家族公認になるためには?

「で、いつから聞いていた」

「DNAデータがなんたら辺りだね」


 なるほど、聞かれたくない箇所は、漏らさず聞かれてしまったようだ。

 

「その前の会話も、遊びながら大体は聞こえてたよ。私の耳は生まれつき敏感でね。人造人間の『コウモリ』ほどではないけれど、十数m先の会話を盗み聞きすることなど造作もないさ」

「盗み聞きは悪いことだと、お姉ちゃんに教わらなかったか」

「あいにく姉からは、周りの情報には積極的に耳を傾けろ、あなたのそれは長所だよ、と褒めて伸ばされたよ」


 そうだな。あいつならまさにそう教えるだろうな。


 それにしても……人造人間に、コウモリのことも知っているのか。

 いよいよ本格的にきな臭い。


「いま彼は、あなたたちと一時的な協力関係にあるみたいだけど、合ってる?」

「…………」

「無言は肯定と受け取るけど?」

「……お好きにどーぞ」

「ふふっ」


 ちくしょう。常に先手先手を取られている。

 本当にあいつを相手にしているみたいだ……


「…………」

「どうかした?」

「いやお前さ」


 と認めた相手に白旗を上げるのも、一つの立派な戦略だろう。

 バックはともかく、コイツ自身は危険な人物ではなさそうだと、俺の勘は言っている。

 気が向いて何かしゃべってくれたら、もうけものくらいのほんの軽い気持ちだった。


「本当に何がしたいんだ。お前は何の目的で、俺たちに接触してきた?」


「何も」


「……へ?」

「何もないよ。面白そうだから、君たちと一緒の時間を共有したいと思っただけ。本当にそれだけ。……でも、強いて言うなら」

「……言うなら?」


「見極める、かな」


 見極める……何を?


シエスタの遺産として、あなたたちがふさわしいのかを」


 「あくまでついでよ? ついで」とシエスタの妹は、付け加えるのを忘れない。


……………………参ったぜ。


「家族公認にならないと、遺産は手に入らないってか」

「あいにく我が家は過保護なものでね」

「ははっ」


 上等、だぜ。


「いいぜ、ヒルネ。名探偵の妹さんよ……!」


 俺はヒルネの正面に立ち上がり、高々と宣言する。


「俺たちがあいつの遺産として、探偵の『助手』を『弟子』を『後継者』を名乗るに足りる資格があると、『妹』に証明してやる」


 そうするとヒルネは、きょとんと顔を傾けて、


「そう? 楽しみにしてるよ」


 と特に楽しそうでもなく、期待の言葉を紡いだ。


 ところで、


「斎川の遺産としての役目はなんなんだろうな」

「そのくらい助手を名乗るなら、自分で考えなさい」


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