第9話 船着き場

(いや、それは言葉の綾だよ。本当の理由は、お前はオレのことを守ってくれるのだから…)


(そう。あたなを守るのが私の存在の理由よ)


(だから、お前はオレの友だちということだろ?友だちや仲間はおたがいをカバーし、守るから)


(えっ、私がマスターのお友だち?)



これには守護天使もオドロキのあまり、その小さなかわいい口が開きっぱなしになった。


(そうだよ。何か異議ある?)


(異議なんてとんでも… 私がマスターとお友だち、お友だち、お友だち!)


よほどうれしかったのだろう、光をひときわ強く輝かせてオレの周りをブンブン回り始めた。


(じゃあ決定だ。今後は“レオ”な?)


(はい、レオ♪)



“守護天使シの機嫌を直すなんてちょろいもんだ。”


シーノの機嫌がなおったところで、先ほどお弁当の包みを置いたところまでもどって、ふたたびそれを持って船着場の方へ向かって歩いていると


「レオちゃん、おはよう!朝から走っているなんて元気いいねェ!」


と声をかけられた。ギョッとして声の方向を見ると、近くの家の窓から頭に赤い三角巾を一人のおばさんが、ニコニコ笑いながら手をふっていた。


(ゲッ、見られていた!)


(いいじゃない。マッハ2で走ったわけじゃないし)


シーノが早速ツッコんできた。



まあ、それもそうだ。マッハ2で走らなくて、いや、走れなくてよかったよ。もし走っていたら、こののどやかな漁村はどこかの国の町のように黄砂で覆いつくされていたことだろう…


「あ、おはようございます、マリサおばさん!」礼儀正しくあいさつを返す。


「マウロさんにお弁当を届けにいくのかい?」


「はい」


「今回も大漁だったらいいいね!」


「そうですね。それじゃあ、行ってきます」


「ああ、行ってらっしゃい!」



途中で3人ほど村人と会ったが、ふつうにあいさつをしてあるき続け、屋敷と倉庫のあるところまで来た。その場所は2メートルほど高くなっていて、高台を石垣でしっかり補強していた。

高台に上がる石段をあがると、砂浜から見えていた赤い瓦屋根で石壁の大きな屋敷があった。


(まずはマリ〇ルとやらの家の視察といくか…)


DK7では主人公は船着き場で、仲間となる赤毛の美女マリ〇ルと会うのだ。

この世界のマリ〇ルに該当する少女に会える期待に胸をワクワクするレオだった。


すたすたと屋敷の方に近づいて行くと、玄関の前をホウキで掃いていたメイドさんらしい服装の女性がオレを見て声をかけて来た。


「おはよう、レオちゃん。イザベルちゃんに会いに来たの?」


(この世界でオレの幼馴染はイザベルというのか…)


「おはようございます。ええ、父さんに弁当をもって来たついでにイザベルの顔でもみようかと」


「イザベルちゃんは30分ほど前に船着場の方に行ったみたいよ」


「あ、そうですか。じゃあ、船着場に行ってみます」


船着場に行ったとなれば、たぶんあそこにいるんだろうな… と思いながら船着場に向かう。



 船着場には貨物船らしい50メートル級の帆船が1隻と30メートル級の帆船が2隻、倉庫に近い岸壁に並んで停泊していた。


 ボニート漁に出かけるらしい(父のマウロが船長という)漁船もかなり大きい。全長は40メートルはあるだろうか。木造船で2本マストの帆船だ。きっと遠い海にまで行くのだろう。


(蒸気機関はまだ発明されてなく、船体も鉄板じゃないんだな…)



乗組員らしい男たちや、荷役をする男たちが忙しそう行ったり来たりして働いていた。

このあたりで仕事をしている男たちとはすでに見知り合いのようで


「お、ボウズ、お父さんに弁当を持ってきたか?」


「やあ、レオ、今日も元気そうだな。船長は甲板だよ」

とあいさつしたり、話しかけたりする。


「おはようございます。はい、父さんにお弁当を持って来ました」


「おはようございます。ありがとう」


親からは口やかましく“目上の人には礼儀正しく”と教え込まれているので、あいさつははっきりと明るい声でする。


(やはり、この世界でもオレの父親は船長なんだな...)



