第14話:王宮のお仕事2

 シアさんに部屋まで送ってもらって、今は放心状態です。


 ハァ、何だったんだろう。あの歓迎されてない感は。


 そこで気になる、何か知っているような口ぶりだったアイツだ。とりあえず、ここで腐っていても仕方がないので、あの王子の所に行ってみることにします。


 そうしてやってきました、アルマの部屋。でも、ノックしてみましたが反応がありません。


――ガチャッ


 ん? 扉は開いているご様子。


「し、失礼しま〜す」


 薄暗い部屋に入って一番最初に目に入ったのは、抜き捨てられた服だ。部屋の中に点々と。


 まったく、だらしが無い奴め……。


 仕事も与えられていないので、取りあえず脱ぎ散らかされた洋服を集めておく。


 あっ、この服シワになっちゃてるよ。

 ちゃんと洋服は掛けとかないとって、お母さんから教わらなかったのかな?


 粗方を片付け終わったところで、ふと手に取ったものを見て時間が止まる。


 あれ? コレって、……パンツ?


――ガチャッ


 そして、私が入って来た扉とは別の扉が開く。そこから現れたのは、予想通りのアルマだ。


 濡れた身体をタオルで拭きながらも、部屋に人の気配を感じ取ったアルマの動きは速かった。


 先ずは足を払われる。私の短い悲鳴と共に、視界が九十度変わって天井が見えたと思ったら、胴体に馬乗りになられて、トドメとばかりに、一方の手で口を手で塞がれ、もう一方の手は私の首を掴む。


「女か? 何者だ?」


 一瞬で起こった出来事に驚きすぎて、声も出せない。


「答えないか? なら、仕方な、い……」


 部屋の暗さに目が慣れたのか、私とバッチリ目が合うアルマ。そして、口と首の手から力が抜けていったのと同時に、もの凄い勢いでタオルを腰に巻いていた。


「お、お前! な、何やってんだ⁉」

「なっ、何って、押し倒してきたのはそっちでしょう⁉」

「勝手に部屋に入ってきたお前が悪いだろ! バカメイド!」

「だ、だったら、鍵くらいしときなさいよ! バカ王子!」


 そう言い合いながら、私は持っていたパンツを投げつけて後ろを向いた。


 ああ、この部屋が薄暗くて本当に良かった。

 今の私の顔は、火が出るくらい真っ赤な自信がある。


 それに、その……、よ、よく見えなかったし!


 わ、私だって、は、裸くらい見たことあるもん。

 …………お父さんのだけど。


※※※


 入室のトラブルはあったものの、何とか冷静さを取り戻して、私達はソファへと腰掛けて話し合いを始めた。


 私は、シアさんと広間で仕事を確認しに行った時のことを話した。

 冷ややかな視線を向けられたことや、与えられた仕事が部屋に戻れだったこととか。


「なんだそんなことかよ。とりあえず、『仕事は王子オレの話し相手です』と、でも言っとけよ」

「はぁ?! 話し相手って、それ仕事?!」


 新参者は信用出来ないってこと?!

 まさか、このバカ王子が何か吹き込んだのか!


「バカ! どう考えたって方便だろが?! みんな、お前のことを、俺の、…………だと思ってんだよ」

「なに? ハッキリ言いなさいよ!」


 歯切れの悪いアルマに食って掛かると、『察しの悪いヤツめ』と、呆れたような視線を向けられる。


 なに? 言いたい事は言葉にしなさい!


「ハァ。みんな、お前を俺の寵姫だと思ってんだよ」

「はぁ⁉ な、なッ?!」


 そうか! あの侍女さんたちの冷たい視線。

 私、腰掛けで侍女になったと思われてるんだ⁉


「もうちょい同情的に、忌み子の慰み者って言ってる奴もいるぞ? まぁ、気にすんなよ」 

「ぜ、全然! 気にするわよ‼」

「言葉、おかしくなってんぞ?」


 あぁ、シアさんが優しく接してくれたのは、そんな風に見られていたからかも。最悪だぁ……。


「だから、側室って言っちまった方が早かったじゃねぇか」

「絶対イヤ!」


 そんなことしてみろ、本当に引き返せないところまで行ってしまうじゃないか!


 それこそ、陰口を言われたり、後ろ指を指されたりするだけじゃ済まないよ。


 それに……


「そんなことしたら、私がアルマのお嫁さんになっちゃうじゃない。あなたも困るでしょうが……」

「…………」


 なぜ、黙る?

 おいおい、まさか気付いてなかったの⁉


 それとも、私がおかしいの?

 王族は何人も側室を持つのが普通だから、別に気にもしてなかったとか……。


 そうだとしたら、意識してる私が馬鹿みたいじゃないか!! うわぁ、めっちゃ恥ずかしい!!

 

 あぁん、もう! 何とか言いなさいよ!!

 こっちは今、耳まで真っ赤だってーの!


「じゃぁ、そろそろ私行くね」


 そうしていたたまれなくなった私は、アルマの部屋から逃げるように退散したのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る