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本編ではなかった水着回。しかし神は期待に添える自信がない

 朝食の後、泳いで腹ごなしでもしよう、という流れになった。

 結局行きの船では入り損ねたからな。

 夏凪と斎川と同伴プール、健全な高校生男子として、惜しいことをしたと思わないのか!?と問われれば、嘘になる。


 俺だって女子の水着姿はまあ……見たかったが、あの時はクールダウンの必要があった。

 本能に正直に従って、ヒートアップしたら助手失格だからな。

 昼過ぎには船は港に着くらしいので、それまで束の間つかのま、楽しませてもらおう。


                   *


 女子の着替えに時間がかかるというのは、どこの世界でも相場が決まっている。

 俺は水と一通りたわむれた後、プールサイドの日陰がある椅子で彼女たちを待った。


 まず最初に現れたのは、夏凪だった。

 魅惑ただよう、燃えるような深紅のビキニだ。

 そういうのがお好みでしたか、夏凪さん。

 前々から思っていたが、こいつは自分の肉体に相当の自信を持っているな。

 そうでなければ、普段から露出の多い服装を好む理由が分からない。


 というかドラマや映画の中では、手術でできてしまった手術痕を気にして、肌の露出を避けるという展開がよくあったが、こいつは気にしないのか?

 心臓を移植した後の傷は、しっかりと肌に刻まれている。

 しかし夏凪から負の感情はまったく伺えない。

 鈍感なのか、強いのか。

 たぶん……両方なのだろう。


 自信のほどなら、次にやって来た斎川も負けてはいない。なんたって「さいかわ(最高に可愛い)アイドル(笑)」を地で演じ、芸能界を渡り歩いているのだ。

 空元気だろうが自信がなけりゃ、すぐライバルに潰される弱肉強食の世界だろうからな。

 だが意外や意外、彼女の衣装は露出控えめフリル多めの、水色のワンピース水着だった。


 う~む。

 心中をかんがみるに……、こいつは攻める分にはガンガン行くタイプだが、逆に自分が本気で攻められた時の守りは、もろいというのは実証済みだ。


 俺に、「可愛いよ斎川。愛してるよ唯にゃ。お茶の間の女神がこんな所で本気を出したら、他のお客様が可哀想だぜ……罪な女だ……」とか言われて、「ふへぇ!? ふ……ふふ……」とか制御不能にならないように、おとなしめのものを選んだのだろう。


 ん?

 ということは、俺は本気で攻めてくる可能性のある異性として、認識されているのか。

 いやないだろう。

 だってこいつはまだ中学生だぞ。

 いやないない。

 俺の守備範囲は、幸運にもそんなに低くない。


                   *

 

「ど、どうよ……?」

「どうですか……?」


 当然の流れのごとく、夏凪と斎川は感想を求めてくる。

 女神めがみのお姿をおがんだ側には、有無を言わせず何かしらのコメントをする義務が生じるらしい。

 男神おがみのお姿には、別にそんな義務なんてないのにな。

 不公平極まりないが、仕方がない。


「どうもこうも」

 

しかし二人とも、何で言葉に不安が入り混じっているんだ?

 正直、知り合いの欲目を別にしても、


「とてもよく似合っていると思うぞ。真夏の日差しよりくらくらするよ」


「@&%$#”+=」と夏凪

「ふふっ……ふふ、ふ……ふ?(もにょもにょ)」と斎川。


 なるべくかどの立たない、無難な答えを用意したつもりだったが(少しキザ過ぎた反省はある)、想像以上に初心うぶな反応が返ってきた。

 ちょろいにも程があるだろう……。

 むしろ面白くなってきたが、追撃すると手痛い反撃にあいそうなので、引き際はくれぐれも見極めなくてはいけない。


『探偵の助手たるもの、何気ない会話から相手に好感を与え、情報を引き出すくらいできなくてはね』


 と、シエスタから会話の何たるかのいろはを、叩きこまれたものだ。


 いやはや懐かしい。


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