないゴリラ「くちふさいでるのがうそつき」
言わないゴリラ「いちばんボケてるやつがうそつき」
着飾るゴリラ「じぶん、うそつきじゃない」
「ふーむ」
『神紀文明って一体……?』
「この場合、嘘つきのケースを順に当てはめていけばいいだろう」
「んー……とすると、<いわざる>が嘘つきかな?」
『え、なんで?』
「もし<いわざる>が本当のことを言ってるとすると……<みざる>は口塞いでるやつ=<いわざる>が嘘つきと言ってるんで<みざる>は嘘つきになる。そして<いわざる>の発言では一番ボケてる=<きかざる>が嘘つきになるんで、嘘つきが二匹いることになっちゃう」
ラゼルの回答は妙に込み入った感じとなったが、まず『見猿が嘘とすると言わ猿の発言が真となり、聞か猿も嘘となって嘘つきは二匹になってしまう』『言わ猿が嘘ならば見猿と聞か猿の発言は真となる』『聞か猿が嘘ならば言わ猿の発言は真だが見猿も嘘になってしまう』……というわけで嘘つきが一匹だけなのは言わ猿が嘘つきの時だけ、となる。
『なーるほど。んじゃ、誰がどつく?』
「念のため、ゴーレム8号にどついてもらおうか。行け、8号!」
ゴーレム8号が『言わざる』ゴリラの像をどつくと、像はボロリと崩れ。なぜかバナナらしき物体が落ちてきた。
「なぁに、あれぇ」
『うん、どこから落ちて来たのかとかもう考えない方が良いね』
アイは8号が拾い上げたバナナらしき物体を見つめると、それにかじりついた。
『アイちゃん、変な物食べちゃいけません……変なの?それ食べ物じゃない?』
「……うぇ」
顔をしかめるアイ。どうやら食べものではなかったようだ。
「んー……出来はおそろしく精巧だけど、作り物だなこりゃ」
「まぁ一応回収しておこう。この部屋には他の出入り口は見当たらないな」
「んじゃ、次の部屋に行きますか」
セネカが第三の部屋に入ろうとすると、再びあの抵抗に阻まれてしまった。今度はアイと一緒だというのに。
「……むー」
『アイちゃん同伴でもだめか』
「ということは、もう一つの部屋を先にクリアしろということかな」
「んじゃ、第四の部屋だね」
第四の部屋に足を踏み入れると……一同は「またか」という表情で互いを見た。
今度は胸像ではない丸ごとのゴリラが二体。そいつらが、上を見上げて荒れ狂っている。
『上のバナナが取れなくて暴れてるっぽい?』
「その辺に棒とか踏み台ないかな?」
ラゼルは周囲を見回した。
「でも一個じゃ喧嘩になるか」
「あの吊られているバナナを投擲で落として、さっきのバナナを渡す、で解決しないか?」
『あー、でもその時間はくれないみたい』
「うがががががっ!」
ゴリラたちは一行に気付くと、臨戦態勢を取った。戦う以外の選択肢はなさそうだ。
「げ、本物のフォレストコングだな。ともかく、パイセンとキュオに【ファイア・ウェポン】だ」
ラゼルが支援魔法をかけると、セネカはBに接近しつつAにナイフを投げて両者を引きつけようとしたが、投げたナイフが外れてしまった。
「意外ときついな」
『んじゃ、【キャッツアイ】に【ウィングフライヤー】!!』
魔力撃をコングAに向かって振り下ろしたキュオは命中を確信した……のだが、命中するはずの一撃は空しく
同時に接近していたゴーレム8号の拳も、片方だけが命中する。
「んもう!フォースいくわよ」
アルマの手から放たれた光弾がコングAに突き刺さる。怒りを露わにしたコングAは、ひとまず手近の8号を殴りつけた。強烈な一撃を食らい、よろめく。
コングBのほうはセネカに殴りかかったが、ひらりとかわされる。そのままダガーで斬りつけたが、こちらも当たらなかった。
「むう」
「でぇぇぇい!」
「ごあああっ!?」
炎をまとったキュオの杖がまともに入り、悲鳴を上げるコングA。それでもコングAは倒れない。
『むー、意外と強敵だなゴリラ』
「一応格上(※PCLv6に対してコングLv7)だぞ。たたみかけるぜ!」
コングAにラゼルが
「とどめよ!」
アルマが放った【フォース】の光弾が
コングBの攻撃はセネカには届かなかった。自分の攻撃も届いていないのがセネカには不本意だが。代わってキュオが渾身の力でコングBを打ち据える。
「【インテンス・コントロール】やってみるか!」
強化魔法を受けたゴーレム8号は生き生きと動き出す。
というか、とにかく攻撃を当てないことには始まらないのだから、【インテンス・コントロール】が最優先だよなあ……と後になって思うラゼルだった。
キュオがコングBに手痛い反撃を食らうも、そこまでだった。
魔香草で魔力を補給したあと、戦利品として毛皮を剥ぎ取る。
セネカが吊られているバナナにナイフを投げると、あっけなくバナナは落ちてきた。
「ここ、かいてあった」
アイが地面の文字を指さし、言った。
「『ひとらしさをみせよ』、って」
「へー、道具を使え、ってことか。パイセンが問題文知らずに当てたんだな」
「そうか。さて、戻るぞ」
「……まだだめ」
「なに?」
またしても第三の部屋に入れなかったアイが、首をふるふると振った。
「んー?あー…… ここの部屋(最初の部屋)自体は調べてないかな」
気がついたラゼルが頭をかいた。
「そういうことだな。出入り口がどこにあるか目で確認しただけだ」
改めてセネカが探索すると、隠し通路が見つかった。
「……さて」
『うん、もう驚かないぞ』
部屋の中にはまたしてもゴリラが二体。幸い(?)、今度は像のようだが。
「なんか説明文ある?」
「ばななをたべさせましょう」
「……つーことはコレか」
ラゼルはゴーレム8号が持つ二個のバナナの模型を見つめた。
「で、転がっているのは何だ?」
セネカの視線の先を追うと、ラゼルは首をひねった。
「箸……かな」
『なんか変な棒だね』
「異国で使われてる食器で、二本の棒を使って食べものをつまんで食べるのさ」
「二本の棒で一組か。だが、対して像は二体だが?」
ラゼルの説明を聞いて、セネカは呟いた。
「あ、これうごく?」
アイがゴリラ像に触れると像はポーズを変える。
「箸を折って二膳にする?……いや、箸じゃなくて一本ずつ突き刺すのか」
『使うにしては、そもそもこの食器長すぎない?』
「……俺はもう手で剥いて食えばいいと思うんだが」
「だよなー、そもそもバナナ食べるときに箸もフォークも要らない」
「食べさせましょう、ねえ」
アルマが呟くと、セネカの頭に閃くものがあった。
「相互に食わせればいいんじゃないか。ゴリラに互いに手を差し伸べさせたらいい」
「ああ、ポーズを変えさせて?」
ゴリラを向かい合わせ、互いに口にバナナを差し出させるように動かすと、バナナはふっと消える。
「ま、とにかくこれでOKなんでしょ」
アルマが言った瞬間、ふっと軽やかな風が一行を通り抜けた。
「ようやくさっきのところが通れるようになったかな?」
「戻るか。今度こそ進ませてもらわないとな」
『あー、めんどくさかったねぇ』
口々に言いつつ、一行は第三の部屋へ向かった。
(つづく)
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