6 刑事・大橋久良人

空き家は祝旅館のすぐ南隣10m位の所にあった。

マナミさんが言っていたように、その気になれば簡易テントで物理的につなげられるかも知れない。


鍵を開けて電気を付けると、マナミさんが用意してくれていたのだろう。

簡単な生活用具が置かれていた。


二階建ての家だ。

僕は一通り見学してみた。


清掃は余り行き届いてはいないが、元々空き家であったことを考えれば従業員の寝泊りには十分綺麗だ。


居間にはソファーやテーブル。

その他一階二階の部屋にも物が結構置かれていた。


書斎らしき部屋には本棚や本、机。


寝室らしき部屋には古いベッドもある。

初めはお客さんに提供するために用意したベッドかな?と思ったが結構古くてボロい。

元々あった物の様だ。


そのほかの部屋も、化粧台が置かれた女性部屋。

学習机、玩具やぬいぐるみが置かれた子供部屋。


妙に生活感のある空き家だと思った。


引っ越しする際に元の住人が、物をそのまま置いていったのだろうか?


そんな事を考えていると家の呼び鈴が鳴った。


マナミさんか弥栄さんが何か忘れていた用件を言いに来たのだろうか?


僕は家のドアを開けた。


・・・ドアの外には見知らぬ男性がいた。

ワイシャツにネクタイ。一見サラリーマン風の恰好をしている。

白髪交じりの髪に、そこそこ太った体格。

暑そうに扇子を振っていた。


「どうも、こんばんわ。ちょっと良いですかあ~」

その男性は僕の返事も聞かずに勝手に土足のまま空き家に入っていく。


この人は誰だ?

しばらく男性は家の中を見て回っていたが、一通り見終えると改めて僕のことを見る。


「ここは空き家だと聞いていたんですがねえ。明かりが付いていた物だから、立ち寄らせて頂きました。・・・ところで、あなたはどなたです?」


その男性は僕のことを訝しむ様な目つきで眺める。


「ぼ、僕は隣の祝旅館でこの夏の間だけ臨時で働かさせて頂くことになった、アルバイトの本間鐘樹と申します」


「何かそれを証明できる身分証はお持ちですか?」


僕は運転免許はまだ持ってない。

取り合えず、財布に入れていた学生証をその男性に提示して見せた。


男性の目つきが少しだけ険しくなる。

メモ帳を取り出して何かを書いている様だ。

僕の名前を書いているのか・・・?


「本間鐘樹さん・・・、ですか。しかし、祝旅館のアルバイトの方がどうしてこの空き家に?」


「ここを寝泊りのスペースにしていただける事になっているんです」


「しかしこの家の所有者は中川五兵衛さんでしょう?」


「いえ、マナミさんが五兵衛さんの許可は取ってくれています。あの、失礼ですがあなたは土屋冬馬さんでしょうか?」


僕は聞いてみた。

冬馬さんは寡黙だとマナミさんは言っていた。

この男性は口数割と多いし、ちょっと思っていたイメージとは違うが、年齢的にも60歳前後に見えるし、消去法で考えるとそれ以外思い浮かばない。


男性は少しキョトンとした表情を浮かべた後、笑い出した。


「なっはっは!これはとんだ失礼をいたしました。これじゃあ私の方が逆に不審者ですな。

私は【佐戸西警察署】刑事課の、大橋と言います。巡回中に空き家のはずの家から明かりが付いていたものでおじゃました次第です」


その男性・・・大橋さんは僕に警察手帳を見せると、名刺を僕に渡す。


佐戸西警察署。

刑事課。

【大橋 久良人 (おおはし くらと)】。


名刺にはそう書かれていた。


「警察の方だったんですか。けど何故刑事の方が寒戸関村に?」


確かに普通警察と言えば制服を着ているイメージだが、刑事は普段私服で行動していると聞いたことがある。

大橋さんはワイシャツとネクタイ。

確かに刑事風の恰好だ。

それにここに来た時のやり取りも何だか取り調べを受けてる様な気分だった。

けれど何故刑事さんが寒戸関村に?

普通巡回等は駐在所か交番のお巡りさんがやるものじゃ無いのか?


「こう言う田舎では肩書なんて曖昧な物なのですよ。今度の日曜日、7月23日にこの集落でお祭りが開かれるでしょう?その警備の下見に来ていたんですよ。そうしたら空き家のはずの家から明かりが漏れている。もしかしたら泥棒の可能性だってあるでしょう?なので、失礼ながら土足で入り込ませて頂きました」


そう言って大橋さんは靴を脱いで玄関に置く。


お祭り・・・。そう言えばマナミさんはその様なことも言っていた。

石田集落、寒戸関集落、願河原集落合同で、寒戸関小中学校を中心に開かれるお祭りらしい。

マナミさんは町役所や合川図書館、両津港や合川高校等などあちこちにポスターを貼って宣伝しているとも言って意気込んでいた。

去年はお祭りが土曜日だったので旅館が満室になったと自慢していた。

けど、今年は開催日が日曜なので、まだ満室まではいっていないと悔しがっていた。


「いやー。今日は夜になっても蒸し暑いですねえ。よっこらせっと」


大橋さんは居間のソファーに腰をかけてくつろいでいる。


・・・ん?

