6 フリーライター
「あの二人何か作戦立ててるみたいやな」
「そ・・・そうですね」
北さんと二人っきりになってしまった。
何だか気まずいな・・・。
えーと、何を話せば良いんだろう。
「あの・・・北さんは関西ご出身ですか?」
話し方が関西弁だったので聞いてみた。
「へへへ、本間。お前にはこれが関西弁に聞こえるんか?」
?
どういうことだ?
「俺の話してるのはな、テキトーな似非関西弁や。多分ホンマもんの関西人が聞いたら怒り出すレベルちゃうかな?」
「え?そうなんですか?」
「理屈はよー分からんのやけど、初対面の人間と打ち解けるのはこの喋り方の方がしっくりくるんや。だから使わせてもらってる。それだけの話や」
そうだったのか・・・。
あ、北さんのグラスが空になってる。
「北さん。ビール注がせていただきます」
「あ?ああ。サンキューな。お、本間のグラスも空になってるで。ホレホレ」
僕たちは互いにビールを注ぎあった。
「ところで本間。俺は聞き逃さなかったで。最初マナミちゃんが本間の事”カネちゃん”って呼んでたやろ」
「え・・・。あ、そうですね」
「えーと、お前の名字”ほんま”って言うんやったな。フルネームは?どんな漢字で書くん?」
北さんはメモ帳から紙を一枚破ってボールペンと共に僕に渡す。
僕は”本間鐘樹”と書いて北さんに返した。
「なるほど。下の名前であだ名を付けられたんやな。けどあだ名で呼ばれてるってことはマナミちゃんと本間は親しい間柄なん?」
北さんは鋭い。
確かに初めにマナミさんはそう言っていた気がするがそこからもう気が付いていたのか。
「あの・・・。僕とマナミさんは同じ大学で、たまたまアパートが隣同士の部屋なんです。その縁で今回のバイトの話をいただいた次第でして・・・」
今日何度目か分からないが僕はマナミさんとの関係を説明した。
「男女の仲なん?」
「いえ。違います。あくまでお友達です」
もうこのやり取りには慣れてしまったせいか、僕は返答が手慣れてきた様に感じた。
「なるほどな。ところでそのアパート、大学1年の時から一緒なん?」
「あ、いえ違います。僕は大学1年の時からそのアパートに住んでたんですが、マナミさんは今年の5月・・・ゴールデンウィーク明けぐらいに他のアパートから引っ越してきたんです」
「・・・引っ越してきた理由は聞いとるか?」
「前に住んでたアパートが家賃高かったから、僕のいたアパートに引っ越してきたと聞いてます」
「大学ではマナミちゃんと元々知り合いやったんか?」
「いえ、大学内で多分何度かすれ違った事くらいはあると思いますけどそれまでは面識はありませんでした。そもそも僕は歴史学科専攻でマナミさんは経営学科専攻ですから」
「5月中旬から7月中旬か・・・約二か月やな」
「え?・・・何がです?」
「お前が住んでるアパートにマナミちゃんが引っ越して来てから今現在までの期間や」
「そ、そうなりますね」
「マナミちゃんが引っ越して来てからお前とマナミちゃんどっちが先に声を掛けて、単なる隣人から友達になったんや?」
立て続けに北さんが不可解な質問をぶつけてくる。
初めは世間話程度だったが・・・北さんの表情が段々と真剣になっていくのが分かった。
いつの間にかメモ帳を取り出して何かを書いている。
顎に手を当てて何かを考察している様だ。
チラッとメモ帳をのぞき見したが、そこにはビッシリと文字が書かれていた。
いや、文字だけで無く、何かの相関図やグラフの様なもの、地図の様なものまで書いてあるみたいだ。
僕の発言そのものをメモしたと言うよりは、あらかじめ書き溜められていた資料に必要な情報を付け足している様にも見える。
「先に声を掛けたのはマナミさんです。”あれ、君同じ大学だよね?”って感じで・・・」
「そうか・・・。なら、マナミちゃんがお前に声を掛けたのは何月何日ごろ・・・」
「北さん。そろそろ質問の趣旨を教えてもらっても良いですか?」
僕はここまで細かい情報が北さんにとって何の意味があるものなのかさっぱり分からなかった。
お酒を飲んでいた事も関係あるかも知れないが、僕は単刀直入に北さんに質問を質問で返した。
「あ・・・。そうやな。スマンスマン。別に大した意味は無いんや。単なる職業病みたいなもんや。悪かったな。プライベートなこと根掘り葉掘り聞いてもーて」
真剣な表情だった北さんは元の飄々とした表情に戻っていた。
「俺な。フリーライターの仕事してんねん。それでな、ちょっとでも気になった話は詳しく聞いてしまう癖があるねん。気ぃ付けるわ」
そう言えばマナミさんも北さんはフリーライターの仕事をしていると言っていた。
