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スケルトン・サファイア

 また小粒こつぶな人間の気配を感じる。

 最近はこんなことばっかりだ。


 自宅に戻ってからも、のびのびと夏季休暇をエンジョイする暇は与えられなかった。

 斎川家に当主の好意で、食客に迎えられたヒルネは、かなりの頻度で我が屋の正面から、ほぼ毎朝俺の部屋に侵入を試みてくる。

 そのたびに「男の領域」の開示の阻止に成功はしているが……。


 おい、ちょっと待て。

 今朝はもう一匹いるぞ……!


「まさか分身の術か!?」


 探偵の妹は忍術まで駆使するというのか!!

 俺はがばっと跳ね起きる。


「どうも君塚さん、おはようございます~。突撃お宅のご子息の寝顔、突撃リポーターの唯にゃですっ」

「アシスタントのヒルネです」


 一度目のお宅訪問にして、さっそく後釜あとがまにメイン役をかっさらわれたか。

 かわいそうに……不憫ふびんな妹、ではないっ。


「もうヒルネに関してはあきらめの境地だが、何でお前までいるんだ!」

「私も変態さんの自宅に前々から興味がありまして、ぜひ伺いたいと思ってたんですよ。くんくん、ほほう、独特のにおいがしますねっ」

「部屋の匂いをぐんじゃねえ!!」


 この状況では、お前の方がよっぽど変態さんだよ!


「ではではお次は、メインディッシュを頂きます!」

「頂きます」


 それだけは阻止。断固阻止!


「ぐぬぬぬ、二人分の力を合わせているのに……。今日はいつもよりさらにしぶといね……」

「対象が二倍だからな、恥ずかしさも倍々ゲームだ……!」


 絶対に負けられない戦いがそこにはある。


「こうなったら唯。秘密兵器の出番だ。私が君を連れてきた甲斐かいを見せてくれ」

「はいっ」

「な、何をする気だ!?」


「ふふふ。お忘れですか……、私の左目のサファイアには、透視能力があることを!!」

「おまっ」


 本編でも触れなかった禁忌きんきのネタを……!


「親御さんの形見をこんな悪ふざけに使うんじゃない! 空のお二人が泣くぞ!!」

「どうですかね~。娘の元気な姿を見られれば、本望じゃないでしょうか」


 この娘からご両親の性格をし量ると、あるいは、と思わんでもないが……!

 いややっぱり不味まずいって!!


 俺が危惧しているのは倫理的なものもあるが、単純に斎川を心配してのことも多分にある。

 彼女のサファイアの透視能力の「ピント」を合わせるのは、けっこうコツがいるらしいことを、以前聞いた。

 本人はもう五年以上、肌身離さず装着しているから何のことはないが、他人が手に入れてもうまく調節するのは難しいそうだ。


 だがいかに天真爛漫てんしんらんまん、快活活発で能天気そうに見える斎川でも、男女にとってデリケートな部分を透視するには、それなりの緊張をするはず。

 つまり最悪、漫画などで見るあのケースに……。


「あ、近づき過ぎました……血流とお肉が見えます……。ぎもぢわるい……(おろおろおろ)」


 なった。

 ピント調節をミスって、と人体の神秘を拡大状態で目にして、こうなることは想像にかたくなかった……。

 

 俺も想像もしたくないが、吐き気をもよおすほど、グロい光景が拡がっているようだった。


シエスタの遺産、思ったより使えないね」


 ヒルネがぽつりと言う。

 こういうことのための遺産では、絶対ないと思うんだがな……!


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