第44話 目より先に手が肥えることはない

「き、決まったああぁァァァ!! 参寺サンデラ全国大会、優勝をその手に納めたのはこの男!! 花咲おじさんだぁぁぁぁ!! 前回チャンピオン敗れるぅぅぅぅ!!」


 優勝した。

 いえーい。


「花咲おじさん選手には、優勝賞金の100万円が贈られます!! 花咲おじさん選手、今の気持ちを一言!」

「え、一言? うーん。バタピーってバター使ってなくてもバタピーって呼ぶのおかしくないですか?」

「はあい素敵な感想ありがとうございました!」


 何も考えてなかった。

 急にそういう話題振ってくるのやめてほしい。


 絶望的な優勝コメントを残した俺。

 司会は何事もなかったかのように斬り捨てた。

 いやごめんて。悪かったとは思ってるよ。

 でも事前通知もなくそういうことしてくる方にも問題があるんじゃないかなって思う。


「ちょ、ちょっと待ってよ!」


 もういっそ、俺自身も今のコメントを忘れてしまおうかと思った時だった。

 待ったの声が隣から入った。

 龍華りゅうかだ。


「今の曲を初見でAPオールパーフェクトしたって言うの!?」

「そうだけど」

「そんなのあり得ない!!」

「あんただって1ミスじゃねえか」

「その1ミスが問題なの!! あのノーツの速度は異常よ! 見てからじゃ反応できない! あんた事前に譜面を知っていたんじゃないの!?」


 言いがかりもいいところだ。

 だが、観客の中は「確かに」だとか「不正があったんじゃないか」と疑っている声もあるようだ。


 まあ、気持ちはわからんでもない。

 俺も持たざる者だったときは、才能を持ってる奴らを妬ましいと思ったこともあるからな。


「いいか? まず、参寺サンデラのfpsを確認しよう。fpsが何かは分かるな?」

「frames per second。1秒あたりに画面が更新される回数よね」

「そうだ。参寺サンデラは60fps。言い換えれば、どれだけ早いノーツであろうと、1/60秒より細かな判定を参寺サンデラではできないということだ」

「待ってよ。あたしは目に自信があるの。あのノーツが画面に映っていたのはほんの4フレーム。時間にして0.067秒よ!?」

「だから?」

「目で追えても、反応できる時間じゃない!!」

「逆だ」

「……逆?」


 ゾーンを使用中の俺は、1秒が100秒になる世界で生きている。つまり、全てのノーツに対し、約1.67秒の入力猶予が存在している。

 ジャストタイミングでノーツを叩くことなんて、造作もないことだ。


「1秒間に60枚しか動きの無い世界なんて、止まって見えるって話だ」

「だ、だったら証明してみなさいよ!」

「……そうだな。ちょうどそこにモグラたたきがある。あれで試すか」


 ここはゲームセンター。

 当然、モグラたたきも存在する。


 ただ、一般的な平面上のもぐらたたきとは違って、上下左右にモグラが出てくる穴が開いているのが特徴的なゲーム機だった。

 昨日見た時から気になってはいたんだよね。


『3』


 カウントダウンが始まる。


『2』


 そうだ。せっかくだから未来予知も合間合間で使っていこうか。


『1』


 ベストスコアを目指して、な。



「おいやべえって! なんだあれ!」

「モグラ全然出てこねえじゃん!」

「違う! 顔を出す前に叩かれているんだ!!」


 穴からモグラが飛び出ようとするのを視認すると、すぐに体を動かす。人外染みたAGI敏捷DEX器用に裏打ちされた、正確無比な音速のスナイプが、モグラの顔が現れる前にモグラの頭を貫いていく。


「マジかよ! 俺このゲームのスコアランカーだったんだけど、10秒残して新記録ペースだぞこれ!」

「音ゲーだけじゃなかったのか!」

「本当に見てから叩いてるってことか!!」

「すげええ!!」


 ダン。

 最後の一体を叩き、ゲームが終了した。

 リザルトが表示される。


「で、納得できたか? 龍華」


 俺がたたき出した新記録。

 それは、元1位に圧倒的な点差をつけていた。


「……すぅっごいね!! お兄さん!!」

「ん!?」

「あたし! 感動しちゃった! まさかあたしより目がいい人と出会えるなんて!!」


 目をキラキラとさせる龍華。

 おかしい。

 俺がやったことって実力差を見せつける陰険プレイだぞ!?

 やめろ、くっつくな!

 どこに好感を抱くポイントがあったんだよ!!


「ねね! 今日一緒にゲームしようよ! 久々に格上の相手を見つけて、あたし今すっごく燃えてるの!」


 ……おー、青春だな。

 敵は強いほど燃えるっていうタイプか。

 熱血だねぇ。


 その気持ちはすごい大事だと思う。

 でもそれはそれとして、ゲームの相手はお断り。


 何故って。

 お前の1日、俺の100日に相当するんだわ。

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