第14話 第二王子の憤懣
「くそっ!」
苛立ちに任せて、近くの椅子を蹴り飛ばす。
邪魔な従兄が消えて、スッキリするはずだったのに。
上手く王都から追い出して、魔の森まで追いやったはずなのに、どうして。
奴を魔の森に追放するように命じた騎士と御者も、始末するつもりだったが、奴と共に行方が分からなくなった。
追手に雇ったならず者から、魔の森で奴らの乗っていたと思われる馬車が、大破した状態で見つかったと聞いて、魔の森で魔物の餌食になったものだと思ってほくそ笑んだ。
これで、私が奴を魔の森に追放したという事を知る者はいない。
私は奴を王都から追放すると言ったが、魔の森に追放するように指示を出したのはあの騎士と御者だけで、知っているのもその二人だけだ。
この二人を始末さえすれば、鬱陶しい従兄は、王都から追放後行方不明になった事になる。
昔からあの目が嫌いだった。
王家の直系で正妃の息子である私より濃い金色の瞳。
王族の証の金色の瞳。
どうしてそれを、父上の妹が降嫁した公爵家の息子が、持って生まれたのだ。
幼い頃より何をやっても勝てなかった。武術も魔法も勉学も。
側妃の子で、第一王子である兄も優秀だったが、兄はずいぶん前に、側妃の祖国であるサンパニア帝国に留学して以来ほとんど顔を合わせていない。
兄も私より濃い金色の瞳だが、留学したまま殆ど戻ってこないので、これといった感情はない。
第一王子で濃い金目だが、側妃の子で留学先から帰って来ない兄と、多少薄い金目ではあるが、正妃の子で国内の学園で、貴族との関係を築いている私とでは、私を次代に王に推す声の方が大きく、正妃の子である私が王になることはほぼ確定している。
私の邪魔にならない兄など、気に留めることも無い。
だが奴は違う。
同じ学園、同じ学年、いつも私より上の順位――主席にいた。
私より優秀で、私より濃い金色の瞳。今までに何度も、奴と比較され、ヒソヒソと噂されるのを耳にした。
奴がいるせいで、私が王族の落ちこぼれのように言われる。
奴さえいなければ……いつもそう思っていたのに、奴は何食わぬ顔で私の側近として働いていた。それがまるで、私を近くで見下し嘲笑っているように感じて、更に苛立ちが増した。
だから、奴をどうにかして私の世界から消したかった。
そんな時、出会ったのがエルフェンバイン公爵家の令嬢、フリージアだった。
エルフェンバイン家と繋がりを持ち、後ろ盾に出来れば、モートンシュタイン家の後ろ盾が無くとも問題はないはずだ。
エルフェンバイン家も、モートンシュタイン家に劣らぬ歴史と権力のある公爵家だ。
それにフリージアは、私を貶めない。
奴や兄より薄い金色のこの瞳は、私の個性だと言い、奴に劣る成績も、全てが完璧である必要はないと、言ってくれた。
側に置いて、会話をして、安らぐと思った。兄や従兄と比較され、劣ると言われる私を貶めず、そのままでいいと言ってくれた。足らない部分は、臣下と力を合わせればいいと、王とて完璧な人間である必要がないと言ってくれた。
私を認めてくれる彼女こそ、私に相応しいと思った。
だから、奴が彼女を手籠めにしようしたと聞いた時、すぐに奴を断罪し私の側近から、学園から、王都から追放しようと決めた。
なのに何故。
奴を追放して、半月ほどで父上と、奴の父である宰相が外遊から戻って来た。
そして、私は勝手に公爵家の嫡男を王都から追放し、魔の森に追いやったと離宮に謹慎を命じられた。
謹慎という名の幽閉である。
なぜ、魔の森に奴を追いやった事がバレた?
奴らは生きていたのか?
いや、奴を追放して以来、奴は行方不明のままだった。騎士と御者の行方も分からない。
父と宰相から聞かされているのは、私が追放した後、奴が魔の森付近で消息を絶ったという事だけだった。
跡取りの長男の行方がわからないと言うのに、あの宰相はただ目を細め
「非常に残念です」
とだけ言った。
離宮に閉じ込められて半月。
私の前から消えたその後も、邪魔な存在の従兄――ディアマント・カエルム・リュンヌ・モートンシュタインへの憎しみは消える事はなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます