第10話 赤毛の美少女

「どうせあなたも私のお父さんに頼まれて私を探しに来たんでしょ?」


密航しようと船倉にかくれていたのを見つけられた赤毛の少女は、レオを忌々しげに睨んで言った。

だが、本気で怒ってないことは、その唇に少し笑いが浮かんでいるのを見てもわかる。


それにしても、DK7のマリ〇ルは二次元美女だったけど、この赤毛のイザベルはスッゴイ美女だな…

そんなことを考えながら、あらためてボン・キュッ・ボン美女を観察する。


「レオ、あまり私を見るのをやめてくれる? なによ、私のことを初めて見るみたいにジロジロ見て!?」


再度イザベルからクレームされたが、スタイルと美貌に自信があるらしいイザベルは、レオがジロジロと見ていたことがうれしそうな感じだ。

年頃の女の子が口に出すことと考えていることが違うことが多いのだ。


「まあ、そうなんだけど…」


「ここじゃもう何もすることないから、上に上がりましょう」


「お、オーケー」



上甲板に出ると、すでに船着場に降りていたロンさんがイザベルを見て言った。


「やはり船の中に隠れていたか!レオ、ありがとう。イザベルにはあとでたっぷりお説教だな!」


タラップを降るとロンさんが礼を言った。


「レオ、イザベルを探してくれて助かったよ!」


「いえ、どういたしまして。イザベルはただ船の中を見学していただけですよ」


“幼馴染”という設定になっている赤毛の美少女を弁護しようとしたが、


「まあ、レオもイザベルとは幼馴染なのでこの娘を庇ってくれるのはいいけど、イザベルの企みは毎度同じことなんで私もいまさら驚きもしないがな」

と少しため息をつきながら言った。



 あらためて朝の光の中でイザベルを見る。

白い長袖シャッツの上に赤い革製のベスト。下は赤色の足にぴったりしたレザーのパンツを着ており、そのスラっとした見事な足が強調されている。

 ブーツは赤い革製の膝下まであるものでヒールがあるのでレオと同じくらいの背になっている。

 そしてレザーパンツには少し広めの革製ベルトをはめており、短剣らしいものが赤い革ケースに入れて下げられている。


(まるでゲームに出てくる女剣士のスタイルだな。それにしてもオレ好みのプロポーションだ…)


「あのさぁ...」


「ん?」


「あなた、また私をジロジロ見ているじゃない!そんなに今日は気になるの?」


「いやー、そうじゃなくて。イザベルも成長したな、と思って」


ごまかそうとして、言ってはならないことを言ってしまった!


「私だっていつまでも子どもじゃないんだから!17歳にもなれば、少しは女性らしくなるのも当たり前よ!」


“私が魅力的な女性になったのに今気がついたのね!” 的な調子で、しかし、なぜだか頬を赤くて言うイザベルだった。


「えーっ、同い年かと…」


「何言ってるの。私はあたなより1歳年上なのよ!?」


(レオは10月生まれでイザベルは1年2ヶ月ちょっと早く生まれただけよ)シーノが教えてくれる。


「わずか1年と2ヶ月早いだけだろ?!」


「それでも年上は年上!」


勝ち誇ったようにすでにりっぱに出ている胸をさらに張るようにして言うイザベル。



「それはそうと、ちょっと話したいことがあるから、うちに寄って行かない?」


今度は何をたくらんでいるのやら、自分の家にレオを誘うイザベルだった。


「まあ、行ってもいいけど」


そう答えたとき、どうやら漁船の出港の準備が終わったらしく


「よし、イザベルも船から降りたことだし、出港の合図を出してもいいぞ!。」とロンさんが出港のゴーサインを出した。


ジャンジャンジャンジャン


ドラが叩かれ、もやいを解かれた漁船は船着場を離れて行く。

見送りに来ていた乗組員の家族とちが手をふりながら


「あなたお元気でねー!」とか


「パパ、早く帰ってきてねー!」とか叫んでいるのが聞こえる。


船の方からも「おう、まかせとけ、大漁旗を掲げて帰ってくるからなー!」とか


「間男なんか作るんじゃねーぞ!」とか叫んでいる。


(間男って、見送りには子どもも来ているっていうのに!)



