第八話 箱根山中突破戦 ~豊臣秀次~
「秀次様。こたびの戦にて、内通者もしくは離反者と考えられる者の目星はついております故、主力軍を引き連れて早急に小田原城へと向かうが良策と考えられまする。」
「この私はその上で何を致せばよいのじゃ?」
「秀次様には、徳川家康を追っていただきたく存じまする。」
「.........家康殿か。確かに怪しいのぉ....。」
「わかった。わしは主力軍を引き連れて箱根山中の突破に向かい、先鋒の家康隊の背を追うこととする。」
「.......して、そなたはいかにするつもりじゃ?」
「はっ! 恐れ多くも、それがしに別働隊を率いるご許可を。」
「わかった。欲する分すべて引き連れていくがよかろう。」
「はっ!ご配慮に感謝いたしまする。」
「よいよい。殿下の知恵袋であったそなたには十二分に力を発揮してほしいと思うゆえの判断だ。して、そのほうの頭の中にある戦略を早う教えてはくれぬか?」
「はっ!」
「秀次様。その前にこの官兵衛からの諫言に耳を傾けてはいただけませぬか?」
「はて何のことだ?」
ダダダダダダ
「いくら何でも急ぎすぎではございませぬか?」
「.......いや、これでよい。峠口の山中城戦は緒戦の序の口に過ぎぬ。たったの半日で陥れなくては、今後の展開に大きく影響が出る。一刻も早く行動することによって、相手方の連携は崩され、中枢は麻痺するのだ。官兵衛が申しておった通り、ここからが正念場にて、より一層気を引き締めよ。」
「はっ!!」
山中城攻略ののち、秀次は尚も馬足を緩めることなく前進する。
我が軍は現在峠道の入り口を突破し、すでに山中で戦闘が起こっているという家康隊の背を追い、軍の気配すらなき閑散とした道中を行軍していた。
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「秀次様は敵方を気にせず道中をとにかく素早く行軍してください。隊列と兵站の伸びは無視し、箱根山を迂回することなくまっすぐに侵攻して小田原城包囲に取りかかってくだされ。さすれば敵は城内に多数詰めているはずの軍を動かせなくなり、箱根以西の拠点は完全に孤立することとなるでしょう。そしてそれまでの間、我が家中の猛将後藤基次率いる別動隊が要所を奇襲し、山間の敵部隊を徳川家康隊へと誘導いたしまする。」
「おそらく敵軍は、山間のこちらと、あちら、そしてそちらのうちのいずれかに潜んでいるはず。しからば、秀次様の軍を消耗させることないよう、上手く誘導しこれをせん滅してみせましょう。」
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「官兵衛のおかげでこの本軍八万を温存して包囲に取り掛かれそうだ。」
「何から何まで官兵衛に助けられてばかり、、ここはなんとしてでもその助けを有効に使い次期関白としての意地と尊厳を見せつけてやろうぞ!」
「オオオ!!」
事実、この判断は最も適切であり全く間違っていない。
しかし、想定外の事態とはよくあるものでその端緒は重大だ。
「伝令!!」
「どうした?軍規を乱すものでもあったか?」
「いえ、それが、後方より来るはずのない敵軍が猛烈に攻勢を仕掛けてきており、すでに後方部隊が大きな損害を受けている様子!!山内一豊隊が部隊の潰走一歩手前のところを回避してことに当たっておりまする!!」
「!?」
「さらに呼応するかの如く前方の徳川家康隊がこつ然と姿を消した模様にて、我が隊は完全に孤立!!」
「抜かった!!おのれ....」
「どうされますか殿。」
「どうするもこうするも無い!官兵衛の策が根から覆ったのだ、急ぎ官兵衛に急報を伝えよ!」
「はっ!」
「我らはここより身動きがとれぬ。よって後方の支援に回り、周囲の防備を徹底的に固めよ。また隠密をここより数里に渡り走らせ、本陣の布陣にふさわしい地点と敵軍の位置を探してくるのだ。」
「はっ!」
「どうやらここが正念場のようだ。皆覚悟せよ!」
「オオオ!」
「本陣の位置は小高いこの地がよいだろ-------」
「秀次様。その必要はございませぬ。」
「なっそなたは、、」
「秀次様。戦場はこの家康が受け持ちましょう。あなた様は一刻も早く小田原の城へと向かわれるべきです。」
「家康殿がなにゆえこちらに......」
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「---------秀次様。この官兵衛よりの忠告にござりまする。もし徳川家康が本軍に対して進言した場合、絶対にその手に乗ってはなりませぬ。例え我が策が崩壊しようとも。」
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