-12- 「いっつードア-」

 ある日、公園の砂場に、ドアが一枚ポツンと立っているのを見つけた。


 砂場の中にドアだけ立っているので、ドアのこっち側もあっち側も、どちらも砂場でしかない。


 開けてみようか、迷う。


「水鏡君、危ないわよ」


 声をかけられ振り向くと、セーラー服のお姉さんが僕の後ろに立っていた。


「ドアという物はね、別々の場所を、仕切って繋ぐ為のものよ。だから、ドアがあると言うことは、ドアの向こうには別の場所が広がっているはずよ」


 お姉さんの言葉に、僕はドアから離れた。


「……まあ、向こう側が気になるのは私もだから、私が代わりにドアを開けてあげる。でも、こっち側から覗くだけよ。中に入ったら、絶対にダメよ」


 僕が頷くと、お姉さんはドアの前に立ち、ドアノブに手をかけた。


 そして、ドアノブを回してドアを開けたけど、お姉さんの体越しに見えるドアの中の景色は、こちら側の公園と何も変わるところはなかった。


 本当に、何てことない、ただのドアの様だ。


「なーんだ」


 僕は拍子抜けしてしまった。


 お姉さんはドアのこちら側から、首だけドアの中に突っ込んで、きょろきょろとドアの向こう側を見回している。


「特に何も変わったところは……」


と、言いかけたところで、お姉さんは何かを見つけたのか、ドアから飛び退いて距離を取った。


 一瞬遅れて、ドアが勝手にガチャンと閉まった。


「どうしたんですか?」


 僕は訳がわからず、お姉さんの顔を見上げた。


「あのドア、いっつー……一方通行だった」


 そう言って、お姉さんは僕の手を掴み、公園の外へと引っ張って行く。


「反対側にドアノブがなかったの。ドアの向こう側に入ってドアを閉めたら、多分もう、こちら側に帰って来れない」


 あれはドアじゃなくて、罠だったのか。


 振り返ってドアの方を見ると、もうドアは無くなっていた。

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