第9話:死の呪い3
「では、始めましょうか。私達の悲願。呪いの儀式を!」
儀式? 私は、……何をするの?
「とはいえ、儀式と言っても難しいものではありませんのでご安心ください」
そう、なんだ。
正直、今の私に何をしろと言われても、とても無理。
「呪いの儀式は、大衆の前で貴女を生贄に捧げることだけです」
大衆の前で……
分からない。もう、どうでもいい。
「では、コチラへ」
朦朧として焦点も合わせられない私の手を引いて、司祭は大きな闘技場へと導いた。
※※※
闘技場に到着すると、場内は多くの民衆で溢れていた。中央では何だか偉そうな人が話しているようだが聞こえない。
いいえ、聞こえていても理解出来ないんだ。
「皆、よく集まってくれた! 今日はアルマ王子の戦勝祝いの儀式を執り行ないます! 戦勝の神への貢物をこちらに!」
「さぁ、出番ですよ。しっかりとお役目を果たして来なさい」
そう言って司祭に背中を押されながら、闘技場の中央に設置された祭壇へと私が歩み出ると、集まった民衆から大喝采を送られる。
「この少女の命を戦の神への捧げものとする」
ああ、死ぬんだ、私。
恐怖も怒りも感じない、こんな空っぽのままで。
「では、生贄をここへ」
でも、やっぱり、嫌だな。
「せめて苦痛と迷いの無きように」
……死にたく、ない!
※※※
ズサッ!! という音と共に、私に振り下ろされるはずの剣が地面へとこぼれ落ちた。処刑人の男は、手を痛そうに押さえて呻いている。
民衆も何が起こったのか分からずに動揺していたが、そんな闘技場の貴賓席らしきところから、ヒョイヒョイとあっという間に中央の祭壇へと近づいて来た人物がいた。
「やっぱり、お前か」
近寄って来た人物を視界に入れるが、どうも頭が働かずに上手く認識が出来ない。
「お前、寝ぼけてんのか?」
「……」
誰だっけ? この人。
「じゃぁ、こうすれば反応してくれるか?」
そう言って、目の前の人物は剣を抜くと、私の目の前でその剣を振り下ろした。
私の鼻先を剣が通り過ぎたのと同時に、頭の霧が一気に晴れた。まるで夢から覚めたような気分だ。
「あッ、アルマ。おはよう……」
「何がおはようだ。ったく、毎回調子狂うな、お前」
なんだよ〜、人が折角挨拶してるのにその態度は? つれない人だなぁ。
それにしても、何で恥しそうに顔を赤らめて目を逸しているんですか?
あれ? それにしても何で急に意識が戻ったんだっけ?
司祭は服に仕掛けがある、って……
そして、気付く。
この感覚、どこかで感じたものだ。
それも、ごく最近。
この胸やお腹がスースーする感じ……
そして剣の辿った先を確認すれば……
「⁉ き、キャァァァッ!!」
思わずその場にしゃがみ込んだ。
そう、服が、私の服の正面がバッサリ切られて、肌が露わになっているのだ。
「……その、良い体してるじゃないか」
「何言ってんの?! バッカじゃないの!!」
最悪だァァァ!! 司祭の時とは訳が違う。
だって、たくさんの民衆に見られてしまった。
私、もうお嫁に行けないかもしれない……
って、ちょ、ちょっと⁉ キャッ!!
アルマの羽織っていたマントで簀巻きにされたかと思うと、再びのお姫様抱っこって、どんな状況なんだぁ!?
「王よ! この娘、要らぬのなら俺が貰い受けても良いですか?」
はぁ!? ちょっと、何言い出してんの⁉
「な、なりません! アルマ王子、その娘は戦神への貢物で御座います!!」
「これは、俺の戦勝祝いのはずだ。戦神には後ほど俺から感謝とそれなりの供え物を贈ろう。不服か?」
司祭とアルマの争い再び。
そして、その間に挟まれる簀巻き……
もういっそ、投げ出してくれても良いんですよ?
「……やめよ」
貴賓席の方から声が聞こえたかと思うと、二人は言い争いを止めて貴賓席の方へと体を向けた。
そこに立っているのは、この国の王様だ。
ああ、簀巻きのままで失礼します……。
「娘の一人や二人くれてやれ。だが、アルマよ、あまり我がままを言うものではないぞ」
「ありがとうございます! 父上!」
って、え? ちょ、ちょっと勝手に話を進められても困るんですけど⁉
「では、私は部屋に戻りますので、あとは良しなに」
そうして訳の分からないまま、私は王子の部屋へと連れて行かれるしかなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます