第12話 現代のダンジョン化
事後処理は警察に任せる。
俺にできることは一つだけ。
可及的速やかに現場を立ち去ること。
いやまあ事情聴取を受けるって選択もあるよ。
でもさ、いくら女の子を守るためと言っても相手にナイフを向けたと取れなくもないじゃん。
法律とか詳しくないけど、過剰防衛とか言われたら厄介だし――
『ねえ! ねえってば!!』
『え? 俺?』
『あんた以外に誰がいるのよ!!』
考え事をしながら歩いていたから気づかなかった。
どうやら彼女は、俺の後を追いかけてきていたらしい。
『まだ、お礼言ってなかったから。その、あ、ありがとう』
『あ、うん。もう危ない真似するなよ』
『そうね、そうするわ……じゃなくて! ちょっと待って!』
バイバイと軽く手を振り、再び歩き出そうとしたら今度は袖を掴まれた。
『ナターシャ』
『はい?』
『私の名前! その、あ、あんたの名前も、教えなさいよっ』
『どうした? 顔赤いぞ?』
『うるさいわね! もともと、もともとなんだからね!?』
へー。
ほーん。
そういうことかー。
なるほどねー。
『
『カズマ?』
『そ、
『カズマ……うん! 覚えた!』
その一瞬。
終始つんけんしていた少女に、笑顔が灯った。
もともと、かわいらしい容姿をしているのだ。
そこに笑顔が掛け合わさればどうなるかなんて想像に難くない。
『ねえ、カズマ。少し聞きたいことがあるんだけど――』
そこから先の言葉は紡がれなかった。
否、実際には発せられていたのかもしれない。
だけど、俺の耳には入ってこなかった。
「な、なんだありゃ!?」
「塔……? 塔だ! 巨大な塔が地面から生えてきた!」
「いったいなんだってあんな建造物が!?」
南におよそ7キロメートルほどだろうか。
そこに、突如として紫色の塔が、地下深くからアスファルトが広がっているはずの大地を突き破って天へとそびえたった。
それだけ巨大な建造物が突如として表れたんだ。
地鳴りだって、これだけ離れていても心臓が飛び跳ねるくらい酷かった。
『カズマ! これ見て!』
『あ? 今目の前で起きてる現実を直視しろよ』
『まさにそのことについてだよ!』
『はあ?』
ナターシャはスマホの画面をずいと俺の顔に近づけた。近づけすぎてさすがに読めん。
適度に距離を上げて画面を確認する。
いやロシア語わからん……こともないな。
言語理解って文字にも適用されるんだな。
「謎の建造物が世界各地に突如出現!? あの塔みたいなのがあちこちに現れたっていうのか……?」
改めて塔を見る。
塔はまるで稲妻を模して作ったように複雑怪奇に折れ曲がっていた。現代の建築工学ならこのような建物も作れるのかもしれないけれど、いったい誰が、地下空間にこんな巨大な建造物を作ったって言うんだ。
むしろ、もっと、こう。
人以外の手で生み出された人工物と表現するのがしっくりくるような……。
「まさか」
一つだけ、その建造物の正体に心当たりがあった。
誰もが突拍子もないと笑うかもしれない。
常識的に考えろというかもしれない。
だけど、そもそもの話。
ここ数日、俺のみに起きているのは非現実的な事象ばかりだ。
謎の錠前、知らない空間への転移、スライム状の生命体、ステータス画面、スキル。
これらがすべて、一つの事象から発生した副次作用なのだとしたら――
「――ダンジョン、なのか?」
ファンタジーによる現代侵食。
それだけが、唯一すべてのつじつまを合わせる答えだった。
『ちょ、ちょっとカズマ!? どうするつもり!?』
『様子を見てくる! ナターシャは先に帰ってて!』
『な、私も行くわよ――って足速っ!?』
俺はダンジョンへと向かった。
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