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「……ローラ、聞いていますか?」
「え?ごめんなさい。えっと、何でしたっけ?」
いけません。昔のことを思い返していたら、ぼんやりしてしまったようです。ヘンリー様に会ったからでしょうか……。
「婚礼について話をしようと思ったのですが……疲れているならまた改めます」
そうでした。これからチャールズ様と結婚に関する行事について話し合うのでしたね。
「いえ、大丈夫です!……あの、婚約披露のパーティーはささやかなものにしたいのですが」
「そうですね、親しい方々だけ呼べば良いでしょう。ただ、国王には報告に行かなければならないので……大丈夫ですか?」
チャールズ様は大公ですものね。直接国王に報告する必要がありますよね。王族の方々に会うのは気が重いですが、仕方がありません。
「お気遣いありがとうございます。ですが、チャールズ様が一緒なら大丈夫です」
私がそう言うと、チャールズ様は嬉しそうに笑って私の手を握りました。握られた手が熱い……。どうか気づかれませんように。
「ふふっ、手が熱いですね。ではパーティーの日程等を調整しておきます」
「……はい」
恥ずかしいわ。でも手を離されてしまうと、なんだか名残惜しいです。
「また明日会いにきます。明日はゆっくり過ごしましょう」
私が寂しく思っているのが分かったのでしょうか。本当に優しい方です。この方と結婚出来るのが、今でも夢のようです。
私が磁器や土壌に夢中になっている数日の間に、チャールズ様が婚礼の準備を整えてくださいました。
今日はいよいよ国王に挨拶に行く日です。
「ローラ、準備は出来ましたか?そろそろ行きましょう」
「はい」
何事もなく終われば良いのですが……。
「陛下、こちらが婚約相手のローラ・フィンレーです。すでにご存知でしょうが」
「ローラ・フィンレーです。……お久しぶりです、陛下」
「二人のことは聞いている。めでたい話だ。後日祝いの品を贈ろう。大公は気難しいが優秀だ。きっとレディと相性が良いだろう」
国王に何か言われるかと思いましたが、むしろ祝福されたので安心しました。
「「ありがとうございます」」
国王は祝福してくれましたが、宮殿に長居はしたくありません。ヘンリー様とのこともあり、居心地が悪いです。
早く帰りましょう、とチャールズ様に目線を送ると頷いてくれました。通じたようです。
「では僕たちはこれで失礼します」
そう言って、私を連れ出してくれました。
「早めに切り上げてくださり、ありがとうございます」
「いえ、僕も宮殿は嫌いですから」
「では早く帰りましょう!」
笑い合いながら廊下を歩いていると、知った声に呼び止められました。
「お、おい!ちょっと待って!少し話をさせてくれ」
「ヘンリー様……」
振り向くとすっかりやつれたヘンリー様が立っていました。
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