第4話:忌み子の王子1
「何だ? お前、ここが俺の部屋だと知らなかったのか?」
はい。知りませんでした。
だって、王子の部屋としか聞いてませんでしたし!
「……お前、俺がどう見える?」
え? どうって言われても……
「綺麗な髪の人だなと思いますけど」
「ハッ、世辞はいらん。正直に言ってみろ」
「え⁉ 本当にそう思ってますけど?」
うわぁ、めちゃ睨まれてる⁉
私は本当のことを言ったつもりなんですけど?!
交わる色が無い純白って感じで、何よりそのサラサラヘアーですよ! ああ、羨ましい。
「お前、俺のことを知らないのか?」
「ええっと、忌み子の、あ、いえ……」
あの、またしても睨むのは止めてもらって良いですか? ちょっと私、耐えられる自信が有りません。
た、確かに失礼なことを言ってると思いますけど、聞いてきたのはあなたの方ですよ?
「そうだ。それを知っていて、何故俺に近づく?」
「いやいやいやいや! 私だって別に好きでここに来た訳じゃないんですけど⁉」
って、し、しまったァァァ!!
ついつい興奮して、またもや口に出してしまったァァァ!!
怒ってる? 怒ってるよねぇ?
だって、相手は王子様だもんねぇ!?
「やっぱりな」
え? 意外に怒ってない?
と、言うか、少し安心してないですか?
「それで、お前はいつまでここに居るんだ?」
「えっと……、実は出口が分からなくて……」
あ、その可哀想な人を見る目には慣れてます。
「はぁ、訳分かんねぇ奴だな」
奇遇ですね。私も訳分かんないんです。
「しょうがねぇ、ついて来いよ」
そう言いながら、とっとと出て行ってしまった王子様を慌てて追いかけて、私も部屋を出た。
※※※
王子様の後ろに付いて、知らない通路をどんどん進んで行く。こんな迷路みたいなところ、よく迷わないなぁ。
それにしても、部屋を出てから何で誰ともすれ違わないんだろう?
「お前、名前は?」
「あ、エナです」
足早に進む王子の後を追いかけながら、私は名前を答えた。
……あれ? 王子様、お名前は?
他人に名前を聞く時は、まず自分が名乗ってからって教わらなかったのですか?
「お前、何であんな真剣に掃除してたんだよ? 他の侍女連中なんて、俺の呪いを恐れて滅多に近づいて来やしないのに」
「い、いやぁぁ、一遍始めたら後に引けなくなっちゃって……」
「プッ、なんだそりゃ面白いやつだな。お前みたいなのは初めてだ」
でしょうね。こんな縁もゆかりも無い人間が、簡単に出入り出来るような場所じゃないですもん。
「しかし、城門が分かんなくなるなんてな。お前、この城に来てどれくらいなんだよ。まったく」
え? 初めてですけど、何か?
と、言うか、この王子様。全然悪い人に見えないんですけど。もしかして、事情を話せば助けてくれるんじゃ……
「あ、あの……」
「ん? どうした?」
でも、なんて言ったら良いんだろう。『私、あなたを殺すための生贄にされそうなんです。助けてください!』って?
……ダメだ。怪しすぎる。
「あ、い、いえ、何でもないです……」
「あ? んだよ、変な奴だな」
それに、自分を殺すための生贄って聞いてどうする? もしかしたら、自分が殺される前に生贄、つまり私を亡き者にしておこうって考えても不思議じゃない。
そうこう考えているうちに、目の前の王子は歩みを止めた。
「ほら、着いたぞ」
おお! 確かにここはお城の城門だ!
「あ、ありがとうございます!」
「いや、別に良い……」
またまた、そんなこと言って照れてるのが隠せてないぞ?
「な、なぁ、エナと言ったか?」
「あ、ハイ!」
「また会えるか?」
う〜ん、どうだろう。お城から出たら、私はまずこの国から離れようと思ってるし……
「残念ですけど、難しいと思います」
「……そっか」
え? こんな、初めて会った侍女?風情を相手に、なんかめっちゃ残念そうなんですけど?!
「では、本当にありがとうございました!」
名残惜しそうな王子様に改めてお礼を言って、私はお城を後にした。
※※※
城門には見張りの兵士たちが居たけれど、お城から出ていく人のチェックはゆるゆるだった。
内密にしたくて知らせが城門にまで届いていないのか、もしかして、このメイド服が効いたのかは分からないけど。
それにしても、改めてお城の方を向くと、とてつもなく立派な建物で自分が別世界に来てしまったのだと感じてしまう。そして、また王都の方を見る。やっぱり、とてつもなく広い……。
……これからどうしよう
王都を出るのも一苦労だし、何よりも手持ちのお金が無い!
これだと、王都を出るための準備以前に、今日明日の生活すら危うい。
ここで先ず私がやらなくちゃいけないこと、それは仕事探しだ!
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