第6話 転生した場所は、なぜかフィッシュベイ村だった
「レオォ… レオォ… 起きなさい!もう8時よ!」
どこからか女性の声が聞こえてくる。
(レオって誰だよ?)
そんなことを考えながら、なおも寝続けていると、誰かオレの髪を後ろから引っ張るヤツがいる。
それも何だか、まるでコオロギかバッタが足で髪の毛を挟んで引っ張っているような感じだ。
(って、コオロギにもバッタにも知り合いはいないし、髪の毛を引っ張られたこともないんだけどな…)
寝ぼけ半分の頭でウツラウツラと考えながらも、眠くてしかたがないのでそのまま寝続けていると、さらに引っ張られる。それも数秒ごとに位置を変えて。
(こりゃ本当にコオロギかバッタかも?)
目を瞑ったまま ―眠ったふりを続けながら― 自然な形で静かに右手を毛布から出して、チャンスを狙う。
どうやらこの虫は同じところで2、3回髪を引っ張ると、すぐ別のところに行ってまた同じように2、3回引っ張るらしい。
じゃあ、チャンスは1回目に引っぱった時だ。
虫は右耳の近くの髪を引っ張ったあと、すぐに後頭部の髪の毛を引っ張った。
「バシっ!」
俊足で後頭部をたたいた。
しかし、その昆虫は予想以上に反射神経が速かった。
2回目に後頭部の髪を引っ張るのを感じた時、再トライで思いっきり後頭部を叩いたが空振りだった。
「イテっ!」
思わず声が出た。
その声を聞きつけたのか、少々イラついたような女性の大きな声が聞こえた。
「レオ、起きているのなら早く降りて来なさい!」
(れ… レオってオレのコト???)
(そうなのです、マスター!)
「誰だ!」思わず大きな声が出た。
(心で思ったことに答えるなんて、どんなテレパシー能力者だ!)
(私とマスターの仲ですもの、そんなのトーゼン!)
今度こそガバっとベッドから起きた。
完全に目が冷めた目でよく見ると、なんだかホタルのような昆虫がベッドの上を飛んでいる。ただ、光はホタルの緑っぽい光ではなく、金色の光だ。
(私は昆虫でもホタルでもありませんよ)
(ゲッ、この金色ホタル、テレパシーができる!)
突然、金色ホタルは空中停止すると、次の瞬間、マッハの超音速でオレの鼻の真ん中に突撃した。
「ギャ――――っ!」
ドン!
ベッドから転げ落ちた。
「イテテ…」
落ちた痛みでさらにうめき声が口から漏れる。
金色ホタルはと見ると、窓の横にある洋服ダンスの上に止まってこちらを見ているようだが、心なしか金色の輝きの中から細かい放電が起きているみたいだ。
(マスターたら、私の名付け親なのに、私の名前を忘れるなんて!プンプン!)
「って、金色ホタルさん、あんた誰だよ?」
(私はシーノ!金色ホタルなんかじゃないわ。マスターの守護天使よ!)
シーノ... 志乃...
「あ、思い出した!」
(記憶を思い出す能力は100倍じゃないみたい…)
グヌヌヌ…
何とも言い返しようもない。
しかたない。ここは素直に謝っておこう。守護天使に腹を立てられて、いざという時に守ってもらえないのは不味い。
「ごめん、シーナちゃん。オレがド忘れしていた」
(思い出してくれればいいのよ、マスター)
人がいいのか、いや天使がいいのか、根に持たないらしい。
「レオーっ!起きているのなら早く顔を洗って父さんにお弁当をもって行ってあげて!」
「はーい。今降ります」
母親と思われる階下の女性に大きな声で答えて、ワンピースのような寝巻スリーパーを脱ぐと、首にあの青いペンダントが下がっているのに気がついた。
(あれっ、エタナールさん、これをオレにもどしてくれたのか…)
階下の母親がオレが一人でしゃべっているのを聞いておかしいと思わないように念話にチェンジする。
(あ、それは大事な使い道があるのよ、マスター)
(大事な使い道?まさか護身符とか?)
(あなたの護身符兼お守り役は私です!)
守護天使はキッパリと言った。
(そうだね。たしかにその役目はシーノの担当だ。じゃあ、これは何のため?)
(これは、私にエネルギーを補給してくれるの)
(えっ、じゃあエネルギー供給機?)
守護天使のための電源コンセントみたいなものか?
(そうじゃなくて、私が休息したり、MP、つまり魔力を補給できるところなの)
(そうか。どういう仕組か知らないけど、じゃあ大切なものなんだね。たとえれば、人間にとっての家みたいなものか…)
(そう思ってくれた方が理解しやすいようね)
(了解!ためしにシーノ、これに入って見せて)
(うん。いいわ)
シーノはすーっと金色の光を輝かせながらオレの胸に下がっている薄青色の陶器のペンダントに音も立てずに吸い込まれるように入ってしまった。
あまりにも簡単に、そしてペンダントに吸い込まれるような入り方に驚いて声もなく立ち尽くしているレオ。
(マスター。やはりこの中は快適だし安心してくつろげるわ)
(そりゃよかったな)
見ると、ペンダントの真ん中の穴が開いていたところが、まるで金でも埋め込んだようにゴールド色になって塞がってしまっている。さらによく見ると、そのゴールド色の部分はかすかにだが輝きに強弱があるように感じる。
(もう出てきてもいいよ)
(はーい、マスター!)
入った時と逆に、今度はペンダントから金色の輝く光がすーっとやはり音もなく飛び出し、オレの前でホバリングするように小きざみに震えながら空中でとまっていた。
(ペンダントの中は気持ちよかった?)
(はい、マスター。とても!)
(これからも、少し疲れたときなんかは遠慮せずに入って休んでいいよ)
(ふつうの状態ではそれほど疲れないし、魔力も減らないのでだいじょうぶです)
(ああ、そうなのか?)
(戦闘中とかはやはり減るけど…それに夜、マスターが休む時にいっしょに休むから問題ないわ)
(それはどちらにとっても都合がいいな)
シーノと話しをしながら、部屋のイスにかけてあった粗いウール製らしい服を着ながらシーノと念話を続ける。
部屋をよく見ると、ここはどうやら屋根裏部屋のようだ。壁は板が張ってあり、明り取り用のあまり大きくない窓からは外から光が入っている。
(えーっと、状況がまだよくわからないんだけど、オレの名前はレオってことだな?)
(ただしくはレオン・オーコットよ。年齢は16歳。
お父さんの名前はマウロ・オーコット、お母さんはサラ・オーコット。
ここはレイナード王国の交易港であり漁業港でもあるフィッシュベイ村)
(オレは16歳? 新しい世界では赤ん坊からスタートするんじゃなかったの?)
(マスター…)
(ン?)
(別れ際の言葉だったからよくおぼえてないかも知れないけど、エタナール様が最後に言った言葉おぼえている?)
(えーっと、何を言ったんだっけ?)
([エタナールの声を真似て]“あ、いろいろと説明などで長時間かかってしまって言い忘れましたけど、寿命の方も100分の1になりましたので、クリアはできるだけ急いで…”と言ったんですよ?)
レオは顔面蒼白となった。
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