第7話:死の呪い1

 気がつくと、そこは薄暗い牢獄でした。


 ハッ、ふ、服は?! あぁ~、良かった。

 手で触ってみたら、しっかりとしたメイド服様の感触がある。


 連れて来られる最中に、またあの司祭へんたいに剥ぎ取られていたらどうしようかと思った。


 それにしても、辺りを見回しても何もない。

 一番初めに逆戻りって訳ですか。


「どうなっちゃうんだろう。これから……」


 薄暗い部屋に一人で居ると、どうも思考が嫌な方向に行ってしまいそうだ。普段は考えない悲観的な想像が嫌というほど頭に浮かぶ。


 ……生贄


 ここまであまり意識して来なかったが、つまり神様への供物ってことだ。


 そして、その多くはその命を奪われる。


 ハァ、どんどん絶望的になって行く。


「私、まだ死にたく無いんだけどぉ……」


 そんな暗い考えに浸っていても仕方がない。

 今出来ることを考えよう!


 ようやく立ち直りかけた時、牢獄の入り口に人の気配があった。


「おや、お目覚めでしたか」


 ハァ、やっぱりお出でなさった。司祭様……


「ご気分はどうですか?」

「……良いわけないでしょ」

「それはいけません! 大事な御身なのですから」


 どの口が言ってるんだ? まぁ、お供えされるまでは利用価値があるってことだろうけど。


「これから、どうする気?」

「然る準備の後、儀式を執り行います。それまで、ごゆっくりお寛ぎ下さい」


 お心遣いありがとうございます。なにしろ、こんなに素敵な客室を用意されていることだし。


 床も壁もひんやり冷たい石造りで、寝床は板切れに藁の敷かれた特注品。おまけに出入り口は頑丈な鉄格子で安全性もバッチリだ!


 馬のお産を手伝った時にいた小屋の方が、遥かにマシだったんですけど?!

 

「それにしても、儀式の前にまさか忌み子と邂逅かいこうしてしまうとは。いやはや、困ったものです」

「アルマのこと? あの人のどこが災いの子なの。髪の色以外、変わったところなんて全然ないと思うんだけど」

「おや、驚きました。彼が自分で名乗ったのですか?」


 え? 普通に教えてくれましたよ?


「やはり、惹かれるのでしょうかねぇ? 己を葬れる特別な存在に」


 惹かれるかぁ。どっちかって言えば、あれは呆れてるというか、面白がってるって言うんじゃないかなぁ。


 そう言えば、何でこの人は私の居場所が分かったんだろう?


「あなた、どうやって私のことを……」

「見つけられたのか、ですか? なに、実に簡単なことです」


 簡単? そんな勿体ぶってないで教えてください。なんですか、その『ご存知でしょう?』の間は。


「言ったはずですよ? 生贄はドラゴンアイに映されると。貴女のことは、これを通して見ておりました」


 な、なんだてェェェ!?

 そうすると、その水晶で私はずっと覗かれてたってことですかぁ?!


「あぁ、ご安心下さい。ずっと貴女を覗き見れる訳ではありませんよ。この水晶も、少々クセがありましてね」


 そのクセが気になるんですけど⁉

 まさか、私をひん剥いた時に無反応だったのって、前々から私の着替えや水浴びを覗いてたんじゃないでしょうねぇ⁉


「とにかく、何かあれば仰って下さい。なにしろ、貴女は大事な供物ですから」


 時が来るまでは丁重に扱いますって事ね。


 まぁ、確かに乱暴はされなさそうだ。その、必要なのは、純血の娘って言ってたし……。


「では、また後ほど……」

「あ、待ってください! 最後、アルマになんて言っていたんですか?」


 気を失う直前に、司祭に何かを吹き込まれているアルマが見えて、直後に彼は力無く去って行った。


 何故かその姿が、頭から離れようとしない。


「ああ、別に大した話ではないですよ。ただ、事実を教えて差し上げただけです」

「事実?」

「ええ。『彼女は、貴方を殺しますよ』という、明確な事実をね」


 あっ、そうだ……。

 自分のことばかりで考えられていなかった。


 私は、あの人を殺してしまうんだ。

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