操舵室の窓からはヒゲだらけのレオの親父、マウロ船長もしきりに手を振っている。


「あなたー あまりワインを飲みすぎないようにねー!」


聞きおぼえのある声だと思いうしろをふり返るとサラ母さんだった。


「ガハハハ。船中のワインを飲み干しても全然問題ないから心配すんなー!」


ヒゲ親父、どれだけ酒豪なんだ!


船はじきに帆を上げ満帆にするとみるみる遠ざかって入江から出て行ってしまった。

帰ってくるのは、早くて一ヶ月後だ。


「寄り道してないで早く帰ってきて、畑の仕事を手伝ってよ。」


と言い残してサラ母さんはさっさと帰って行ってしまった。


あの声の調子ではあまり期待されてないらしい。


イザベルといっしょに彼女の家に向かう。



家の前でボールで遊んでいる男の子が二人いた。


「あ、イザベルお姉ちゃん、どこ行っていたの?お母さんが探していたよ?」


「おねーちゃん、いっしょに遊ぼ!」


どうやらイザベルの弟たちのようだ。大きい方は11歳か12歳くらいか。

弟の方は6歳くらいかな。二人ともイザベルと同じように肌の色は白いが、髪の毛は二人とも金髪だ。耳の形は二人ともふつう。


「うん、レオといっしょに船を見に行っていたのよ、サム。ちょっと用事があるから遊ぶのはあとでね、マイケル」


家に入ると先ほどのメイドさんが、玄関ホールに置いてある高価そうな置物や胸像などにハタキをかけていたが、イザベルを見ると


「イザベルさま、奥さまが先ほどから探していましたよ。今、お部屋にいらっしゃいます」


「わかったわ。ありがとう。今から行くわ」


“ここで待っていて” なんて言われなかったので、イザベルについて2階に上がる。


さすがに金持ちだけあって大きい家だ。

2階の通路の両側には10以上のドアが見える。それだけ部屋があるということだろう。

廊下の突き当りにある両開きのシックなドアを開けて入る。


「ただいま。お母さん、何かお話でもあるの?」


天蓋つきの立派なベッドのある寝室で、暖炉あり、ソファーセットありの至りつくせりの部屋だ。

この寝室の広さだけでもオレの家より大きいに違いない。

イザベルの母親とおぼしき女性は、窓際に置かれた凝った造りのテーブルの前で、これも凝ったデザインのウッドチェアに座って本を読んでいた。長い金髪と青い目、そしてイザベル耳より先がとがった耳をした美しい女性だった。


「あら、イザベル。レオもいっしょだったの?」


「あ、おはようございます。おじゃましています…(えーっと、イザベルの母親の名前は…)」


(マリー・フランソワ・ヒッグス・ ローズブレイドよ)シーノがまた助けてくれた。


「マリー・フランソワさんは今日もお元気そうですね」


「どうしたのレオ? 今日は変にしゃちほこばってない?」


「えっ、そうですか?」


そんなレオを少しうさんくさげな目で見ながら


「レオといっしょに船の出港を見てたの」とイザベルはさらっと答えた。


(ウソつけ! 密航しようとしていたクセに!)


思わず声が出そうになって慌てた。


「で、お話ってなーに?」


「ええ、お父さまがね、さきほどお仕事でグランデの町へ行かれたのですけど、お父さまに代わって私からあなたにお話をするようにと頼まれましたのよ。」


(お説教かよ~!)


オレには関係ないので、うるわしい母娘愛の時間をおじゃましないようにと思って


「イザベル、オレ下に行ってサムやマイケルとボール遊びの相手でもしているよ。」


と言って逃げ出そうとしたが... 


「ううん。私はあなたがここにいても別にかまわないわ」


とイザベルから引き止められた!?




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