小田原征伐 小田原方面編
第六話 内憂外患
山中城決戦のほんの数刻前のことである。
秀吉の訃報は、副将を務める豊臣秀次と黒田官兵衛、そして少数の居合わせた忠臣のみに知らされ、緊急の軍議が開かれていた。
「.....ならぬ。叔父の死は隠せ。影武者を立てるのだ。そして私がこの軍の全権を負う。」
この軍議において出された意見は二つ。
一つは、豊臣秀吉の影武者を立てて、全軍の指揮を甥であり副将の秀次が引き継ぐというもの。
一つは、この本軍十七万もの大軍勢の敵前逃亡、即ち撤退だ。
官兵衛は秀次の意見を神妙な面持ちで聞き、思案にふけるように黙り込んでしまった。
選択は二つに一つ。だが、ここで撤退してしまっては豊臣家の威信に関わり、ひいては諸大名への統制が取れなくなり滅亡を招くであろう。
はたまたこちらで継戦したところで、秀吉の死がいつ外部に漏れるやもわからぬ中で戦うことも当然危うい。
この状況下、一度立て直して万全を期して取り掛かるべきだ。
しかし、全くその時間は無い。無いのだ。
そして.......
「.........」
「.........」
「官兵衛。そなたに私は話しておるぞ。」
「.........。」
官兵衛は苦々しくも一つしかない手段へと舵を取る決断をする。
「勝算は、、、まだあります。しかし、、、」
「なんじゃ。はっきりと申せ。」
「......殿下を殺めた者は、北条の手の者ではない可能性がございます。」
殿下暗殺は、北条の手の者ではない。この情報は私の情報網から得た物であり、信用性は極めて高いはず。
「.....なんと!?」
「理由として以下のことがあげられます。まず第一に、北条がここまでの中枢部に入ってくるはずがないということ。そして次に、もし殿下を暗殺するならば箱根峠を超える前ではなく、必ず箱根山中にて誅殺するはず。つまりこの機に暗殺するは時期尚早であり、北条方に必ずしも利が働くわけではないからです。」
「........ううむ。では、どのような人間がやるのであろうか。ここまでの中枢とあらば、内通者も考えられる。」
「いかにも。
「......なるほど。」
押しも引きもできぬこの状況に、その場は凍りつく。
しかし意外にも先程の
それはこの戦への執念や覚悟、信念にあふれる闘志の情ではない。
官兵衛はこの状況を楽しみ、そして高揚している。
「こたびの戦、負ける可能性こそございますが、そやつの策略とやらをしかと見極め、確実に息の根を止めて見せましょう。」
秀吉が枷にすらなっていた今までとは違う。
官兵衛自身の戦いが、今始まろうとしていた。
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