何でこの人ここに居座ってるの?

泥棒の疑いが晴れたなら帰ってくれないかな・・・。

僕も流石に今日一日で疲れたし。


「本間さん。あなた私の事、土屋冬馬さんかとお聞きになりましたね?まだ寒戸関の住人全員とは面識が無いのですか?」


「はい。昨日来たばかりなんです」


「ほう。ところで本間さんのご住所はどちらです?泊まり込みのアルバイトと言うことは余り近くに住んではいらっしゃらないのでしょう。先ほど見せていただいた学生証も東京の大学・・・確か祝真名美さんと同じ大学の物でしたよね?」


「あ、はい。東京のアパートに住んでいます。マナミさんと同じ大学というのも合ってます」


「ではこのアルバイトは祝真名美さんの紹介で?」


「はい」


「例えば・・・学生掲示板のポスターに求人広告があって、それで応募されたのですか?」


「いえ、そういう訳では有りません。マナミさんの方から直接この話を頂きました」


「なら学科は真名美さんと同じ経営学科ですか?」


「え?いえ違います。僕は歴史学科でマナミさんは経営学科です」


「なるほど、ではサークルか何かのお知り合いで?」


「いえ、同じ大学でしたけど知り合ったのは今年のゴールデンウィーク明けにマナミさんが僕の住んでいるアパートに引っ越してきて知り合いになったんです。大学ではそれまでお互い面識がありませんでした」


「ほう。では、真名美さんがあなたのアパートに引っ越しした理由は聞いてます?」


「え?前のアパートの家賃が高いからだと聞いてますけど?」


「それだけですか?他に何も理由はおっしゃって無いのですか?」


「いえ、他に理由は聞いてないし無いと思います」


何なんだ一体?


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1.僕はふと既視感の様な物を覚えた。(現在製作中)


2.・・・もしかして僕まだ疑われている?


→「2」を選択。

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・・・もしかして僕まだ疑われてる?

なら直接すぐ隣の祝旅館の弥栄さんかマナミさんに尋ねれば良いのに・・・。


「失礼。もう一度だけ先ほどの学生証を見せていただけますか?」


僕はもう一度大橋さんに学生証を見せた。


大橋さんは先ほどのメモ帳に何か追加情報を記入している様だ。


「結構。ご協力ありがとうございました」


「あの・・・。僕をお疑いなら祝旅館の弥栄さんか、マナミさんに直接聞いていただいた方が早いと思うのですが」


「なっはっは!失礼。別に本間さんを疑っている訳では無いのですよ。ただこの寒戸関はちょうど駐在所と駐在所の間の、一番遠くにある集落ですからねえ。それに人口も少ないでしょう?警察は治安維持の為に出来るだけ多くの地元地域の情報を知っておくと何かと便利なのですよ」


「治安維持・・・ですか。けど寒戸関村は人が少ないからって治安が特別悪いという訳では無いですよね?」


「本間さん・・・あなた寒戸関に対してどのような印象をお持ちです?」


いや、昨日今日来たばかりでそんなに分からないんだけど。


「僕は昨日きたばかりなので実際あまり村の事はよく分かりませんけど、人口は少ないながらも皆仲良くしているとマナミさんは言っていました。僕も冬馬さん以外の方々とはご挨拶をさせていただきましたが、皆良い人だと思います」


正確に言えば癖が強いけど良い人たち、だけど。

僕は率直にそう答えた。


「なるほど。それが本間さんの見解ですか。確かに寒戸関の人々は絆が深いようですねえ。10年以上前、今より沢山の住人の方々が住んでらっしゃた頃より、固い絆で結ばれていると私も思いますよ」


大橋さんが何か含みを持たせる様な言い方をする。


「昔寒戸関村に住んでた方達は過疎化の影響か何かで引っ越していったのですか?」


僕は大橋さんに聞いてみた。


「引っ越されていった方もいらっしゃいます。けどね、本間さん。ここ、寒戸関では昔いた住民の多くは、・・・


僕は絶句した。

謎の死?

一体何を言っているんだこの人は・・・。


「少しお話しましょうか。もしかしたら、あなたも知っておいた方が良い情報かもしれません」


大橋刑事は真剣な表情で僕に言った。

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