 タラップを上って船の甲板に出てみると、船室へのドアがあるところで口の周りもアゴもボウボウと黒いヒゲを生やした、がっしりした筋肉質の男-どうやらこの男がオレの父親ノマウロらしい-と、頭のとっぺんはすでツルツルに剥げて、両脇にだけ赤い髪が生えていて、腹がドーンとせり出している太って貫禄のいい男が何やら話していた。

 たぶん、この貫禄のいい男がマリ○ル、いや、イザベルの父親であり、網元で貿易商でもあるキャラなんだろう。



 レオが甲板に現れたのを見たヒゲ男


「お、レオ、ようやく来たか。弁当はもってきたんだろうな?」


(えーっと、イザベルのお父さんは何ていう名前だっけ…)


( ロナルド・マルティネス・ローズブレイドよ)

シーノが助け舟を出してくれる。


「ロナルドさん、おはようございます! 父さん、このとおり、ちゃんと持って来たよ!」


「おお、おはよう、レオ。いつも弁当運び役ご苦労さんだな」


「遅いじゃないか?待ちくたびれたぞ!もっと早く持っ来い!」


弁当包みを渡すとうれしそうにクンクンと匂いを嗅といで、

「今日もボニートサンドだな」と言ってニヤニヤした。



そしてさっさとフロシキ包みを開くと、素焼きの瓶を足元に置いて弁当箱のフタをとって中に入っていたボニートサンドを手づかみでとって早速頬張りはじめた。


「おほっ!これこれ!これを食わなきゃ漁に出るって感じがしねえんだ」

と口をボニートサンドでいっぱいにしながら言っている。


(息子には礼儀正しく、行儀よくなんてうるさく言っているけど、本人はいいかげんなものだな…)



少々批判的な目で見ていると、そんなオレの目つきに気がついたのか


「ほら、ボヤーッとしてないで、船の中に入って掃除でもやってこい!」と照れかくしのように言った。


「失礼します」とロナルドさんに言って船室に入ろうとすると、


「ああ。さっきイザベルが中に入って行ったから、見かけたら邪魔にならないように早く出てくるように言ってくれるかね?」とたのまれた。これもDK7の通りだ。


「はーい、了解です」



 船室に入り、下への狭い階段を降りる。

いわゆる第二甲板というところだ。乗組員の居住区もあり、テーブルがある食堂、調理室、それに3段ベッドがある休息室もある。食堂を通って調理室に入るとコック長も兼ねている水夫頭のヤンさんが忙しそうに食料が詰められた箱などを棚に入れていた。


「おっ、レオか。今回の漁はいつもより、少し北の方にまで足を伸ばすことになりそうだから、食料や水もいつもより多めだからたいへんだ」とボヤいていた。


「ヤンさん、忙しそうですね。ところでイザベルは見ませんでしたか?」


「ン? ロンさんのお嬢さん? ああ、お嬢さまか。さっき船倉の方に降りて行くのを見たけど… もう上甲板に出たかも知れないな」


「ありがとうございます。ロンさんが探してくれって言っていたんで降りて見てみますね」


「あいよ!」



 船倉のある第三甲板に降りてみる。

ここには釣ったボニートを入れておく魚倉があり、飲水を入れたタルや食料やそのほかの荷物などが置かれている。タルや荷物などはロープ製の網がかけられ床で固定されていて、船が波で揺れても荷物が船倉の中を転げ回ったりしないようにされている。


 船倉をずーっと前の方に歩いて行って、船首に近いところの荷物置き場に来た。

ここでも荷物-その多くは水やビールなどのタルのようだ-はやはり網で固定されているが、床の金具に結び付けられているはずの網の端のロープがなぜか結び付けられていなかった。


(ははん。ここだな)


ひょいとタルの上に登って見てみると、木箱と大きなタルの間に赤い髪が見える。

これもDK7の通りだ。



「イザベル!」


荷物の間にうずくまっていた者はビクッとする。


「シー!大きな声で話しかけないでよ。私がここにいるのがバレちゃうじゃないっ!」


すると、話し声が聞こえたのか、先ほどのコック長ヤンさんが近づいて来て


「レオ、誰かそこにいるのか?」と聞いた。


ヤンさんは食料か調理に使う水でもとりに船倉にやって来たのだろう。それに気がついたイザベルは観念したのか、


「あーあ…」と言って立ち上がった。


「ややっ、イザベルお嬢さま。またそんなところに隠れたりして!」


「今回もダメだったわね。密航は…」


「密航って、そんなことロンさん、いや、お父さんに知られたら私たちが怒られます」



ヤンの言葉には耳を貸さず、網を片手であげ、荷物の間から通路に出てきた少女-イザベル-はオレとはあまり変わらない年のようだ。

 背は160センチくらいだろうか。あまり明かりの入らない船倉でも、イザベルがかなりの美女だということがわかる。

 すらっとしたスタイルで、ボン・キュッ・ボンと出るところはちゃんと出ている。

ポニーテールの長い赤毛がきれいだ。


 瞳は青で目はちょっとキツそうな感じだが冷たくはない。目鼻立ちのととのった顔立ちとバランスのとれたスタイルを見ればかなり美女のだとわかる。

 ちょっと耳の先が細いような気がするが、十人十色というから彼女の特徴なのだろう。

ただでさえ美しい容姿にプラスにこそなれ、マイナス評価にはならない。


「レオ、何を私のことを初めて見るみたいにジロジロ見てるの!?」


(って、初めてなんですけど?)



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