8 ※チャールズ視点
最初は単なる興味本位だった。国内に磁器の食器が出回り始めて、それを作っているのが小さな子爵領だと言うので、見てみたくなったのだ。
この国の貴族は基本的に保守的だ。何か新しいことをやろうという気概のある人物など珍しい。だから磁器に手を出したフィンレー子爵のことが気になった。
少し前まであまり聞かない家名だったが、少し前に第三王子と子爵令嬢が婚約し、すぐ破棄されたため、ある意味で有名な家名となっていた。
さて、どんな人物なんだろうな。
「チャールズ様、いつものような威圧的な態度をとらないでくださいね。あなたが睨むと子爵家の方が怯えてしまいますよ」
「分かっている、別に誰彼構わず睨んでいるわけではないしな」
連れてきたフィルに釘を刺されたが、言われるまでもない。害をなさない人物に何かする気はない。ただ話を聞いて、有能ならば取り込みたいだけだ。
俺の持つ領地はやる気のない貴族から奪ったものだ。彼らは民を守ろうという気がない。そんな奴らは民とって邪魔なだけだ。だから領地を自分のものにしていったのだ。
そんなことを繰り返すうちに、「悪魔の大公」などと呼ばれるようになった。だが、無能な貴族になんと呼ばれようと構わない。
「チャールズ様、ようこそお越しくださいました。本日案内をさせていただきます、ローラ・フィンレーと申します」
子爵が直接案内をするのかと思っていたので、令嬢が案内すると聞いて少し驚いた。舐められているのかと思ったが、それは違った。
彼女が一番磁器に詳しかったのだ。何を質問してもスラスラと答えてくれる上に、説明も分かりやすかった。どうやらこの取り組みは彼女が主導しているようだ。
女好きの第三王子に捨てられた哀れな令嬢の姿はどこにもなかった。
土壌の改良にも手を出すと言うので、思わず支援を申し出てしまった。彼女は有能だ。手元に置いておきたいほどに。
「こんなにも広い土地を提供してくださり、ありがとうございます。途中経過をこちらにまとめましたので、ご覧ください。軽い検証のために、買ってきた豆を腐らせて畑にすき込んで……」
楽しそうに報告してくれるローラを見ていると、関心してしまう。彼女が領民を大切にしているのは一目瞭然だった。
小さな領地しかないとはいえ、子爵家の令嬢なのだから、何もしなくても楽な暮らしが出来るというのに……。
ニコニコと話す彼女の頬に土がついていたので、手を伸ばす。
「……チャールズ様?!」
「あぁ、驚かせて申し訳ありません。頬に土がついていましたので」
「そ、そうですか……すみません。えっと、どこまで報告しましたっけ?」
顔を真っ赤にして俯く彼女は、とても可愛らしかった。
「報告は全て聞きましたよ。順調なようですね。他にも必要なものがあれば遠慮なく言ってくださいね」
「は、はい!」
有能だから手元に置いておきたいと思ったはずなのに、いつの間にか彼女のひたむきさに魅了されていた。
「ローラ、少しだけ時間をいただけますか?」
「はい、何でしょう?」
「僕と結婚しませんか?民のために働くあなたに惹かれました。もっと近くで支えたいのです」
彼女はとても驚いた顔をしていた。普通はこんな形で婚約を申し込んだりしないからだろうか。
「私なんかで良いのですか……?婚約を破棄されるような女ですよ?」
そんなことを気にしていたのか。
「それは第三王子の見る目がないだけですよ。僕はあなたが好きなのです。あんな奴と一緒にしないでください」
「わ、私で良ければ……!私もチャールズ様と結婚出来たら良いなと思っておりました」
なんて可愛らしいのだろう。早速、婚礼の準備を進めよう。
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