第25話 テストの勉強会
「ケーキ、美味しかったね。やっぱり1個で良かったかも。2個食べたら夜ゴハンが食べれなくなるよ」
「俺もケーキは1個で良いと思う」
「2人で行ったら、分けて食べれるから良かったね。また行こうね」
「そうだな。次も半分ずつ食べよう……その方が色々食べれるから」
ケーキを食べ終わって、俺達は美容室に向かっている。
九条さんは着替えたら帰宅する予定だ。
「次に行く日が楽しみ。そうだ、さっき思ってたんだけど……藤堂くんのお父さんって『
「そうだけど、それがどうかしたの?」
たまに珍しい名前って言われるから、九条さんもそう思ったのかな?
「名前に『冬』の字が入ってるって思ったの。藤堂くんには『秋』があるでしょ? それで、この前会った小春さんは『春』が入ってるなって……」
「ああ、気付いたか。……といっても、分かりやすいからな。実は『夏』も居るんだぞ。まだ九条さんは会ってないけど、一番上の姉さんは『夏美』って名前だよ。面白いだろ? ウチは『春夏秋冬』が揃ってるんだ」
「ふふふ、面白いね。やっぱり名前を決めたのは、お父さんなの?」
その通りだ。父さんが「俺に『冬』があるから子供にも季節を入れる」ってゴネたって、母さんから聞いている。
「うん。父さんは1月生まれで『冬』が入ったって言ってたよ。それで、夏美姉さんは8月に生まれたから『夏』になって、小春ちゃんは3月に生まれたから『春』。最後に余った俺が『秋』になった」
「じゃあ、藤堂くんは秋が誕生日なんだね」
「俺は7月だから『秋』は関係ないぞ」
「えー。なんか違う……」
残念な子を見る様な目で俺を見るな。文句は父さんに言ってくれ。
「そう言われてもな……あっ、美容室に着いたよ。中はお客さんで満員だから、裏から入ろう」
九条さんと店に入り「これから店に来るなら裏口から入って」と伝えた。
美容室は女子高生に人気で、今も店内に同じ高校の制服が見えたからだ。
九条さんは学校でも目立つし、表から入って奥に行くと関係者だと思われてしまう。
俺も同じ理由で、今日は焦って表から入ったけど、普段は裏口から入っている。
「分かった。じゃあ、来る時は藤堂くんに連絡するね」
「そうしてくれると助かる。今日なんて本当に驚いたんだぞ。母さんから『九条さんがアンタを訪ねて来てる』って急にRINEが入ったから」
「驚かせようと思ったの! 大成功だったね!」
楽しそうな笑顔になってるし、この様子だと連絡をしないで来る日がありそうだ。
まあ良いか……学校で見る怖い顔より、今みたいな笑顔の方が良い。
九条さんが休憩室に入り、俺はさっきと同じく門番役になった。
しばらく待つと、九条さんから「入って良いよ」と声が聞こえたので中に入ると……
「あー! 藤堂くん、髪を下ろしてる! どうしてグチャグチャにしてるの?」
……と、何故か九条さんに怒られた。
「どうしてって、後は帰るだけだろ? それに、帰る前に本屋に寄りたいから」
駅前のショッピングモールにある本屋だから、学校の生徒に会う確率が高い。
「……それなら私も一緒に行く。言ってくれたら、美容室に戻る前に本屋さんに行ったよ? 私が本を好きなの知ってるのに……」
九条さんも本屋に行きたかったの?
