第13話:王宮のお仕事1

 晴れて王宮のお仕事を頂いて、与えられたメイド服に袖を通す。


 地下牢以来の再会!

 あ〜ぁ、やっぱり落ち着くなぁ。


 なんと、私専用の部屋まで用意されました! と、言うか、元々アルマの従者のための部屋らしいけど、忌み子と恐れられて今まで使う人がいなかったとのこと。


 私にはありがたい話です!


 従者用の部屋? いやいや、もしかしなくとも私の家よりも立派な部屋ですよ。まったく……。


「そんなに張り切ってどうすんだ?」


 着替えを済ませて部屋を出てみれば、何故かアルマの姿があった。


「あッ、アルマおはよう!」

「公務中は王子だろ。バカメイド」


 うぅ。今のは私が悪い。

 いくら何でも気安く接しすぎた……。

 昨日の今日で、距離感が掴めていなかったらしい。


「お、おはよう御座います。アルマ王子」

「おはよう。


 コイツ⁉ 朝から喧嘩売りに来たのか?


「そ、それで、何か御用でしょうか? 王子……」

「あぁ、どうせ仕事って言っても、何も知らないんだろうと思ってな。指導役を連れて来てやったんだ」


 おッ! 流石分かってますねぇ〜、王子!


「おい! シア、こいつだ!」

「ひっ‼ は、はい……」


 おいおい、この人怯えてないですか?

 見るからに気弱そうな侍女さんだし。


「見ての通り抜けたヤツでな、迷惑だったらその辺に捨てといてくれ」

「す、捨てる?」


 あ〜ぁ、明らかに反応に困ってるよ。

 ヨシッ! 指導してくれる人を連れて来てくれたなら、この王子は用済みだね。


「これからよろしくお願いします! えっと、シアさん? さぁ、こんな、放っといて早く行きましょう」

「バ、バカ⁉」


 目を丸くするシアさんの手を引いて、なにか言いたそうなアルマの前から足早に去ることにした。


※※※


 アルマからの逃走に成功して、一息つくとシアさんが遠慮がちに話しかけて来た。


「あ、あの、お名前を……」

「あッと、そうだった! エナです。よろしくお願いします!」

「こ、こちらこそ、よろしくお願い致します」


 シアさんに丁寧に深々と頭を下げられて、あたふたしてしまいながらも、私達は仕事場へと向かった。


「そ、それにしても、さっきの王子への物言い……」

「マズかったですよねぇ。やっぱり……」

「はい。相手は王族の方なんですよ? それに、あのアルマ王子になんて」


 しっかり怒られた。


 当然かぁ。従者が主人にとる態度じゃ無かったのは、自分でも分かってる。でも、アルマが相手だと、つい素が出ると言うか……。


 でも、私にだって言い分はある。


 あんもう、言っちゃう? 

 ついでだ、言っちゃおう!


「でも、アルマのヤツも大概だと思うんですけどぉ!」

「ほら、また……」

「だって、人のことをバカとか、抜けてるとかって、散々に言ってくるじゃないですか? みんな、よく平気ですねぇ」

「……アルマ王子がですか?」


 みんな大変なんだろうなぁ。あれ。

 上手いかわし方のコツとかあるのかなぁ。


「あんなに悪態ついてたら、人が寄って来ないのは当然って言うかぁ」

「分かりません。私には、あまり心当たりがありませんので……」

「えぇ⁉ ……そっかぁ、シアさん優秀なんだぁ」


 それって、私がダメダメってこと?

 はぅぅぅ、それは流石にヘコむぅ。


「いいえ。悪口や悪態どころか、アルマ王子が私達にお声を掛けて来ること自体がありませんから。ですので、今朝はビックリしてしまって……」

「え? そうなんですか」


 うん? と言うことは、私に対する扱いだけが違うってことなのかな。


 あれは素のアルマってこと?


 アイツのことだ、『バカに合わせるのに必死で、体裁を保つの忘れてた』とか言いだしかねないな。


 ぐぬぬ、おのれアルマのヤツめぇ。


「ですが、お二人の関係でしたら、私達と違った対応なのは当然なのかもしれませんけど」

「へぇ? それってどう言う……」

「着きましたよ」


 肝心なところを聞き逃して、私達は目的地に到着した。


※※※


 私達の到着したのは、広間にボードのような物が備え付けられような場所だ。


「あのボードに、仕事の役割や進捗が報告されているんです。私、ちょっと見て来ますね」


 シアさんがボードの方へ向かって行ったのを見送りつつ、広間の様子を見回してみた。シアさんと同じようにボードで仕事の確認をしている人達や、壁際で談笑しているグループなどなど、例えるなら、ここは使用人専用ギルドみたいな場所だ。


 それにしても、何か周囲の視線が突き刺さってくるような。


「お待たせ致しました」

「あ、いえ、その……」


 戻って来てくれたシアさんに、この言いようの無い感覚を目で訴える。


「ああ、そうですね。少し場所を移しましょうか」

「あ、はい……」


 シアさんに促されて、広間を後にする。


 なんだ、なんだ⁉ あの場所は。

 あれは、そう! 針のむしろ!


 王宮内の中庭のようなところで、シアさんは足を止めた。


「やれやれ、想像していた以上でしたね」

「想像以上?」


 想像していたって、どう言うこと?

 確かアルマも、部屋から出た時に何か言っていたような……。


「エナさん、貴女の仕事を確認して来ました」

「は、はい」

「貴女は、部屋にお戻りなさい」

「え? あの、仕事は?」

「それが貴女の仕事です」


 ……私、クビってことですか?

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