第43話 龍華の決勝戦

 こんな話を聞いたことはあるだろうか。

 ――アニメーションは1秒あたり24コマ程度あると、連続的な静止画ではなく動画として認識できる。

 これはどうしてかというと、一般に人間が1秒間に認識する視界が30コマ分に相当するためだ。

 1秒間に24枚もの静止画を再生するアニメはもはや、人が認識している動きのある世界とほぼ変わりない速度で再生されていることになる。

 そこまで近似した世界を区別して認識するのは難しい。


 さて、ではこんな話は聞いたことがあるだろうか。

 ――1流のボクサーにとって、素人のパンチは止まっているように見える。


 この現象がどうして発生するかを説明しよう。

 まず、先にも述べた通り、人の動体視力は1秒あたり30コマを認識するのが一般的であると言われている。

 だが、1流のボクサーの視力は違う。


 100コマ。


 それがトッププロのボクサーが有すると言われている、1秒あたりに認識する風景の枚数である。


 10万馬力のパワーを持つロボットのアニメを見たことはあるだろうか。あれは最初、1秒あたり8枚で作成されたアニメだった。

 昨今のアニメと比べればそのカクツキがわかると思う。


 そう。

 これこそが1流のボクサーがパンチを止まって見えると口にする理由。



 だが、龍華の目の良さはそれすらも遥かにしのぐ。

 動体視力で言えば、おそらく人類最高クラス。


 加えて言うなら、反射神経。

 人間の反応速度の限界はおよそ0.1秒と言われるが、彼女の反射神経はそれに限りなく近かった。


 まさしく天賦の才。

 それこそが前回大会で優勝できた秘訣。


 だが、それだけだ。


 ――0.1秒の壁を、人は超えられない。


(あ……っ!!)


 亜音速のノーツが、レーンを通り抜けた。

 龍華が反射でタップするが、その時にはすでにノーツは流れ去っていた。

 ここで龍華のコンボが切れる……!


(ダメ! 今はこれ以上ミスをしないことを心がけないと!!)


 相手も同じところでミスをしているはずだ。

 そう信じて、龍華は譜面を叩き切った。


『LIVE CLEAR』


 久々に見た、『ALL PERFECT』以外の楽曲終了を知らせる画面。

 合計ミス数は1。

 その1ミスは仕方のないミスだった。


 全力を発揮できた。

 充足感で満ち満ちている。

 後は優勝を飾るだけ。

 そう、思っていた。


(……?)


 違和感。


 おかしい。何かが、歪んでいる。

 そんな確証の無い不気味さが襲ってくる。

 いや、違和感の根拠はすぐにわかった。


(誰も、声を発していない)


 楽曲の途中まであんなにざわついていた観客が、今は誰一人として言葉を発していない。マイクを使っていた進行役の男でさえ。


 でも、どうして。


「……うそ、でしょ?」


 龍華は改めて周囲を見渡し、驚きの声を零した。

 彼女が見た、自身の目を疑う物。

 それは――


『ALL PERFECT』


 隣に立つサングラスをかけた男のリザルト画面だった。

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