第30話 封印の間
「ナターシャちゃん! 何してるのー?」
『音の反響を利用した3Dマッピングの改良。ダンジョン内にいる魔物がノイズになってるから、それを利用して索敵できないかなって』
「そんなことができるの!?」
ナターシャは小型のパソコンを抱えてダンジョンに潜っていた。画面は横からのぞこうとすると見えなくなるフィルムが貼ってあって見れなかったのだけれど、ダンジョンのマッピングまでしていたらしい。
ちなみに、小型のパソコンと言ってもかなりごてごてしている。携帯性は悪そうだ。
まあ、いくら小型化の時代とはいえハイスペックで構成しようとすると仕方ないのかもしれない。
『仕組みとしては魚群探知機と似たようなものよ。できない道理は無いでしょう?』
「ぎょぐんたんちき?」
『……そこからなの?』
魚群探知機。
海中の構造や魚の群れを海上から調べる機械だ。
『なあ、あれって超音波の跳ね返りで海中を調べてんだよな? 海みたいに広い空間ならともかく、こういう折れ曲がった空間でも使えるものなのか?』
『その辺は波の減衰や回折を計算に組み込んでる。1地点だけだとマッピングが一意に定まらないし、歩き回らないといけないのは変わらないけど、全探索するよりよっぽど効率よくマッピングできるはずよ』
『なるほどなー』
『ちょっと、途中で興味なくしたでしょ!』
『全然そんなことないぞ』
『目を見て言いなさい! こら!』
や、聞いたはいいけどあんまり興味なかった。
『あら? 何かしらこの空間』
怒られる前に距離を取ろうとすると、ナターシャがふいにパソコンの方に意識を割いた。
ははーん。
そんな言葉で俺を連れるとお思いか。
甘い、角砂糖くらい甘いぜ。
「わあ、これがこのダンジョンのマップなの? はれ? でも一箇所だけ、まっさらな空間があるよ?」
『そうね、調べてみましょう』
「わはー! 探検だね! よーし! 桃井隊長に続け―!!」
『ちょ、そっち逆方向! 逆方向だって!』
え?
ん?
あれ?
釣りじゃなくてマジでおかしな場所があるの?
桃井さんにあんな演技ができるとは思えない。
『ちょっとカズマ! この子の手綱ちゃんと握ってなさいよ!! あんたの仕事でしょ!』
『そんな仕事についた覚えはないけど』
仕方ないなあ。
「桃井隊長! 大変でございます!」
「むっ!? 灰咲隊員! 報告したまえ!」
「向こうにある謎の空白の間はお宝が隠されている可能性があります! うかうかしていると他の探索者に先回りされる可能性も……」
「わわわっ!? た、大変だよぅ! 灰咲くん! 案内して!?」
よし。
チョロいもんだぜ。
『うわぁ……』
『引くな。で、マッピングできなかった空間ってのは?』
『こっち。ついてきて』
ナターシャについて少し行くと、確かにそのあたりだけが壁でぐるっと囲まれているのがわかった。
『柱って可能性は無いのか?』
『もし私が設計者なら、柱を作るなら塔の中心に作るわね。それに対してこの柱は中心から外周に向かってちょうど3分の1の地点にあって――』
『なるほどなるほど。わかるわかる。すごいな』
『ちょっと、話を聞くなら最後まで聞きなさいよ』
要約するとあれだろ?
こんなところに柱を立てる必要が無いって話だろ?
「あー! 見て見て! ここになんだかボタンがいくつかあるよ!?」
「お、さすがです桃井隊長!」
「えへへー。灰咲隊員も励むように!」
『ねえ、そのノリいつまで続けるの?』
『俺にも切り時がわからん』
この辺で切り上げておくか。
『んー、ボタンは10個。特にヒントになりそうなものは近くにないわね……』
『適当に押してみるか?』
『馬鹿言わないで。押す順番が関係ないと仮定しても1024通りの入力パターン。順番があって、なおかつ10種類全部1回ずつ押すと仮定したら3628800通りよ? まして、2回以上の入力を許す可能性まで考えたらパターン数の検出すら困難。
失敗したらどうなるかわからないのに下手なこと――』
「わわ! 開いたよー!?」
『えええええ!?』
ナターシャが得意げに説明する裏で桃井さんはボタンをポチポチ押していた。多分適当に。
そしたらカシャンと小気味いい音が響いて、壁の一部が奥に引いて、横にスライドした。
『なん、え?』
『諦めろ。桃井さんはそういう人だ』
『まあ、調査が進む分には文句ないけど……』
なんだか釈然としないと言いたげなナターシャを連れて、隠された部屋へと足を踏み入れた。
小さな部屋だった。
その奥に、小さな台座が存在を主張している。
その台座には、見覚えのある道具が置かれていた。
「これは……コード:
錠前だ。
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