第15話 冒険者になった追放令息
リアの家を出て、サリューの町で暮らすようになって、半月が過ぎようとしていた。
「カエルムさん、こちらが今日の依頼分の報酬と、素材の買い取りの代金になります」
カエルムと呼ばれることにもずいぶんと慣れた。
冒険者ギルドの受付カウンターで、今日一日でこなした依頼の報告をして、依頼中に狩った魔物の素材を買い取ってもらい、報酬をうけとる。
それが、サリューの町で暮らし始めた俺の毎日だ。
身分証欲しさと生活の為に、冒険者ギルドに登録して、最低ランクのGから開始した冒険者生活は、十日ほどでランクが一つ上がってFランクとなり、請け負える仕事も増えた。
Gランクの頃は、請け負える仕事の報酬が低く、ほとんど町の中での雑用やお遣いの仕事ばかりで、一日に複数こなしてやっとその日の宿代と食費が稼げる程度だった。
ランクが一つ上がり、Gランクの頃より報酬が高い依頼が受けれるようになり、町の外に出る依頼も増えたので、依頼のついでに魔物を狩って小金も稼げるようになって、ほんの少しだが生活に余裕も出た。
サリューの町に来た翌日に受けた、魔法薬の調薬の初級の資格試験は無事合格したので、ランクが上がって余裕の出来た金で、小型の調薬用の道具を購入して、ポーションを作って少しでも収入にしたいところだ。
もう少し余裕が出来たら、中級の資格まで取ってしまうつもりだ。
貴族として生活してた頃とはまるで違う金銭感覚。むしろ貴族だった頃は、知らない店で買い物をすることも無かったし、現金を持ち歩く事もなかった。
実家と取引のある店でしか買い物をしたことが無かった為、今までは家名を使ったツケ払いだったので、現金で直接買い物をしたことが無かったのだ。
サリューの町に来た日に、リアが買い物に付き合ってくれなければ、買い物の方法すらわからなかっただろう。
買い物のやりかたはわかった物の、物の相場という物がよくわからない。
貴族として生活していた頃は、帳簿上の収支の数字は追う事はよくあったが、それと町での物の値段の桁は、まったく違うのでさっぱりわからなかった。
一日かけて、冒険者ギルドの仕事をして、リアに案内された宿に泊まり、食事もリアの知り合いだという定食屋でとっている。
リアの知り合いの店なので、ぼったくりではないのだろうが、一日で稼げる金額からの出費だと、ギリギリである。
平民としての生活がここまでギリギリだとは思わなかった。むしろ、リアが給金と言って資金を渡してくれた分、何も無しで放り出されるより、よっぽどか余裕があるのだろう。
冒険者としての生活は、貴族としての生活と違いすぎて戸惑う事ばかりだ。
国を出ても何とでもなると思っていた自分の甘さを思い知らされてる。
もしも森を一人で抜ける事が出来て、リアに出会わないでサンパニア帝国に入る事が出来ていたとしても、一人で生活出来るようになれた自信がない。
リアに助けられたのは幸運だった。
まだ幼さの残る、銀髪の少女を思い出して、心の中で感謝する。
煌びやかな物や、たくさんの使用人に囲まれた、貴族としての生活と全く違う冒険者としての生活は、けっして楽ではない……むしろ辛いくらいだが、それでもあのどうしようもないあんぽんたん王子と、その取り巻きに付き合う日々よりかは、マシに思える。
それに、この町で生活をすれば、またリアに会える。
ひと月ほど続いたリアとの生活を思い出す。
魔の森の中だというのに、とても居心地のいい家。自分より年下だと思われるのに、その魔の森で生活する少女。
自分の知らない知識を、たくさん持っているその少女との生活は、なんとも不思議で楽しかった。貴族として生活していたら、まず体験しないような生活。
居心地の良いあの家に、もっと居たいと思った。
しかし、未婚の男女が二人っきりで、一つ屋根の下で暮らすのはよくない。
平民は恋人同士なら結婚前の男女が、共に暮らす事もあると聞いたことがあるが、夜に薄着で家の中をうろうろする、同世代の少女を見るのは、正直心臓によろしくない。
肌の露出の少ない、貴族女性ばかり見て来たのでなおさらだ。
思い出して、頬が熱くなったので頭を振って、煩悩を追い出した。
それに、リアに助けられたが、何も持っていない俺は、あの家の居候だった。
全く甲斐性のない俺が、あの家に居たいと望むのは、男としての矜持が許さなかった。
だから、約束した。
リアをあの森から連れ出せるくらいには、自力で稼いで迎えに行く。
海に行こうとユビキリゲンマンをした。
俺の転機になった少女。
必ず彼女と対等になって、彼女との約束を果たす。
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