第5話 寿命が100分の1になりました!?

「ならいいんですけど… あ、説明が遅れましたけど、その守護天使、もとい、シーノの専門はあくまでもデフェンスですからね!」


「えーっ、メラ○ーマとかの巨大火力魔法使えないのォ?」


「何を言っているのでですか?あなたが100倍能力持ちで、シーノまでがそんな超能力的な強力魔法使えたらDKXの世界なんで一週間でクリアしてしまうでしょう!?」


「それもそうだ…」


「その子は、あくまでもあなたが犬死しないための保険よ。」


(犬死…オレはワン公と同レベルってか)


「あ、言い方を間違えたわ。不本意な死に方をしないための保険ということよ」


(結構、さっき言った言葉を根に持っているみたいだな...)


「私はとても大らかな心をもっていますから、小さなことを根にもったりはしませんよ」


(そう弁明するあたりが… もう止めとこ)



気を取り直して、最後に聞いてみる。


「ところで創造主様、どうして、こんなにまでしてくれるのかな?」


「ふふふ。よくぞ聞いてくれました」


 そう言うと金髪の創造主は、長い金髪のためかくれていたモノを首から外した。

それは細い金の鎖に付けられた平べったく薄青いものだった。


 オレはどこかでそれを見たような気がした。前世の記憶をまさぐってみたが、いつ、どこで見たのかよく思い出せなかった。


(ひょっとして、元の世界でオレが娘に買ってあげたお土産だったかな?)


「どうやらわずか70年ほど前のことを思い出せないようね」


「?。」


「では、これでどうかしら?」



 見る間に金髪の創造主はどんどん小さくなり始めた。

着ている白いドレスはそれに合わせてサイズが縮小しているらしかったが、スリーブがロングからノースリーブに変化した。

 そして、ウエストあたりまである見事な金髪が短くなり、肩のところまでになった。その顔は少女の顔に変わっていた。


「お、お前はあの時の南アジアの国のはだしの女の子!」


「ようやく思い出せましたね」



 そうだ、あの夜、南アジアの国の街でお金を欲しがる子どもたちに囲まれ、僅かなお金を必死に守ろうとする自分の卑小さに気づいたのだ。

 そして、そのあとで8歳くらいの色の白い裸足の少女に出会い、ペンダントをねだられ、少女のあまりの可憐さに何も考えずにあげたのだった。


(そうだ、あのペンダントだ!)


金髪の創造主が手にもっている青みがかった平べったい楕円形の陶器製のペンダントは、誕生日に嫁さんがプレゼントしてくれたもので、あのクソ暑い南アジアの国を訪問した時に、はだしの女の子にねだられてあげたものだった。


 いつの間にか少女はもとの金髪の創造主、エタナールの姿にもどっていた。ドレスも元にもどっていた。


「私はあの時、あなたの中に”善意”というすばらしい心を見たのです。」


「...... あのクソ暑い、いや、メッチャ暑かったあの国で善意をもった人間を探していたってわけか...」


「いえいえ、そんな趣味はありませんわ。」


「え? じゃあ、なんでストリートチルドレンみたいな格好の女の子の姿をしていたんだい?」


「しいて言えば、“人間観察”でしょうか?」


「人間観察?」


「はい。極貧の住民が多いあの国のスラム街で、底辺の人間がどのようにして生きているかを観察していたのです。そこへひょっこりと東アジアの若い旅行者が迷い込んで来のです」


「それがオレだったというわけか...」


「ご明察!」


「それで、小銭とペンダントを子どもたちにあげたオレに善意を見た」


「はい。あなたはあの日以来、ずっと善意を忘れずにみんなのために尽くして来ました。それゆえ、私はご褒美をあげることを決めたのです」


「そうだったのか…」


「でも、あなたにあげるご褒美は当初、100倍能力とDKXの世界だけでした」


「じゃあ、シーノは…」


「そう。その子はエクストラアワード、特別賞です。あの日、あなたが唯一残っっていた”価値あるモノ”を私にくれたことに対するお礼なのです」


「お礼?」


「はい。今回、あなたのために創った世界=DKXはかなり特別なものとなるのですけど、永遠なる時間を生きてきた私にとっては“善意”の心をもつ高等知能生物はあなたが初めてではありません」


「それもそうだろうな」


「でも、過去に私が“善意”の心をもつ高等知能生物たちに、ご褒美としてあたえた“望み通りの世界”へ彼らを送り出すにあたって、誰一人として守護天使を付けた者はいません。」


「えっ、そうなの?」


「ええ。だから、いくら少々チート能力を付加してあげても、運が悪ければ新しい世界での目的を果たさずに死んでしまう者もいました。

いえ、訂正します。今まで一人として目的を果たすまで生き残った者はいなかった、と言うべきでしょう」


「楽勝世界じゃないんだ…」


「そんなのはゲームの世界だけです。

ゲームの世界ではエンドゲームになっても、セーブ時点でまた生き返り

プレイを続けることができますが、創造主である私が創る世界は

いくらゲームの世界に類似しているようでも、あくまでも現実の世界なのです。

この点をあなたも夢々忘れないでください。」


「わかった」


「その上で、今回は特別にシーノを付けたのですから、これは100京回に1回のチャンスだと思って目標達成までがんばってください」


「サンキュウ。がんばるよ」



言い終わらないうちに、目の前が白くかすみ始めた。


(ああ、これで本当にDKXでの新しい人生が始まるのだな…)


高揚しつつある心を感じながら頭の片隅で考えていると…


「あ、いろいろと説明などに長時間かかってしまって言い忘れましたけど、寿命の方も100分の1になりましたので、クリアはできるだけ急いで…」


(え――っ、何だってェ――――?)


思う間もなく暗転して、スーッとどこかへ落ちるような感覚に包まれて気が遠くなっていった。



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