第42話 Sogna

 音ゲー参寺サンデラ全国大会決勝戦。

 初公開となった新楽曲"Sognaソニア"。


 その立ち上がりは、非常にゆっくりとしたものだった。ただし、最初の5秒程度の話である。


 にわかに、観客がざわめき立つ。


「お、おいマジかよ!」

「やべえ! これまでの最高難易度楽曲とは文字通り格が違う!!」

「なんだこれ! BPMテンポが4つに分かれた曲を同時に再生してるのか!?」


 ノーツがノーツを追い越す。

 ノーツが分裂する。


 これまでの参寺サンデラには存在しなかったギミックの登場に、ギャラリーは大いに沸いた。

 もちろん、沸き立つ理由には大会後にプレイすることへの楽しみも含まれている。


 だが、観客の熱気をあおっている最大の根源は、まったく別のところにあった。

 その感情の名は、登壇している2人のプレイヤーに対する羨望!


「やべえって! なんであいつらこの曲でコンボ繋げれてるんだよ!」

龍華りゅうかはともかく、もう一人の花咲はなさかおじさんってプレイヤーは誰だ!?」

「なんでも昨日突然ランキングに出てきた期待の新星らしいぞ!!」

「おいおい、最強のチャンピオンと最強のチャレンジャーの対決かよ! 優勝はこの2人のどっちかで決まりだろ!!」


 予選を勝ち抜いたプレイヤーは全5人。

 言い換えれば五指に入るトッププレイヤーだ。


 だがしかし、この楽曲は変拍子ばかりを5種類ミックスして作られた楽曲。

 一度リズムを見失えば、あっという間に盤面はボロボロになってしまう。


 この高難度楽曲の中でコンボを続けているのは2人だけ。すなわち前回王者と灰咲はいざきだ。

 残りの3人は既に何度もコンボを切らしている。

 一度手を離し、リズムを取り直し、再度挑戦する者もいたが、その時にはスコアに大きな開きができていた。

 必然、優勝候補は2人に絞られた。


「おい、どっちが勝つと思うよ」

「やっぱ前回王者だろ!」

「いいや俺は新しい風に張るぜ!」

「龍華が――」

「花咲おじさんが――」


 楽曲はすでに1分20秒を超えている。

 収録されている楽曲の平均的な長さが2分弱であることを考えれば既に後半に差し掛かっているはずだ。

 だが、その残り僅かが果てしなく遠いと感じているものがいた。


 ――前回チャンピオンの龍華だ。


(くっ、終わって、はやく!!)


 参寺サンデラに限らず様々な音ゲーをこなしてきた彼女にとって、"Sognaソニア"で登場したギミックは見覚えのあるものだった。

 だが、見覚えがあっても初見で対応できる範囲には限度がある。


(……熱いっ)


 思考が熱を帯びる。

 回路が焼き切れてしまいそうだ。


 それもそのはず。

 とめどなく流れてくるノーツを速度からBPMテンポを分類し、どの変拍子かを判断。その間体内では5種類の変拍子を正確に刻みつつ、時折やってくる分裂するノーツなどにも対応しなければいけない。

 明らかにオーバーワークだ。


 それでもここまでコンボを繋げられた要因は2つ。

 1つは前回王者としてのプライド。

 そしてもう1つは――


(……もう、目が)


 ――生来の、目の良さである。

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