なるほど。そういう仕事をしている人はちょっとした情報に対しても敏感に興味を持ってしまうのかも知れない。
「そうだったんですか・・・。ところで、北さんはどのような内容の事を書かれていらっしゃるんですか?」
「色々や。前は政治家や芸能人のスキャンダルをつかんで雑誌社やスポーツ新聞社に記事を持ち込んでた事もあったんやけど、ちょいとやり過ぎて各方面から圧力がかかってな。そっち方面の活動は自粛中や。今はな、心霊現象なんかの一般受けしそうなオカルト記事を書いとるで」
「オカルト記事ですか・・・。北さんはそう言った超常現象を信じてらっしゃるんですか?」
「うーん、実際存在するかどうかは俺にも分からんな。実際に見たこともあらへんし。ただよくTVや雑誌で超常現象特集なんかやっとるやろ?」
「そうですね。TVで特番良くやってますよね」
「ああいう特番を見て本間は真に受けるタイプか?」
「子供の頃は信じてましたけど、今は信じるかどうかは半々って所ですね」
「なるほど。恐らく大半の人間は本間と同じ感想やと思う。けど俺みたいな超常現象を扱うネタ元作成者からすると、ああいう番組や雑誌の記事を見ると思わず笑ってしまうんや」
「どうしてですか?」
「だってお前、無理がありすぎるやろ。心霊写真のあからさまな捏造写真や、適当なイメージの宇宙人の映像を派手な効果音でドーンとアップした時何かは大爆笑してまうわ」
「え?心霊写真ってやっぱり捏造なんですか?」
「全てが捏造とは言わんけどな。簡単な心霊写真くらいなら俺も作れるで。まあやり方は企業秘密やけど。まあ俺もそれを元に記事を提供している身やから人の事言えんけどな」
北さんは続ける。
「けどな、最近はオカルトブームも一時期ほどの勢いは無くなってきた感じやな。一般人の眼も肥えてきて、あんまりにも適当すぎる記事作っても雑誌で取り扱ってくれへんようになってきたな」
「そうなんですか」
「そこで必要になってくるのは説得力や。ただ単に心霊写真作って”これは未練を残して亡くなった人間の幽霊です”って紹介しただけじゃ読者の反応も薄いねん。
ただ、過去に凄惨な出来事があった”曰く付きの場所”で解説を挟みながら記事を書いて紹介すると読者も興味深く読んでくれるんや」
「北さんは佐戸で”曰く付きの場所”を訪ねて記事を書いてらっしゃるんですか?」
「せやな。・・・ところで本間、この佐戸ヶ島には幾つくらい”曰く付き”があると思う」
僕は考え込んだ。
事前に佐戸に来る前に読んだ本で得た歴史的な知識や、マナミさんと今日一日過ごした中でも幾つか心霊スポットになりえそうな場所はありえそうな場所はあったと思う。
「四つか五つ位でしょうか?」
北さんは少し感心した様に言う。
「へえ。良い線行っとるな。それは当てずっぽうか?」
「数は当てずっぽうですけど・・・。例えば佐戸ヶ島は中世までは流刑地でしたし、江戸時代以降相川の佐戸金山は劣悪な環境下で働かされた人夫は短命で事故死も多かったと聞いてます。また江戸時代初期にはキリシタンの大量虐殺があったとか・・・」
「そうやな、今本間が言ったネタは俺も記事にして雑誌でも取り上げてもろた事あるで。けどお前結構色々知っとるな。もしかしたら俺の知らんネタもあるかも知れへん。他にも何か知っとる話はあるん?」
「そうですね・・・」
僕は考える。
他にも何か心霊スポットになりそうな話題は・・・。
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1.「島の北側には石を積み重ねたお墓のような物が多いと聞きました。あれは賽の河原ですよね?」
僕は誰かが積み重ねた石の事を思い出しながら言った。
2.「曰く付きかどうかは知らないですが・・・。海部大橋って凄い高さですよね。転落事故とか無かったんでしょうか?」
一応手すりはあったが、落っこちたらまず助からなそうな橋を思い出しながら聞いてみた。
3.「寒戸関村と石田集落、願河原集落には女の子の幽霊が出るってマナミさんが言ってました」
マナミさんは冗談と言っていたが・・・本当の所はどうなんだろうか?(現在選択不可)
※選択肢「1」と「2」はどちらを選んでも話の展開は変わりません。
※選択肢「3」は現在選択不可能です。いくつかのエンディングを見る、あるいは話をある段階まで読み進める等により選択肢が解放されます。この選択肢を選ぶ事で、場合によっては話の展開が大きく変わる可能性があります。
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→1を回答した場合
