第2話 根暗な女子生徒……
遠くから吹奏楽部の演奏を耳にしつつ、ガラガラと音を立てながら引き戸を開ける。
室内はカーテンが固く閉ざされているせいか、薄暗く、少し不気味にすら感じてしまった。
とりあえず教壇の方へと腰掛け、ひと息つく。
――これで少しは冷静に戻ってくれればいいんだけどなぁ……。
ヤンデレ状態の愛香は正直、手がつけられない。先ほどから言っているように身の危険を感じてしまうほどに……。
一体いつからあんな感じになってしまったのか……俺の記憶上では小さい頃からやたらとお兄ちゃんっ子だったんだよなぁ。何かあるたびに母さんや父さんじゃなくて俺ばかりに頼ってきてたし……。まぁあの頃は、俺も可愛いと本気に思ってて逆に頼られて嬉しかったというのもあるんだけどさ。
俺は何気に隣の方へ視線を向ける。
「……ッ?!」
すると、薄暗さで気がつかなかったが、一人の女子生徒が俺と同じように座り込んでいた。
俺はその様子に一瞬心臓が跳ね上がりつつも、なんとか冷静さを保つ。
――幽霊……じゃないよな?
見た目は黒髪のロングに愛香と似たような華奢な体つきをしている。
ずっと俯いたままなのか、顔は暗くてよく見えず、俺のことを気にしている素振りすら見せない。
この特別棟は建てられてまだ五年くらいしか経っていない真新しいものなのだが、その昔に火事があって生徒が数名焼死したという噂を耳にしたことがある。単なるよくある学校の怪談話なのだろうと思っていたのだが……まさか、な?
どちらにせよ、このままずっと一緒にいるのもなんだか気まずい。
俺はそっと多目的室から出ようと思った矢先、その女子生徒から話しかけられた。
「ねぇ……」
背筋が凍るような冷たい声音が微かに響く。
「え……あ……」
俺はなんと答えればいいのかわからず、言葉が詰まってしまった。
――や、やばい、かも……。
どことなく寒気を感じながらも、俺は半分腰が抜けたようにその場から動けない。
女子生徒はそんな俺のことをお構いなしに次の言葉を口にする。
「あなた……妹がいるんだよね?」
「…………え?」
唐突な疑問符に別の意味で頭の中が真っ白になる。
――なんで俺に妹がいることを知ってるんだ……?
クラスメイトなのだろうかと一瞬思ったりもしたが、俺のクラスにここまで暗いやつはいなかったはず。
やはり霊的なモノなのか……?
だが、仮にそうだとしてもなぜ愛香のことを持ち出してきたのだろうか。そこがわからない。
「……あなたは妹のことをどう思ってるの?」
「ど、どうと言うのは……?」
「率直に好きか、嫌いか」
この人は本当に俺から何を聞きたいんだ……? そんな疑問が募りつつも、とりあえず質問の答えを口にする。
「嫌い……ではないですね。ブラコンはともかくとして、ヤンデレな部分さえなければ、自信を持って“好き”と言えるんだけど……」
「……その“好き”は恋愛的な意味で?」
「恋愛……うーん。ここだけの話、妹とは血が繋がってないんだよね。妹はそのことをたぶん知らないと思うけど。俺としては恋愛感情は……持てない、かな」
やっぱり俺の中では愛香=妹だから、恋愛的な感情よりも家族的な感情の方が強い。
それに妹に対して、恋愛感情を持つなんて普通に考えたらキモくないか? 義理とはいえ、少し抵抗感というものがあるのは事実だ。
「そうですか……。それじゃあ、最後にこれから先も妹があなたのことだけしか愛せなかった場合、あなたはどうしますか?」
女子生徒は俺の方とは反対方向に首を背ける。
――そういや、考えたこともなかったな……。
愛香がこの先ずっと俺のことしか愛せなく、他の男に恋をしなかったら……なんて。
そうなってしまえば、愛香はずっと独り身になってしまう可能性が高いし、どちらにせよ俺自身も誰かと添い遂げることができるかどうかすら怪しい(主に愛香の邪魔によって)。
どうすることが一番なのか……いや、そんなことは考えなくてもわかっている。美少女と一緒になれるなんて普通にいいじゃないか。なら……
「……その時は俺が一生面倒を見てやる」
もし、そうなってしまった場合は俺も覚悟を決めなくてはいけない。なにせ女子の方から猛烈な好意を寄せられているんだからな。それが例え、妹だろうが変わりない。
俺の返答を聞いた女子生徒はその場から立ち上がると、背中を向けたまま不敵な笑みを浮かべ始める。
「ふふ……ふふふ」
いきなりの奇妙な言動に警戒心が高まっていく。
それと同時に体が縫い付けられたかのように動けなくなってしまった。胸の奥がゾワゾワとして気持ち悪いくらいに嫌な予感がする……。
「そうですかそうですかそうですかそうですかそうですかそうですかそうですかそうですかそうですかそうですかそうですかそうですかそうですかそうですかそうですかそうですかそうですかそうですかそうですかそうですかそうですかそうですかそうですかそうですかっ!」
“――お兄ちゃん……ふふふ”
その瞬間、女子生徒の髪が床へと落ち、見慣れた金髪ツインテールが覗かせる。
俺は何が起こっているのか、頭が混乱状態に陥り、言葉を発することすらできない。
一方で目の前にいる女子生徒はゆっくりと振り返り……
“――お兄ちゃん……だーいすき♡”
「――ッ?!」
我が妹の顔が目に映り込んだ瞬間、声にもならない悲鳴とともに俺の視界は揺めき、暗闇の中へと堕ちて行った。
“――これからもずぅーっと一緒だよ? ふふふ……♡”
【あとがき】
ちょっとしたホラーかな???
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