第11話 お説教は耳に痛い?
「レオもイザベルのお友だちなんだから、私がこれからこの娘に話すことをよく聞いて、今後、この
とマリー・フランソワさんからも言われた!
(ゲゲッ、オレがそんなこと言って聞くような娘じゃないでしょう、このお嬢さんは?)
と思ったが、逃げ出すことは叶わなかったので仕方なく、イスに座って
結局、お母さまの説教は一時間近く続いた。
気の強いイザベルにしてはめずらしく、彼女はあまり口答えも、弁解もせずにだまって説教を聞いていた。
おそらく、口返事したりしたら、説教はさらに長くなることを知っていたのだろう。賢い娘だ。
どんなことをお母さまは言ったかと言うと-
“あなたも、もう年頃なんだから、男の子みたいな行動や遊びはやめてほしい”
“しっかりお父さまについて仕事を見習って、将来はお父さまの片腕となって家業を手伝ってほしい”
“あなたは賢いし、とても美しいのだから、良い家からの縁談もこれから先たくさん来るはずだから、料理とかお花とかも習って教養のある女性になってほしい
エトセトラ、エトセトラ…”
(いいところの子女って、みんな同じような、窮屈な教育をされるのだな)
イザベルはローズブレイド家の一人っ子ではなく、サムエル、マイケルという二人の弟がいるし、この弟たちもけっこう優秀なようだから、何もイザベルが家業を継いだり、父親の片腕にならなくてもだいじょうぶだと思うけど、この家(この世界?)では、娘に家業を継がせることがふつうらしい。
お母さまの長いお説教がようやく終わって、「それでは失礼します」と夫婦の寝室を出たとたん
「レオ、私に部屋に行きましょう!」と誘われた。
(えーっ、お部屋で何をされるのかなぁ)
期待感がわきつつあるのを感じていると、金色のビー玉がコツンと頭にあたった。
「イテッ!」
「あら、どうかしたの? あまり長く私への説教を聞きすぎて耳がいたくなっちゃった?」とイザベルがニヤリと笑って訊く。
どうやら、この娘にお説教は馬耳東風だな…
「いや、ちょっと説教の時間が長すぎたので、腹が空いて腹の虫があばれようとしているみたいなんだ…」
「あら、そう。それは悪かったわね」
いや、別に悪くはないんだけどね… オレの守護天使さんが、オレが少しエッチなことを考えたので体罰(?)をあたえてくれただけなんだし。
イザベルは階段のところまで行くと大声で言った。
「テレーザ!ちょっと私の部屋にまでお菓子と飲み物をもって来てくれなーい?」
さっき、玄関ホールの掃除をしていたメイドさんにでもたのんだのだろう。
「はーい。お嬢さま。すぐに持っていきます」と返事が聞こえた。
イザベルの部屋は両親の寝室のとなりだった。
部屋の中は、年頃の女の子らしい…
いや、
三十平方メートルほどの広さの部屋は、さすが地域屈指の資産家の娘の部屋にふさわしい広さだが、暖炉がある側の壁にはところ狭しとさまざまな種類の剣が飾られていた!
そもそも、壁にソードやレイピアなどのコレクションを飾っている女の子ってどこにいるんだよ?
(目の前にいるじゃない?)
シーノが早速ツッコんできた。
「やれやれ… ロンさんもマリーさんも心配するわけだ…」思わず口に出た。
「誰かさんといつも遺跡あたりでコソコソしている人に言われたくないわ。」
「えーっ、どうしてそのことを知っているんだ?」
「レオとあのお友だちがやっていることくらいぜーんぶお見通しよ!」
「さてはオレの後をつけたな?」
「ふふふ。ご想像にまかせるわ」
(さすがオレより1歳、いや、1年2ヶ月早く生まれただけある。知恵もハンパない!)などと感心していると...
「そこで相談があるんだけど…」
イザベルがレオに近寄って来て、その美しい青い目でマジマジとレオを見つめた。
(ほら来た!)
