微妙に成長する探偵の弟子

「その立派な双丘そうきゅうは揉まれるためにあるのですよー」

「なるほどそうなのか、私もまだまだだね」

「絶対違う!!!」


 あの後、ヒルネと合流し、一番背の低い斎川の胸の高さ程度の、水かさのプールではしゃぐ二人は、すっかり平常運転に戻っている。

 だがからかわれ役は、夏凪よりシャルの方が本領発揮できるな。

 ところで斎川、いくら同世代の同性の知り合いができて嬉しいからって、適当な知識を吹き込むのはよくないぞ。


「おくつろぎのようで何より。ドリンクの追加注文はいかがでしょう、お客様」

「じゃあオレンジジュースを頼む。ところで、どう思う店員さん。あいつら仲睦なかむつまじくて、大変よろしいじゃないか、なあ?」

「私に言われましても。まだほとんど親交がないのよ?」

「そこら辺はこれから追い追い、と言った所だな」


 シャルには俺たち四人が、「シエスタの遺産」であることは、もう打ち明けてある。

 ああ、順番が逆だった。

 今ドリンクの注文を取りに来たのはシャルだ。

 例の「一日ただ働き」の取引で、今はプールの客対応に追われている。

 申し訳程度に肌をバイオレットのビキニでおおった、肉付きの良い健康的な肢体がまぶしい。


「百歩譲って……助手のあなたが選ばれたのはいいとして、何の関係もない斎川、あと何よりあの女と私が同列なんて……!」

「いや夏凪にはシエスタの心臓があるから、第一候補だろう」

「感情の問題よ」


 そんなんでよく探偵の弟子を名乗れるな。

 まあ激情型の夏凪が、シエスタの後継を名乗るのと、どっこいどっこいだが……。



 シャルは俺の隣の椅子にどっかりと座り込み、小声で話しかけてくる。(仕事はいいのか)


「確かにヒルネが楽しそうなのは、元気なマームを見ているようで、私も嬉しいわよ」


 問題はあの子の背後よ。


「今私の仲間にあの子のDNAデータを、主な合法非合法を問わない組織と個人と、照合してもらってる」


 やっぱりそういう目的でも接触したわけだな。

 さすがにそこまで馬鹿ではなかったか。


「当然でしょ、さすがの私もあなたと最後に顔を合わせた時よりは、場数を踏んでいるわ。あれは舞い上がった振りをしてただけよ」

「今後の参考までに、何割ぐらいが演技だったんだ?」

「……三割?」


 半分以上、じゃねえか。


「と・に・か・く!!」

 

 女優(笑)は話を強引に打ち切る。


「考えることは山積みよ」


 ヒルネにまったく背後がなく、仮に本当にシエスタの妹だったとしても、なぜ今になって俺たちの前に現れたのか。

 なぜ俺たち、探偵の「助手」と「弟子」にひた隠しにされてきたのか。


 何より、


「どうして探偵の妹が、『探偵の遺産』に含まれていないの?」


 そこに何かきな臭い「隠し事」がなければいいのだが……。



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