第5話:忌み子の王子2

 王都をしばらく歩き回ってみたが、なかなか良さそうな仕事が見つからない……


 街の人に聞いてみても、みんなに首をひねられてしまった。


 田舎者に仕事なんて無いって言うこと?!


 はぁ、困った。このままじゃ、本格的に飲まず食わずの野宿コースだ……


 そんな考え事をして歩いていたからだろう。私は、人通りの少ない路地に入ってしまったことに気付いていなかった。


「おい、仕事を探してるってのは、あんたか?」


 途方に暮れていた私に声を掛けてきたのは、なんだか胡散臭そうな男の人だ。


「え、えぇ。そうですけど……」

「ヒッヒ! 良かったら取っておきの仕事を紹介するよ?」


 いやいや、絶対に駄目なヤツでしょこれ。

 目が血走っちゃって、その顔から下心しか見えないんですけど?!


 まぁ、露骨な分だけあの司祭よりマシかも……


「せ、折角のご紹介ですけど、ご遠慮させて頂きます」


 そう言って、男が次の言葉を発する前に、回れ右してダッシュ……、って、あれ? なんで? 体が言うことを聞いてくれない⁉


 そうして私は、その場に倒れ込んでしまった。


「チッ、手間かけさせやがる」


 ぐらんぐらんする頭の中に、先程の男の声が響く。やっとの思いで動かした頭で男の方を見ると、男の手には吹き矢のような筒があった。


「ヒッヒ! 侍女様が仕事探しとはなぁ。売っぱらう前にちっと味見してもいいか? ヒッヒ!」


 じょ、冗談じゃない! でも、毒針を撃ち込まれたせいで、体の自由が効かない!


 そんな状態の私に、どんどんと男は迫って来る。


「おっと、よく見たら結構な上玉じゃねぇか! ヒッヒ!」


 その笑い方は止めて下さい。とっても耳障りなので! それに、あんたなんかに上玉とか言われても、まったく嬉しく無いんですけど!


 って、そんな強がりももう限界そうです。


「ヒッヒ!」

「……おい」

「あぁ?! 人のお楽しみ中に、な、ん、の……」


 あれ? あの卑猥な笑い声が止んだ。しかも、誰か来てくれたみたいだけど、誰だろう?


の侍女に、手出してんじゃねぇよ!!」

「ヒッ、ヒィィィ!! お、お助けぇぇぇ!」


 だ、誰だか知りませんが、助かりました!

 あ、ごめんなさい。お礼は今は勘弁してください。薬で口が上手く動かなく、って、ふぁあぁ⁉


 倒れ込んでいた私は、いきなり身体を持ち上げられた浮遊感に見舞われた。


※※※


「まったくよぉ、あきれる程の間抜けっぷりだな、お前」


 な、なんですと⁉ って、助けてもらった挙げ句に、お姫様抱っこで抱き抱えられている私が、言い返せることじゃないんですけど……


 で、でも、大分薬も抜けてきたから、喋ることくらいならもう出来ますから!


「あ、ありがとうございました。助けて頂いて」


 そう、人として先ずはお礼。これ大切!

 で、次からが本題。


「それで、どうして私の場所が分かって、助けてくれたんですか? 


 そう、予想通り。私を助けてくれたのは、あの白髪の王子様でした!


 まぁ、薄々分かってましたけど、私、王都に知り合い居ませんし。でも、なんで王子様がこんな所にって話ですよ。


「ああ、王都で仕事を探してる侍女がいるって噂を聞いてな。気になって城下に見に来てみたのさ」

「そ、それって、噂に成るようなことですか?」

「そりゃなるだろ? 自慢じゃないが、ウチの侍女って言ったら、王都の中でも結構人気のある仕事でな。入るの難しいんだぞ? そんな侍女が王都で職探しって、プッ」


 はぁぅぅぅ。そうか、仕事が見つからなかったのは、このメイド服のせいか!


 確かに王都の人達から見たら、エリートの侍女様がなんで職探し? って、当然の疑問だったって事かぁ。みんなが首をひねっていた理由が、やっと分かった。


 いやぁ、なかなか仕事が見つからなかった時は、疫病神にでも憑かれているのかと思った。


「しかし、目立ってくれてたおかげで、お前の場所がすぐに分かったんだけどな!」


 おっと、私が助かったのも、このメイド服のおかげらしい。


 ありがとう御座います。メイド服様! 先程は疫病神なんて言って、本当にすみませんでした。


 そんな話をしているうちに、私達は高台にある広場に到着した。


※※※


「本当に大丈夫かよ?」

「ええ、大分痺れもなくなって来ましたから」


 広場にある木陰のベンチに降ろしてもらう。


 だって、いつまでもお姫様抱っことか、恥ずかしずぎて死んでしまう!


 あ、私、そんなに重くないですよ?


 ちょっと、私を降ろした後で剣と重さを比べるような動作はやめて下さい! 王子様!


「さて、じゃぁ話してくれよ。なんで王宮から逃げ出したのか」


 ああ、やっぱり、それ聞かれるよねぇ……


 でも、どうしようかな。この王子様、悪い人じゃないって言うのは分かった。真実を伝えても、すぐには殺されたりはしないと思うんだけど……


「今、王宮内で女の大罪人が逃げ出したって騒ぎになってるぞ」


 えぇー! あの司祭、ついに私を大罪人にしたってこと⁉ 私が一体何をしたぁ!

 あ、もしかして、股間を蹴り上げて殺人未遂とか……


「ひょっとして、お前か?」

「ち、違います⁉」

「だよなぁ、お前みたいな抜けた奴が大罪人のはず無い」


 なんだとぉ⁉ 誰が抜けてるって?


「あ、あの、なんで王子様は私のこと……」 

「アルマだ」

「はい?」

「だから、アルマだ。俺の名前だ!」


 あ、あぁ! そうだった、そうだった!

 そう言えば、自己紹介の時に名乗ってもらってなかったんだった!


「まったくよ、王宮に仕えてるくせに王子おれの名前も知らねぇのかよ、ったく」


 うぅ、面目次第もございません。

 あ、そんなに拗ねないでぇぇ!


「ハァ、まぁいい。で、お前は……」

「探しましたよ? まったく、手間をかけさせますねぇ」


 会話に割り込んで現れたのは、あの司祭へんたいだった。

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