そう思いながらも、あまりに近いイザベルの顔に少しドキドキするレオ。
(まさか、このあとでイザベルは目をつぶって口を突き出して…)
レオは想像を無限大にふくらませる。
その時、ドアがコンコンとノックされた。
「どうぞ!」
イザベルはさっとレオから離れる。
やはり自分でもあまり接近しすぎていると知っていたのだろう。
イザベルとあまり年がかわらないような若いメイドが、お菓子と飲み物を乗せたお盆をもって入って来た。
(そうなんだよな、金持ちってメイドを数人やとっているんだよな)
メイドはテーブルにお盆を置いて「失礼します」と言って出ていった。
「相談ってなんだよ? どんなことをやっているか話せって言うのか?」
(話だけですむのなら、肝心のところは隠してさしさわりないところだけを話すんだがな…)
どんなふうに話そうかと考えていると
「あなたとあの王子さまがやろうとしている計画に私を加えること!」
「イ、イザベルをオレたちの計画にく、く、加えるー?!」
「そう!」
涼しい顔をして美少女は言った。
自分がオレたちのやっていることに絶対参加できるという、ふてぶてしいような自信をもっているようだ。
しかし、そんなに(たぶん、ほとんど何も知らないだろうし)自信たっぷりな顔して、ご自慢の胸を前に突き出して言ったって、そうたやすくオレたちの秘密の共有はできないんだよ。
「それは無理だ」
「あ、そう。じゃあ、フェルナンド司教さまに、あなたと王子さまが遺跡でわるさをしているって告げ口しちゃおうかな…」
「えーっ、それはやめて!立ち入り禁止されちゃう!」
そこまで周到に作戦を練っていたか。こうなりゃしかたない。背に腹は代えられない。
「よし、イザベルが加わることについて、オレは認める」
「わーい、やったー!」
手を叩いてよろこぶ赤毛の美少女。
「ただし…」
「え?」
「カイオがどういうかだ。彼が承知したらいいけど、ノーと言ったら出来ないよ」
「じゃあ、さっさと私をカイオ王子のところへ連れて行って、ちゃんと説明して承知してもらって」
「えっ、今から?」
「善は急げ、と言うでしょう?」
(これがはたして善なのだろうか…?)
テーブルの上に置いてあったお菓子をとってかじりながらオレは思った。
「さあ、お城までちょっと出かけましょう!」
イザベルは元気よく言うと立ち上がり、オレの手をにぎって(引きずるように)先に立って歩き始めた。階段を降りたところで、さっきお菓子を持ってきた若いメイドと会った。
「お嬢さま、お出かけですか?」
「うん、ちょっとグランデ城までね。あ、そうそう、ジョージに言って馬車を出すように言ってちょうだい」
「はい、ただいま」
若いメイドは家の裏の方に小走りで駆けていった。
あいかわらずオレの手をにぎったままのイザベルに引っ張られて家の前に出て、馬車が来るのをしばらく待つことになった。
「イザベルのお母さん、あいかわらずきれいだね」
「労働はしないし、日に当たる仕事もしないからね」
「でも、イザベルのお母さん、ちょっと耳が細いんだね?イザベルの耳もいくぶんか細い感じするけど、マリーさんのはさらに細いんだね」
なんとはなしに感じていたことを口に出して言ってみた。
「ああ、私たちの耳の形? これはエルフの血の影響よ」
なんでもない、ふつうのことのように、まるで“今日はよい天気だね”と言っているような調子でいともあっけらかんとイザベルは言ったのだった。
「えーっ、エルフ――――?」
「そうよ。」
「イザベルってエルフだったんだぁ。そしてお母さんはママエルフかぁ!」
「何を今さらおどろいているの? 別にめずらしいことでもないでしょう?
誤解しないように修正しておきますけど、私とお母さまは、
たまたま母方の先祖の一人だったエルフの遺伝の影響が強くでたというだけよ。
だから、正確な意味では私もお母さまもエルフではなく、
エルフの血が混じっているというだけ」
「え、そうなの?じゃあ、エルフだったのは、イザベルの“ひいひいひいおばあちゃん”とか?」
「それよりもずーっと昔のことよ。それと、“ひいひいひいおばあちゃん”なんて呼び方はないわ。あるのは“ひいひいおばあちゃん”でこれが“高祖母”。その前は“高祖父母の祖父母”などと呼ぶのよ」
(イザベルの知識はハンパないな…)
感心していると、ジョージ爺さんが操る馬車がやって来た。
イザベルは身軽に飛び乗ると、上から手を差しのべて引っ張り上げてくれた。
(女の子に手をかしてもらうなんて、これじゃ反対だ…)
そんなオレの気持ちにはイザベルもジョージ爺さんも馬車を引く馬たちもまったく関心をもたずに、馬車は勢いよく屋敷から走り出した。
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