第4話 学校
俺の家系には妹の他に両親がいるのだが、父さんが会社の都合で長期出張中ということもあって、母さんはそれについていっているという状況である。
そのため、家にはいつも俺と愛香の二人っきり。毎日いつ時も身の危険を感じているわけで、
「お兄ちゃ〜ん♪」
「ああ! 鬱陶しい!」
朝食時。キッチンのトースターでこんがりと焼いた食パンにバターを塗りたくる。
隣には愛香がいて、仕切りなしに俺にくっついていた。
これが俺たちの日常……。四六時中、離れようとしない妹……。
「てか、なんでまた俺のシャツ着てんだよ!?」
「昨日、全部服捨てちゃったから」
「嘘つけ! って、まさか……!?」
愛香の今の姿は彼シャツのようになっている。
俺は下の方に視線を落とし、一気にシャツをめくりあげる。
「きゃっ♡」
俺の予想が見事的中した。愛香が履いていたパンツは紛れもなく、俺のもの。ボクサーパンツを我が物顔で躊躇なく履くとは……ブラコン界枠でも末期なのではないだろうか?
「なんで俺のパンツまで……」
愛香の行動にはもはや呆れすら通り越して、何も言葉が出ない。
例え、何か出てきたとしてもこの重度のブラコンには何も効かないだろう。
「とりあえず……自分のを履き替えてこい」
「嫌よ。それにさっきも言ったでしょ? 全部捨てたって」
「……」
昔の愛香が恋しい。
なんでここまで捻くれたやつに育ってしまったのだろうか? やはり俺という存在がそうさせてしまったのか……ともかくとしてせっかくの美少女が残念すぎる。
この性格さえなくなれば、誰にでも自慢できるような高スペックな妹になっていたと思うんだけどなぁ。非常に勿体ない。
パンツの件に関しては、正直嫌だが、だからと言って無理やり脱がせるわけにもいかない。
こういう時の対処法ってなんかないんですかね?
と、誰かに聞きたいところだが知っている人なんていないだろうな。
☆
「本当、気が休まるのはここだけだよ……」
一限目が始まる前の休み時間。俺は机の上に突っ伏していた。
学校が安らぎの場所だなんて他の人からしてみれば、理解ができないだろう。普通の家系で暮らしている人であれば、自宅が当たり前だ。
「いやいや、あんなに可愛い妹さんなのに……。ブラコンくらい多めに見てあげればいいじゃん。羨ましいし」
俺の隣の席にいる親友が理解し難いような表情を浮かべる。
徳留結菜……セミロングでさらさらとした髪に中性的なルックス。成績は学年上位にランクインするほど頭がよく、性格も温厚で優しい。よって、一部の女子生徒の間ではファンクラブができているとかでかなりモテている。
俺からしてみれば、結菜の方が羨ましい限りなんですけどねっ!
だが、結菜がこう言うのも仕方がない。愛香の本性を知っているのは俺だけであって、学校ではただのお兄ちゃんが好きな妹で通ってしまっている。俺がいくらヤンデレ属性を持ち合わせているということを口にしても誰も面白半分に聞き流されて信じない。それだけ愛香に対する信頼性は高いということだ。
「もういっそのこと付き合ったら? そうした方が楽じゃない?」
「いや〜でもなぁ〜」
「率直に聞くけど、好きか嫌いかで言えばどっちなの?」
「それはまぁ……嫌い、ではない」
かと言って、好きなのかと問われると、首を傾げたくなってしまう。俺は愛香のことを本当はどう思っているのか、ときどき自分でもわからなくなってしまう時がある。今朝だって、俺のベッドに潜り込んでいた時は驚きはしたものの、やはり“妹”という概念の一線があるせいか欲情するほどまでにはいかなかった。別に妹だからこれが普通の反応ではあるにしても周りから見れば、少しおかしいのだろうか? 愛香が実妹ではなく義妹であるからこそ、そこのところの感覚というものがいまだにわからない。もう十四年も一緒に暮らしてきているというのに……。
「けど、愛香には俺よりももっといい人がいると思うからさ。兄としてはその部分を見極めたいっていうところだな」
「そっか。まぁ今後付き合うのかどうかに関しては二人の問題だから、これ以上はとやかく言うつもりはないけど、最後にこれだけは伝えるよ。裕太、お兄ちゃんならちゃんと愛香ちゃんと向き合ってほしい。もし付き合えない理由が妹だからとかそんなことだったらボク、裕太と絶交するから。いいね?」
「絶交までしなくても……まぁ、気遣ってくれてありがとな。とりあえずわかった」
と、ちょうど会話が途切れた時に一限目が始まるチャイムが鳴り響く。
――ちゃんと向き合う、か……。
今朝もそうだったが、俺は愛香に対して、どこか逃げ腰な部分があった。だから愛香のヤンデレが日々悪化してきているのかもしれない。
一度話し合ってみるか……。
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