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白銀と水晶の秘密 

 もちろん俺はすぐにヒルネを部屋から放り出した。

 男の『毎朝の呪われし定め』は、そう易々やすやすと女子供に見せるものではない。


「君のケチんぼ。いいじゃない減るものじゃないし……。我々淑女には、を知る権利があるはずだっ!」

「ケチで結構。あと減るからな? 魂の尊厳的なものが。お前も淑女なら、言動をもう少しおしとやかにしろよ?」


 この口汚いやり取りを開示する必要はなかったな。いやすまん。


 とりあえずヒルネには、朝食会場で待っていろと伝えた。

 俺はできるだけ手早く、朝の身支度を済ませ部屋を出る。

 入り口を通る時、扉の鍵穴を確認したが、何か細工をした跡は俺の目では判別できなかった。

 本当に鍵開けスキルを持っているなら、なかなか……たいしたものだ。


 レストラン入口で女子たちと合流しようとする。

 ヒルネ、夏凪なつなぎ斎川さいかわと、既に全員が揃っていて、かしましく会話をしている。

 どうやら一方的に、ヒルネが話しかけられているようだが。

 面白そうだから、少し離れた所から様子を見てみよう。


「ほーほー、探偵さんの妹さんですか」

「正確には私の心臓の提供者ドナーの妹なんだけど、本当にそっくりよね……」


 ヒルネはもう二人にも、事情を打ち明けたらしい。


「といっても、私は『昔の』探偵さんにお会いしたことがないので、分かりかねますが」

「私も実際には……夢の中でっただけで……。でもシエスタがもう少し幼かったら、こんな感じっていう私の想像のそのままなの……すごい、すごいわ」


 うっとりした様子の夏凪。

 あいつってシエスタと相性は悪いんじゃなかったか?


「このサイズならまだ世間の薄闇に毒されてなくて、私好みの美少女に調整できる……! あそこまで育ったら、あのひねくれた性格の矯正きょうせいは無理だけど、まだこの幼さなら!」


 光源氏計画を現実でやろうとするなよ……。

 当の本人と斎川がもれなく引いているぞ。

 もちろん俺もだ。


「調整、矯正やら、捻くれたとかは聞かなかったことにしておくけど、容姿のことを褒めてくれてありがとう。姉のには自信を持っていたけど、やはり他人に言われると格別にくるものがあるね」


「その外見はやっぱり、作ったものだったか」


「あ、君塚。遅い……」

「やっと来ましたか、君塚さん。私もうお腹ペコペコですよー」

「すまんな」


 軽く手を挙げて、夏凪と斎川に謝罪する。


「で、どうなんだ?」


 ヒルネは、例えシエスタと血が繋がった妹だとしても、あまりにもあいつに似通にかより過ぎている。

 シエスタのクローンと説明された方が、俺としてはいっそ受け入れやすい。


「ええ。お察しの通り、姉と私は実の姉妹ではないよ。私は日本生まれの日本育ち。少々変装術を趣味でたしなんでいるだけの、大和撫子やまとなでしこさ。髪の毛も地毛は黒だし、瞳のこの色もカラーコンタクト。胸も上げて寄せてある」


 最後の情報は別にいらなかったな。


「この格好は姉への敬意の表明であり、愛情の証。そして……に服する意味もある」

「喪、ね」

「ええ、だって」


 物憂ものうげな口調で、ヒルネは言う。


「まだシエスタが亡くなって、一年しか経っていないじゃない」


 その言葉に、本人はその意味を含めるつもりはなかったのだろうが、俺はまるで自分がとがめられている気分にならざるをえなかった。



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