第1話 彼女との再会
あの夏祭りから一週間が経った。
俺は文化祭準備の為に高校から駅に向かっている途中だった。
「石井君!」
笑顔で制服姿の千葉さんが俺の名前を呼んでこちらに来る。
その制服は桜ヶ丘高校の制服だろう。
桜ヶ丘高校と言うのは佐倉市にある高校だ。
本当に頭が良くないと入れない高校だ。
「ああ、千葉さんじゃないか」
「良かった、石井君元気そうで。 普段会えないからさ」
千葉さんはそう言った。
まあ、それはそうだろう。
俺は大勢の同級生達と高校に行っても交流なんてしたくなかったから
俺は千葉市から大分離れた松戸市の本郷高校に行った。
松戸に居ると、俺は気持ちが楽になった。
「まあ、松戸に高校があるから仕方ないさ。 そっちは佐倉でしょ?」
「うん、佐倉市面白いから来てみなよ?」
「今度行ってみようかな」
「何で松戸にいったの?」
「松戸に居ると、気が楽になったんだよ。 人は皆いい人でさ」
「良いね、幸せそう。 千葉に居た時よりいい顔してる」
千葉さんは優しい表情で優しく俺にそう言った。
俺はその表情に胸を締め付けられる。
この恋の音はきっと鳴り終わるまでに時間はそんなにかからないだろう。
「千葉さんも幸せそうだよ」
「そう? ありがとう。 ってか苗字じゃなくて、名前で呼んでよ」
「分かった。 俺の事も名前で呼んで欲しいな」
「いいよ」
彼女は笑っている。
「あのさ、一緒に帰らない?」
「いいよ?」
高校の正門前で話しているのも何だったので、駅に向かう事にした。
俺と瑞穂は何も話せずに駅に向かっていた。
あの頃の事を話そうとは思ったが、話すにしたって内容が重い気がした。
俺にとってあの頃の事は、俺を千葉市から遠ざけた理由だ。
あの頃の事があった以来、俺は同じ中学の同級生を苦手になった。
友達も居たけど、そいつらとは離れたくはなかった。
でもそれも虚しい結果になって、どうすることも出来なかった。
その事は今度話そうかな。
「瑞穂は何部になったの?」
「部活は入らない事にしたの。 また痛い目にあうのは嫌いなの」
「ごめんね。 止める事しかできなくて」
俺は瑞穂にそう謝った。
中学生の時、俺と瑞穂は同じ剣道部だった。
性別関係なく仲間なはずだった。
それなのに瑞穂は…。
これは俺のあの頃の話に繋がるから黙っておく。
言うだけで辛いし、瑞穂を悲しませたくはない。
「和樹が悪い訳じゃないよ。 悪いのはあいつらだから」
「だとしても俺は止める事しか出来なかった…」
俺は今も止める事しか出来なかった俺を恨んでいる。
こんなビビりな俺じゃなくて勇気のある俺だったらどんなに良かったかって
思うと、俺はやり場のない怒りに包まれてしまった。
「そんなに自分を責めないでよ、和樹。 和樹が居たからここまで来れたの」
「ごめんな、瑞穂」
「良いんだよ」
笑顔で瑞穂は俺に言った。
あんな事があっても気持ちを切り替えて頑張った瑞穂は偉いと思う。
瑞穂の頑張りを知れば知るほど、俺は瑞穂の事を好きになっていった。
そして俺らは駅に着いて、電車に乗った。
「どうして、俺の高校の前に?」
俺は疑問に思っていた事を聞いた。
「会いたかったんだよ。 和樹にね」
そう言われた瞬間に俺は胸を締め付けられる。
胸の音は高鳴っている。
「会いに来てくれて、ありがとう」
俺はお礼の言葉を忘れてはならないと思い、胸の音が高鳴る中で必死にお礼を
言った。
瑞穂の事を好きになってよかったと思わせてくれる瞬間だった。
電車は最寄り駅について、俺らは家まで歩いた。
俺と瑞穂は家が近かったのだ。
だから小学生の頃は一緒に遊んでいた。
「じゃあ、ここでね」
「じゃあな」
そして俺らは瑞穂の家の前で別れた。
胸が締め付けられると共に、恋の音が沢山した1日であった。
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