でも、無理だろ……さっきみたいなことがあると困る。
「言おうと思ったけど止めたよ。俺が制服だと、九条さんは目立つみたいだから。ケーキ屋を出る時にもあったでしょ? 美容室には俺の私服も置いておくから、一緒に行くのは今度にしよう」
「……分かった。でも、あれって、声をかけられたのは藤堂くんなんだけど……」
ケーキ屋を出る時に、店内で食べていた同じ学校の女子生徒から声をかけられた。
1年生に「何年生ですか?」と聞かれたので「2年生」と答えて回避したけど、本当に困ってしまい、九条さんのことまで色々と聞かれたからな。
九条さんが可愛いすぎるからだろう。
可愛いと女の子まで寄ってくるみたいだ。
「そういうことだから、本屋は次にしよう」
「……絶対に違うと思うけど、もう良いよ」
納得はしたけど、不機嫌そうに見える。
そんなに本屋に行きたかったのか……
「もしかして、少し怒ってる?」
「もう! 怒ってない!」
絶対に怒ってるだろ……
九条さんは可愛くて性格も良いけど、考えが分からない時が多い。
この後、九条さんの機嫌が良くなるのを待ってから帰宅した。
◇
連絡先を交換してから1週間が過ぎ、来週から中間テストが始まる。
今、俺は3人にテスト対策で勉強を教えていた。
「これで終わりだけど、質問はあるか? 無ければ終わるぞ」
「俺は大丈夫! 理解できなくて、質問すら浮かばないからな!」
涼介が理解してないのは知ってる。さっきまで寝てたんだから。
だから、咲良と香織にしか聞いていない。
「私は大丈夫よ。香織は?」
「うーん……私は微妙だけど、ノートのコピーも貰ったからテストまでに覚える」
サッカー部はテスト前でも練習があるけど、練習時間は短時間になる。
その練習が終わってから、文芸部の部室で勉強を教えていた。
「香織、ノートを見て分からない所があれば教えるよ。涼介はテストまでにノートを見ておかないと知らないからな」
渡したノートは、先生が『重要』と言った箇所を抜粋していて、一夜漬けでテストを受ける、涼介と香織に作った特別製だ。
「おう、俺も赤点は取りたく無いから絶対に読む。それじゃ、メシ食って帰ろうぜ。腹が減って限界だ」
「そうだな。俺もお腹が空いてるし、早く店に行こうか」
4人で下校するのはこんな日だけだ。
それもあって、テスト勉強の日は食事をしてから帰るのが恒例行事になっている。
学校を出て向かったのは、サッカー部が行きつけの定食屋だった。
俺は行ったこと無いけど、大盛でも安いらしい。
「オッチャン! 俺はいつもの日替わり定食を大盛で! シュウも大盛にするか?」
「いや、俺は普通で大丈夫だ」
店内を見ると大盛を食べてる人が居るけど、大盛って量には見えない。むしろ特盛に見える。
涼介以外は普通の定食を頼み、食べようとした時に、店に入ってきた子が俺達の席に近付いてきた。
「香織先輩こんばんは。先輩も来てたんですね」
「あら、
香織と話しているのは1年生の女子生徒2人で、サッカー部のマネージャーらしい。
「駅前の商店街まで行ってて、今から帰ります。先輩達こそ遅かったんですね」
「私達はテスト勉強してたの。あなた達もテスト勉強した方が良いよ」
さっきまで「勉強ヤダ」って言ってたと、1年生に教えたくなる。
涼介は同じサッカー部だけど、話したことが無いと言って会話には入っていない。
1年生達は隣のテーブルに座り、注文した後も香織と話していて、俺は涼介と咲良で別の話をしていた。
完全に3対3で分かれているけど、隣の会話も聞こえている。
「あなた達、それで店まで行ってたの? 同じ学校なら探した方が早くない?」
「2年生で探したけど、分からなかったって言ってました」
「それで、その翌日も同じ店に居たって聞いたから、私達も見たくて行ったんです」
「ふーん。2年生で、金髪の女の子を連れた男の子ね……私は聞いたこと無いけど、そんな人が居たんだ。そうだ、涼介達は聞いたことある?」
「──っ!」
食べていた物を吹き出しそうになった。
2年生で金髪の女の子と一緒。しかも同じ店に翌日って……もしかして……
「知らん。聞いたこと無い」
「うん、私も知らない」
「……お、俺も知らない」
2人に上手く便乗できたと思う。
まだ誰なのかは確定してないけど……
「やっぱり3人も知らないよね。その2年生が居た店って何処なの?」
「商店街のケーキ屋みたいです。2日連続で同じ店って聞いてます」
2日連続でケーキ屋……お、俺だ。
連絡先を交換した翌日の昼休み、九条さんから「やっぱり本屋さんに行きたい」ってRINEがあった。
急だったから「俺の私服が無いから無理」と断ったけど「ブレザーの上着を脱いだら大丈夫だよ」と言われて、試してみることにした。
そして、ケーキ屋の前を通った時だ──
「昨日のケーキ美味しかったな」
「美味しかったね。そうだ、今日も食べに行かない? 昨日みたいに分けて食べようよ」
「昨日も食べたのに今日も食べるの?」
「次はいつ来れるか分からないでしょ? だから行ける時に行きたいの」
この会話でケーキ屋に行ったけど、店内に同じ学校の生徒は居なかった。
でも、あの店は外から店内が見えるか……
見られたのは諦めるしかない。
今は、この状況を「知らない」で乗り切ることに全力を注いだ。
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