第29話 言語の壁ってあるよね
結局、あの後。
俺たちがダンジョンに潜ることは桃井さんにも伝えることになった。好奇心旺盛の彼女は嬉々として一緒にダンジョンに潜りたいと申し出た。
まあそりゃそうなるよね。
今はダンジョンの1階層から2階層に繋がる階段を移動中。さなか、ナターシャがロシア語で話し始めた。
『いい? そもそもダンジョンのルーツは防衛基地にあるの。きっとこの建造物だってそう。ああいうでっぱりなんかをうっかり押し込みでもしたら――』
ナターシャが壁の突起物に指をさす。
それを見た桃井さんがそれを押し込む。
「なにこれ?」
あ。
次の瞬間、2階から大岩が転がってきた。
『ばかあああああ!! 何してんの!?』
「わわわ、どうしよ!?」
ちっ、めんどくせえ。
ここはアイテムボックス!
君に決めた!
大岩は 虚空に 吸い込まれた▼
*
『し、死ぬかと思った』
額に玉のような汗をふき出して、ナターシャが腰をついた。
『ロシア語でしゃべりながら指さすから』
『だって、普通あんな見え透いた罠に飛び込む人がいるなんて考えないでしょう!?』
『桃井さんは面白そうなことには突っ込んでいく人だから』
そりゃ、誰かが指さした先に怪しげなものがあったらとりあえず動かしてみようって発想になるよ。
「わああ! 楽しかったね!」
ほら。
今まさに大玉にひき肉にされそうになってたのに感想がこれだよ。
「じゃあもう一回――」
『ばかぁ!! 本気でやめなさい!!』
「ぐええぇぇ、ちょ、ナターシャちゃん! ギブ! ギブミーえーと? ライフ!」
「落ち着いて桃井さん。それは英語だ」
英語として成立するかもわからんけど。
生前の親族を襲うタイプのゴーストか何かか。
普通にギブアップでいいでしょ。
*
「とりあえず、言語の壁をどうにかしよう」
『賛成』
彼女たち3人の言語はこうなる。
日本語、ロシア語、神代語。
誰一人会話が通じない。
いや、正確に言えば、ナターシャだけは他の人の会話をなんとなく予測はできている。が、ナターシャ自身はボディランゲージが得意なわけではない。自分の意図をうまく伝えられていない。
「とりあえず、桃井さんとナターシャはスマホの翻訳アプリで対応だな」
「うんっ! これでお話しできるね! ナターシャちゃん!」
ナターシャはちょっとげんなりした。
まあ明らかに低燃費なタイプだからな。
桃井さんのテンションについていくのは体力的にしんどいのかもしれない。
『でだ! 問題はお前だルナ!』
現代の翻訳アプリってのは、膨大な翻訳データを機械学習させて成り立っている。
つまり、データのない神代語を翻訳するのは不可能なのだ。
『んー、あ! じゃあ私も言語理解を取得するよ! ちょうどスライム狩りしてレベルも上がったところだし!』
『え? あ、ああ。そっか。それでいいのか』
ダメだ。
スキルっていう概念が頭に定着していない。
自分が使えるスキルはなんとなく把握できるんだけどな。
他の人がスキルを使うって発想が、いまいちピンとこない。
「こうして言葉を交わすのは初めてでございますね。私の名はルナ。以後お見知りおきを――」
「無駄に荘厳な感じで語るな!」
「ふみゃっ! いいじゃん! ちょっとくらいおしとやかな感じに振舞ったって!」
「ルナがそういうキャラじゃないのはこの場にいる全員が把握してるっつうの!」
ここに来るまでの言動を振り返るところから始めろ。話はそれからだ。
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