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「島の北側には石を積み重ねたお墓のような物が多いと聞きました。あれは賽の河原ですよね?」
僕は誰かが積み重ねた石の事を思い出しながら言った。
「ああ、あれな。お前は島の最北端の賽の河原には行ったことあるか?」
「いえ、まだ行ったことはありません」
「あそこには海食洞穴があってな。その中には積み重ねられた石の他にお地蔵様や、
風車、子供の玩具や人形が沢山置いてあるんや。長年雨風にさらされた人形の中には涙を流してるように見える人形もあってな。心霊写真とはちがうけど、それを写真で取って記事書いて紹介したら結構評判あったで」
「そうなんですか。今度僕も見学に行ってみたいと思います。所で寒戸関村の北端の所にも石が積み重ねられた物があるのを見ました。あれは誰が積み重ねたんでしょうね?」
「子供を無くした親御さんが供養のために積んだんやろ。実際、賽の河原には玩具や人形のお供え物があるし」
「けれど、寒戸関村から島の最北端まではそれなりに距離がありますよね?どうしてここにもあるんでしょうか?」
寒戸関村は限りなく島の北側に近い北西に位置している。北北西とでもいう位置だ。
けれども最北端という訳でもない。
「うーん、そーやな。俺が思うに島の最北端の賽の河原はもう置ききれない位に石が積まれとるからなあ。取り合えず地理的に近い場所に置いていってる内に寒戸関の北側まで来たんとちゃうか?実際ここの北隣の願河原集落にはあちこちに見かけるで?」
なるほど。それなら話の筋が通る。
僕は今度時間がある時に賽の河原に行ってみようと思った。
場合によっては書こうと思ってるミステリー小説の題材にしてみるのも面白いかもしれないし・・・。
「そういや2年くらい前かな。某売れっ子の推理作家が佐戸の賽の河原を題材にしたミステリー書いとったな。ホラ、浅見〇彦シリーズの作品で『佐〇伝説殺人事件』とかいうタイトルやったっけな?」
う、それじゃあ二番煎じになってしまうじゃないか・・・。
僕の企みはものの数秒で消え去ってしまったのだった。
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→2を回答した場合
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「曰く付きかどうかは知らないですが・・・。海部大橋って凄い高さですよね。転落事故とか無かったんでしょうか?」
一応手すりはあったが、落っこちたらまず助からなそうな橋を思い出しながら聞いてみた。
「俺の知る限りでは無いな」
北さんはそう答えたものの、少し考える素振りを見せると思いついた様に言った。
「本間。その話、使えるかも知れんで?」
「え?」
「俺が書いてるオカルト物の記事は殆どデッチ上げや。あの橋から見える景色、有無を言わせない迫力があるやろ?その絶景の写真撮って、例えばそうやなあ・・・。自殺の名所ってことにして、加工した心霊写真と記事を作ればウケるかも知れんで?」
「え?そんな話を作っちゃうんですか!?」
「せや。大体オカルト記事なんてそんなもんやで」
今日の夕方海部大橋に行ったとき、僕は余りの高さに腰を抜かしてたが、確かマナミさんは夕日を美しそうに眺めていた。それにあの場所はマナミさんのお気に入りの場所だとも言っていた。
「あの・・・北さん。僕から話題を振っておいて何ですけれど、その話無しにしていただけませんか?」
「なして?」
「あの場所、マナミさんのお気に入りの場所なんだそうです。寒戸関村のPRにしたいとも言っていました。それを自殺の名所に仕立て上げちゃうのはマナミさんにとって良い気はしないと思うんです」
「そう言うことか・・・ならしゃあない。この話は無しや」
北さんはアッサリと話を取り下げてくれた。
物分かりの良い人で助かった・・・。
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「ところでなあ、最近オカルト記事ばっか書いといて自分でも飽きてきた頃なんや。実はな、ちょっと違う方向の記事に挑戦しようと思ってる所なんや」
北さんは冷奴を食べながら言う。
「と言うと、どのようなジャンルに挑まれるおつもり何ですか?」
「埋蔵金や」
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